148.5 椿2
入学して最初のテストの総合順位が張り出された。わたしの順位は丁度真ん中くらい。
「凄い…」
「椿は頭もいいんだな。凄いよ」
「その凄いじゃ無い。わたしより『上』がこんなにいる」
「へ???」
学校のテストで満点以外取ったことなかったから驚いたし、何よりもわたしよりテストの点数が上の人がいるなんて。と、言ったら笑われた。
「確かに満点なら毎回1番だよな!ははは!」
そう言って隣で笑っていた獣人族の青年は総合10位でわたしより遥かに上だ。
詳しいテストや実技の順位や点数は個人しか知らないが、後で教えてもらったらほぼ全ての実技やテストで高得点だった……しかし、魔力量だけは他のテストの点数を見ると余り高くない。
「こればっかりは持って生まれた才能だからな。仕方ないさ」
「世知辛い…不公平」
「何言ってるんだよ。所詮学内のテストの順位だ。就職したら俺くらいの奴なんてこの国にウジャウジャいるって」
その言葉を聞いて、わたしは衝撃を受けた。そうか、うじゃうじゃいるのか………なんて素敵な言葉だろう。上には上がいる。国内の同年代で1番を取ろうが、大人になったらそんなモノ関係ないんだ。
「わたし早く大人になりたい」
「お…おう。5歳だから先は長いな」
「もう6歳になった」
「そうか、頑張れ。俺はもう成人してるけどな」
「レオンは20歳だったの?」
聞いたら獣人族の青年…レオンは16歳らしい。わたしと一緒で留学生だが、母国のベスティア国では15歳で成人だもんね。大人だぁ…羨ましい。神聖帝国の成人は20歳だから、わたしが大人になるのは暫く先だ。
学内のテストで衝撃を受けたわたしは、それから前にも増して、本を読む様になった。
ここは読んだ事の無い本がいっぱいある。
授業で習った内容の関連書籍はもちろん、勉強しながらあらゆる本を網羅した。
そんな暇さえあれば図書室に行くわたしに、レオンはある時質問を投げかけた。
「お前ってそんなに勉強して、将来何目指してるんだ?」
「…………考えたことなかった」
親の決めた相手と結婚して、嫁に行くんだと漠然と思っていた。今、真剣に考えるとどうもしっくり来ない将来な気がする。
「わたし政略結婚しなくてもいいのかな?」
「いや、俺にはわからん。一回親に聞いてみたらどうだ?」
入学してから初めての長期休暇。わたしは帰省して両親と兄3名に将来の事を聞いてみた。
「わたしに政略結婚の予定ありますか?」
「ブフーッ!!?」
ちょっとストレートに聞きすぎたみたい。父親が飲んでた紅茶を吹き出してしまった。
学園で何があったのか根掘り葉掘り聞かれたので、とりあえず日々の生活と、友人に将来何になるのか聞かれたので疑問に思ったと答えた。
「ハッキリ言うと、話し自体は幾つか出ているが、決定権は椿にある」
「そうだったんだ………」
「椿は将来何になりたいの?」
「まだよくわからない………」
その日わたしは部屋までどうやって帰ったのか覚えていない。
気がついたらベッドに横になって寝ていた。瞼が重い………鏡を見たら目が腫れぼったくて、真っ赤になっていた。
侍女が3番目の兄が来たと知らせてくれたので、部屋に通してもらった。
「昨日はビックリしたよ。急に泣き出すから」
「………ごめんなさい」
どうやらわたしは父親の話しを聞いた後に大泣きして、泣き疲れてそのまま眠ってしまったらしい。
あんなに泣いたのを見たのは赤ん坊の時以来はじめてだったので、周りもビックリしたそうだ。
「結婚するのはそんなに嫌だった?」
「よくわからない………でも、何だかしっくり来ない…ずっと本を読んで生きて行くと思ってたの」
「そうか。椿は初恋ってまだなの?」
「は…初恋?????」
初恋と言う言葉自体は知っているが、自分にそれが訪れた事は無いと正直に兄に話した。
そしたら「皆んなには内緒だよ」と、言って薄い本を1冊わたしに手渡して部屋を出て行った。
何の本当だろう?題名は『シンデレラ』副題がある………。
「『カミュ様バージョン』???」