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148.5 椿1



 私の家には本が沢山あった。



 小さな頃から本に触れる生活が当たり前で、毎日毎日沢山の先人たちの知識を身につけた。


 この環境が普通では無いと知ったのは、お友達と初めてお茶会を共にした時に感じた違和感で判定した。



「今日のドレスは流行りの…」



「あら、こちらの紅茶は今年初摘みの…」



「椿さんはどう思うかしら?」



「え?わたし?」



 最近の流行りやドレスのデザイン、宝石の話しを振られて何も答えられなかった。

 最近の事は本などに書いて無かったから………。


 代わりに初摘みだと言われた紅茶の産地は、今年の長雨で味が例年より少し劣ると言ったら嫌な顔をされた。


 ドレスの生地が法改正により税金が高くなったと言ったら、話しを振られなくなった。


 一通りの作法や国内だけでは無く、近隣諸国の外交関係や他国の言葉など知っていたが、どうやら私の知識は他の子と比べて偏っているらしい。

 


 今思えば、10歳前後の少女達にそんな話し難しくてよくわからないだろうなと思う。

 寧ろ、ここに集まった子達は早熟な方だったんだろう。


 親に話しが合わなかったと伝えたら、次は年齢が上の子達とお茶会をセッティングされた。やはり話しが合わなかった。


 ドレスの色の話しをしていたので、染め物に使われている魔物素材がいいと言ったら変な顔された。細かな作り方を教えたら泣き出した子や失神した子もいた。



「何故?」



「普通の令嬢は、今年流行りの色のドレスが魔物素材から染め上げてるなんて知らなかったんだろう。そもそも、細かな手順まで説明したらそりゃな……」



 兄が「スプラッタな話しはダメだ」と言ったけど、わたしは困った。デザインはよくわからなかったので、せっかく生地を勉強したのに。


 母は「貴方が国の書類を面白がって読ませるから」と苦言を言っていた。

 父は笑って「この子は天才だ!」と、言ってそれからも紙の束を読ませてくれた。


 もう、家の図書室の本は全部読んでしまったので、わたしは喜んで父に与えれた書類を読んだ。ますます同年代の子とは話が合わなくなった。


 『精神と年齢』と言う本に習って、他の令嬢と話しが合う様擬態したが、お茶会などはわたしにはつまらない苦痛の場となった。



 お茶会だけでは無く、早めに通い始めた学校も苦痛だと思ったそんな時。交換留学生の話しを父に言われた。他国に行って見ないかと…。



「あちらは本が沢山ある」



「行きます」







 こうしてわたしは神聖帝国の帝都からカイザス国への留学生として、他国に足を踏み入れた。








「貴方は中等部への入学は向いていない」



「そんな…」



「学園都市の高等学校に行くのはどうだろう?」



「本は沢山ありますか?」



「読みきれない程あるよ」



 当初の予定とは多少変わったが、わたしは学園都市で寮生活をする事になった。




 最初は自分で何でもしなければいけないと言う生活は大変だったが、本の為に頑張った。と、言うか…自分で脱ぎ着出来ないドレスを着なくていいので、わたしの精神的苦痛は寧ろ減った。ワンピースって楽。



 後は、思っていたよりも授業が楽しかった。神聖帝国の小学校の教室でさんすうの授業を欠伸を噛み殺しながら聞いていた時が懐かしい。アレはとても大変だった。





 ただし、体育の授業は思ったよりも大変…主に相手が。



「えっと……よろしくな?」



「よろしくお願いします」



 わたしの身長が低すぎて、組み手の授業で屈んでもらうのは申し訳無い気がしたけど、くじでランダムに決まったのでしょうがない。



「てい!」



「………」



「ていっ!」



「………」



 本当に申し訳ない。

 身長差で言ったら倍近いだろう。わたしじゃ無くて、くじ運を恨んで欲しい。



「………ずっと疑問だったんだけど、お前っていくつなの?」



「5歳です」



「そっかぁ………身体強化の魔道具って知ってるか?」



「はい…」



 身長は倍近く違うが、年齢が3倍違う獣人族の青年は先生に掛け合ってくれて身体強化の魔道具の貸し出しが許可された。



「使い方わかるか?」



「はい、使ったことあります」



「思いっきりやってみろ」



「はい」



 そう言った彼は、私の回し蹴りを受けて吹き飛んで行った。

 あわや壁に激突と言う所で、クルッと回って壁をひと蹴りして目をキラキラさせながら戻って来た。獣人族の身体能力凄い。



「お前って魔力量も凄いんだな!」



「えっと…はい。貴方は凄い運動神経なんですね」



 照れると言いながら立派な尻尾をブンブン振っている獣人族の青年のお陰で、わたしの体育の授業はそれから結構楽しい時間に変わった。






 クラスの人達も、留学生と言う名の5歳児にどう接していいかわからなかったのだろう。この体育の授業をキッカケによく話す様になった。



「沢山食べておっきくなるのよー。はい、あーんして」



「あ、あーん?」



「きゃー!かわいい!?」



「椿ちゃん、こっちの苺も美味しいわよ?あーん」



「あーん」



 こうしてわたしの学園生活はやっとスタートラインに立った気がする。

 年相応かは別として、本では学べない『青春』?を謳歌する時となった。





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