154話
ー30分後ー
バタンッ
「ぜぇ…はぁ…ぜぇ……だ…だいに…と…とくしゅ…お…おうきゅ……け…いびたいしょぞく、たいちょ………」
「あ、ごめんね?隊長、副隊長は雇わないんだ。部屋のドアの前に立って後から来た他のにも教えてあげて」
記念すべき最初の1人は部屋に入って直ぐに外に出て行った。
何でも、入り口の一つを開放して罠が大量にある道なき道を進んで、45分以内にコンスタンティンさんの部屋にたどり着いた人が私のお店の面接資格をもぎ取れるらしい。
ちなみに2人目が入って来たが、コンスタンティンさんを見て倒れてしまったので失格になった。何事?
「いつもより魔力をほんの少し身体の外に出してるからかな?魔力量が少ないとああなるんだよ」
「へ…へー……ソウナンデスカ」
私はカールさんに引きずられる様にしてドアの外に出された2人目の方に同情したよ。折角こここまで来たのに。
それからドアを開けて無事だった人は10人。
そろそろ終了時間だとコンスタンティンさんが呟いたら、ドアをノックされた。
コンコン
「入っていいよ?」
「し…失礼しますっ!!!」
「それじゃ時間になったからはじめるね?」
11人の候補者が出揃い、こうして私の面接官の仕事がはじまった。き…緊張するー!
1回で済む様に集団面接に。
自己紹介からしてもらって、名前やら所属やらを言ってもらう。
履歴書もあったけど、どこどこの出身やら学校卒業、軍の配属先など書いてあったが、あまりよくわからなかったので質問して答えてもらった。
国名は分かるんだけど、流石に地方名言われてもまだ良く分からないんです。すみません。
まず、住み込みであることは全員了承を得た。皆んな高卒以上なのでお金の計算も問題無し。
しかし、その先が2人以外なんとも微妙だった。
「調理補助もあると思いますが、どの程度料理はできますか?」
「野営料理は得意です!」
「作るより食う専門です」
「味見ならお任せください!」
大体こんな感じ。
ちなみに野営料理は魔物を捌いて焼いたり煮込んだりするワイルドな感じだったね。
軍属だと大体の人は魔物を捌く技術があるのは驚いた。後は乾燥野菜が入ったスープ。
フィールドではこれにドライフルーツやビタミン剤入りのサプリメント、レーションと呼ばれる携帯食で済ませるのが普通らしい。余り長くなる様だと補給部隊から生の野菜や果物が届くとか。
寮に住んでいる人は食堂のご飯を食べているので、料理する機会があまり無いみたい。更に通いの既婚者でも自分で作らない人もいる。
候補者を2人に絞って話しを聞いてみた。
まず1人目の40代中野さん。
「中野さんは奥さんの調理を先程手伝うとおっしゃいましたが、どの程度ですか?」
「本当に簡単な物で、野菜の皮むきや下拵え程度です。サラダ位なら任されますが、味付けは妻がしています」
「住み込みですけど、お子さんは大丈夫ですか?」
「学園の寮に今年から娘が入っておりますので、問題はありません」
「わかりました、ありがとうございます」
2人目の20代ハルさん。もふもふ。
大事な事なので2回言わせて欲しい。初の至近距離もふもふ……あんまり今はしてないかな?何せ皆んな罠を掻い潜って来たので傷だらけの砂だらけだった。ハルさんも同じく。
今は毛艶の無い尻尾を脚に挟んで若干ガタガタ震えてなんなら少し涙目だ。か…かわいい!
「つばめ、無言で見つめてるとあの子泣いちゃうから何か喋ってあげて?」
「はっ!?失礼しました…。お弁当を作るとありますが、どんな物を作りますか?」
「サンドイッチです!ほ…他は肉のオカズを少々です!?」
「通いみたいですけど、寮には入らないんですか?」
「えっと…家が貧乏で………」
大体独身者は寮暮らしだが、なるほど寮も何かとお金がかかるみたい。
特に獣人族のハルさんは食費が凄く掛かるので、お昼ご飯はお弁当持参で食堂は使って無いらしい。
「わかりました、ありがとうございます」
「差し出がましい様で申し訳ありませんが、出来ればハル君を採用してやって貰えませんか?」
「な…中野さん!?あの、えっと…」
なんと、私の店の従業員に採用されると結構な額の危険手当がつくみたいだ。お…おぅ…それは私も知らなかった。
その前に雇用形態とかどうなってるんだろう?お給料も居住費も軍が出すらしい。
「今更ですけど、私は従業員の人件費がかからないって事ですか?」
「こっちが軍から1人採用してくれってお願いしてるから当たり前だよ。むしろお金出されちゃうと困るかな?軍は副業認めて無いからね…アルバイトの子は別だけど。未成年はここにはいないから、皆んな本職だね」
「お金は払わないので、3食賄いオヤツ付きとかにしても大丈夫ですか?売る物の味見をして欲しいんです」
「それくらいなら大丈夫かな?」
結局、採用はハルさんに決定。
他の方々にはお帰りいただいて、ハルさんと今後の話しをさせていただく。
流石にお弁当位しか作れないと困るので、お店が開店するまでの間に、料理免許の取得やその他諸々仕込んでくれるそうだ。助かります。
具体的な内容は私の生活が落ち着いたらまた話す事になった。