177話
夕飯に使った食器類も片付け終わり、お風呂も入って寝る支度をしている。
マシロさん、まだ部屋の隅で何やら書いてるね…邪魔しちゃ悪いと思ったけど、就寝の挨拶をすると筆記用具を片付け始めたので寝るみたいだ。
電気を消しておやすみなさい。
ー次の日ー
早朝、玄関前にまで迎えに来てくれたクマさんと挨拶を交わす…うん、人型の時はもうハグとか慣れたよ。
ハグの最中、マシロさんは私の頭の上に回避していた。終わったら肩に戻って来てたので、ローブが無い時は肩が定位置になりそう。それにしても寒い………。
話しながら東大通りに向かうと、あっという間だった。クマさん朝市には来た事が無いみたいでテンション高め。とりあえず腹ごなししよう。
つばめ朝ごはん
ガレット
牛串焼き
揚げパン
私は3種類だったが、クマさんは追加で色々買って食べているね。いっぱいお食べ。
ガレットは甘く無いクレープの様な感じで、生地にそば粉が使われている。中の具は目玉焼き。
食べやすい様に折り畳んで紙に巻かれて出て来たので見た目は本当クレープだね。
半熟のとろっとした卵と粗挽き胡椒のピリッとした辛さが相性抜群。
牛串焼きは前回も列を作っていたが、今日も並んでいた。相変わらず美味しい。クマさんは5本頼んで食べたが、よっぽど美味しかったのかまた列に並び直して追加で10本買っていた。屋台の人に「また来たのね」と言って笑われている。
コッペパンみたいなのに砂糖がまぶしてあった揚げパンを頬張る…砂糖のザリザリが美味しいよね。小ぶりだったので3つも食べてしまった。マシロさんも肩でソワソワしてたのでちょっとだけあげてみた。
「お腹いっぱい。ごちそうさまでした」
クマさんは最後にりんごを丸齧りして、満足したみたい。朝からよく食べたね。
朝食も済んだ所で歩きながら露店などを物色して行く。私は主に食料品でクマさんも色々な果物や蜂蜜を買い漁っていた。
「クマさん今日の夕飯食べにくる?」
「お姉ちゃん、僕の事あんまり甘やかさないで…お姉ちゃんの作った物ばっかり食べてたら、舌が肥えて軍の食堂でごはん食べれなくなりそう」
「…そっか」
「落ち込まないで!僕もお姉ちゃんのご飯食べたく無い訳じゃないから偶になら大丈夫だよ」
「わかった。食べたくなったら言ってね」
「うん、ありがとうお姉ちゃん」
買い物も粗方終わったので一旦それぞれの自宅に帰ってから、後で一緒に王宮に出勤する事になったよ。
家に着いたら買った物を仕舞ったり、マシロさんの字の練習を眺めたり…まだミミズがのたくってる様な字に見えるけど昨日より上手になってきたね。
ペンが刺さってるじょうたいから、触手で持つ?掴む?のに変更したみたい。その方が書きやすいのかな?
待ち合わせの時間が近づいて来たので支度をして、荷物を持ってマシロさんに行って来ますした。
ローブが無いので、長めの丈のジャケットとマフラーとは別に厚手のショールを羽織って出勤する…こんな事ならキチンとしたコートも買っておけばよかったな。ローブほど防御力が無いので外に出ると若干寒い。
クマさんと1階の店舗シャッター前で合流してから一緒に王宮まで歩いて出勤。初徒歩出勤だね。
「まさか王宮入ってからの方が時間がかかると思わなかった…」
「ここ広いからね」
王宮の南正門から入って、第7長官室に1番近い西受付に行くのに結構な距離があったよ。
いつもは馬車で王宮の西門から入っていたので、歩くとこんなに距離があるとは思わなかった。早めに家を出て来てよかったよ本当。
第7長官室前でクマさんと分かれて、私はノックをして入室する。まだ誰も来て無い様だ。
給湯室の冷蔵庫にお昼ごはんを仕舞って、ユリエルさん用の苺ジャムを本人の机の上に置いてから、コンスタンティンさん宛に『自宅の登録者増やせませんか?女子会したいです』と、手紙を書く。
割り振られた翻訳の仕事をこなしていると、ユリエルさんが出勤して来たので挨拶。
「ユリエル長官、おはようございます。苺ジャムを昨日煮たのでよかったら食べて下さい」
「…あぁ。これか…………感謝する」
保冷袋に入った机の上の苺ジャムを確認したユリエルさんに、物凄い良い笑顔でお礼を言われた。
若干頬を紅く染めながら言われた姿は、まるで恋する乙女の様だ…超絶美人の笑顔破壊力凄い。
そして、代わりにローブを手渡される私。
「…洗濯済みだ」
「ありがとうございます」
私は昨日途中で帰ってしまったが、結局鈴木さんは大丈夫だったんだろうか?
モヤモヤした気持ちで仕事をしていると、ウルスラさんが朝の挨拶に来てくれたので、コンスタンティンさん宛の手紙配達をお願いする。
入れ違いでロジャーさんが出勤して来た。
「おはようございます。つばめさん、昨日はお祖父様がご迷惑かけた様ですいませんでした」
「おはようございます。私の方こそ身を挺して守っていただいて………鈴木さん体調大丈夫ですか?」
「体調は全く問題無いですよ。大祖母様と大喧嘩する位元気です。アレはどう考えてもお祖父様が悪いですから…ははは」
やっぱり鈴木さんが皐月先生に対して「母さん」って言ったの気のせいじゃなかったみたい。そっか…皐月先生のひ孫がロジャーさんになるのか。皐月先生の年齢が謎すぎる。
私が放心状態でいると、ドアがノックされてスキンヘッドの美丈夫が入室して来た。
「おはようございます。今日からお世話になる『累』です。よろしくお願いします☆」
『累』さんの挨拶終了と共に始業のチャイムが鳴った。
「……前使っていた席を使え」
「ユリエル長官、一応新人で入って来た事になってるんですから少しは隠して下さいね」
「……………あぁ」
顔の雰囲気は全然違うが、やっぱり『瑞希』さんだったみたいだ。喋り方がもろ『瑞希』さんだもんね。
名前呼び間違わない様に私も気をつけよう。
何だかまた濃い1日になりそうだな………もう既に自宅に帰りたくなって来たよ。
紙に『帰っていいですか?』と書いてユリエルさんに渡したら、グシャッと握り潰されてゴミ箱に捨てられたのでちゃんと仕事しようと思う。