148.5 椿3
3番目の兄が持って来た本は、恋愛小説と言うわたしには未知の本だった。ハッキリ言おう。
「す…素敵っっっ!!?」(赤面)
絵本などでお姫様や王子様やエルフ族が出てくる本は多少読んだことあるが、コレがオ・ト・ナのシンデレラ。
特に王子の『カミュ様』の甘い言葉が素敵で…1回読めば大体文書が頭に入るわたしは何度も読み返す必要など無いのだが、思わずカミュ様のセリフを指でなぞり、ついでに音読してしまった。
そして、現実に直面して泣いた。
「何で泣いちゃったの?」
「わ……わたしには…グズッ……わたしには王子さまが…迎えに来ない……兄と結婚できない………」
「えぇ?そこ?あ………いや、ほら……ごめん」
わたしは神聖帝国の皇女で、王子様ポジションの皇子は兄達だ。
そして知っている。カミュ様は既に亡くなっている人だと他の本で読んだ。白馬のカミュ様来ない。
「ひど…ひどい……」
「いや、物語の話しだからそんな現実的に考えないで?面白かった?」
「カミュ様素敵…グスン」
後で知った話しだが、わたしにはまだ早いと恋愛関係の本は城内の図書室には無いらしい。
この本も兄の隠し秘蔵本で、普段はわたしの目に触れない所に仕舞ってあるみたいだ。
「他にも隠してあるの?」
「あ………」
結論から言うと、わたしは大量の真新しい絵本を手渡された…半分はエルフ族が主体。兄秘蔵の本はわたしにはまだ早いらしい。
「大体恋愛系に出てくるエルフ族ってカミュ様だからね。椿は絵本あんまり読まなくてすっ飛ばして普通の本読んじゃってたから、この際読んで来なかった絵本も読もう?」
「はい」
はじめはカミュ様に釣られて読んだ絵本だったけど、中々面白い。
あぁ、そうか…わたしに足りなかったのはこの絵本達だったんだ。お茶会で当たり前に出て来る題名の本をわたしは知らなかった。
あの時は「まだ絵本なんて読んでるの?」と思ったけど、今ならわかる。
人の善悪や簡単な数の数え方、特に情緒面の成長がわたしには足りてなかった。
学園では「子どもだから仕方ない」と皆んな思ってくれていたんだろう。
同年代にはそれは通用しない…子どもには子どものルールがあるし、互いに成長して行くものだ。
ある令嬢がわたしが本好きだと言ったら、お気に入りの絵本の話しを一生懸命してくれた。
その時のわたしは「まだそんな幼稚な本を読んでるの?」と返してしまった事がある…もちろん令嬢は泣きながら帰ったけど、あの時わたしはその絵本の内容を知らなかったのだ。
わたしは自分の知識量が彼女達より遥かに上だと知っていたし、そんな彼女達を見下していたのだろう……多分露骨な態度も取っていた。
ドレスのデザインの話しを知らなければ、彼女達から学べばよかったのだ。
今だからわかる、あれば無い…馬鹿だったなわたし。
令嬢の擬態では無くキチンと向き合うべきだった。本だけで無くて、彼女達の何気ない会話からわたしの知らない事やコミュニケーショの仕方を学べばよかった。プライドが高すぎたとも言える。
「わたしって子どもだな……」
「何当たり前な事言ってるのよ。まだ6歳ですもの。そんなに急いで大人に成らなくてもいいのよ?」
母親の膝に乗せられながら、絵本を読んでもらうと言う普通の事をしている。コレが普通なんだ…わたしには余り経験がないので少し気恥ずかしい。
家族は多忙だ。父も母も毎日国の為に、それこそ寝る間を惜しんで仕事をしている。
歳の離れた兄達や従兄弟達も、仕事や将来の勉強の時間があるので忙しい。
そんな中生まれたわたしは幼心に…今でも幼いけど、余りわたしに手を煩わせて欲しくなかった。
はじめて入った図書室で本を読み、その後は毎日静かになるべく迷惑かけたく無くて生きてきた。本を読む事が楽しくなったって言うのもあるけれど。
正直、父親に交換留学の話しをされた時は「自分って他国に追いやられる位いらない子なのかな」と本気で悩んだ。
今は誤解も解けたし、その話を父本人にしたら謝りながら号泣された。わたしが思っているよりも、家族はわたしの事を愛してくれていたみたい。
コミュニケーショは未だに不慣れだけど、会話って大事だなと思った。
兄曰く、わたしには甘える事も大事らしい。最近家族のスキンシップが盛りだくさんだ…人肌って眠くなる。
「あら、寝ちゃったの?おやすみ私のお姫様」
母親の温もりに包まれながら、わたしはこの日幸せな気持ちで眠りについた。