175話
マシロさんは買った6冊の絵本を何回も眺めている…絵本だからか紙が分厚い作りで、子どもでも簡単に読める様になってはいるが、あの小さい体で1ページずつ本をめくるのは中々器用だと思う。
しかも、昼前に読み始めて今は夕方だから凄い集中力だ。
邪魔しちゃいけないと思って食事の支度が終わって、ユリエルさん用に苺ジャムとクマさん用の蜂蜜りんごジャムまで煮はじめて瓶詰めが終わった所でマシロさんが私の足元までピョンピョン跳ねて来た。ズボンの裾を咥えて?引っ張られる。
「マシロさん、何か用事ですか?」
こくり
そのまま開いた図鑑の前まで誘導されて、指さし?触手?になるのかな…マシロさんそんな事も出来たのね。
「『ペン』?」
こくり
「マシロさん、ペンが欲しいの?紙もいるかな?」
こくこくこく
筆記用具を出してあげると、鉛筆を持ち…って言うか完全に体に刺さってる様に見える。何やら書き始めた………絵か文字の練習かな?
私は別の紙にペンで『マシロ』と書いてマシロさんが書いているノートの横に置いた。
「マシロさんの名前はこう書くんだよ。これが『マ』で『シ』で『ロ』で『マシロ』」
ピョンピョンピョン
嬉しいらしい。一生懸命真似して書こうとしている姿が微笑ましくて、暫くマシロさんを眺めていた。
色鉛筆かクレヨンを渡したら、何か描いてくれそうだね。
ノートのままだと流石に捲りづらそうなので、紙を切り取って渡す。
自分の名前と図鑑や数の絵本を見ながら文字の練習を始めたので私はキッチンに戻って明日のお弁当の支度をはじめた。
ガラガラ
「おはよー…お姉ちゃん寝床貸してくれてありがとう」
「おはようクマさん。夕飯食べる?」
「いいの?食べたい」
「うん、じゃあカツ揚げるからちょっと待っててね」
「わかった………ん?」
クマさんも起きて来たので、先程量産したカツを揚げよう。
丸テーブルで字の練習をしていたマシロさんに気が付いたらしい。
「凄いね。字が書けるんだ…ずっと『スライム』って呼んでてごめんね。僕もお姉ちゃんみたいに『マシロさん』って呼んでもいいかな?」
ぺこり
「ありがとう。僕の事は『クマ』でも『ウェルエル』でも呼んで…呼べないね。どうしよう?」
どうするのかと思ったら、マシロさんはクマさんに鉛筆を差し出していた。私キッチンにいるけど、気になるので丸テーブルの近くに行く。
○クマ
ウェルエル
クマさんが紙に声を出しながら『クマ』と『ウェルエル』と書くと、マシロさんは『クマ』と書かれた方に歪ながらも丸をつけた。なるほど、話せないから筆談みたいにしたのね。
「じゃぁ、僕はクマって思ってね。よろしくマシロさん」
ぺこり
無事にお互いの自己紹介も終わった様なので、私はキッチンに戻り今度こそカツを揚げたり料理を温めたりした。
その間マシロさんとクマさんは何やら楽しそうにやり取りしている。時々クマさんが「へー!」「凄い上手」とか声が聞こえたので、筆談しながら文字を教えてくれてるのかも。
料理も準備出来たので、一回お勉強は終わりにして夕飯にする事にした。マシロさんは食べないそうで、部屋の隅っこの自分の布団横でまた何やら書き始めた。
クマさんが近くに絵本や筆記用具を移動してくれてたので、私は丸テーブルに料理を並べる。
マシロさん用の勉強机も買おうかな?買いたい物がまた増えて行くね。家具屋さんが北大通り沿いにあったので、今度覗いでみよう。
ー
マシロと家具屋で買い物
つばめ「マシロさん、本棚どれがいいかな?」
マシロ じーーー
つばめ「………」
マシロ じーーー
つばめ「小さいのより大っきい方がいいかな?大は小を兼ねるだよ」
マシロ こくこくこく
つばめ「そしたらこのサイズ辺りだね。さっき吟味したテーブルに乗せる?それとテーブル下にする?」
マシロ じーーー
つばめ(凄い真剣に悩んでるなー。お買い物嫌いじゃ無いみたいでよかった)
家具の次は文房具屋でお買い物。マシロはまた並べられたクレヨンと色鉛筆選びで数十分フリーズする事になった。