表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
143/499

130.5 王妃6



 文官の中には父も入っていて、母共々処刑が執行された。

 わたくしを無理矢理陛下と結婚させた罪と、妹を人質に取り恐喝した事や育児放棄や虐待等、他にも色々悪どい事をしていたらしい。


 陛下もこの王宮と呼ばれる政府機関の場所の乗っ取りや法律無視、未成年のわたくしに結婚を強要後暴漢したとして罪に問われた。


 王宮に住んでいたにもかかわらず、被害者側のわたくし達は罰金の一部を受け取らない代わりに難を逃れたが、上の娘はそうでは無かった。



 旦那様の親戚が罪に問われて、連帯責任の枠に入ってしまったのだ。娘の魔力の強制徴収執行後に手紙が来た。



『旦那様は離縁しても構わないとおっしゃってくれましたが、私が連帯責任の枠に入れば旦那様の妹の魔力徴収が数年分で済むそうです。お母様、今まで育てていただいて感謝しています。愛しています。どうか先立つ不幸をお許し下さい』



 妹とは多分、わたくしの息子と同い年の子だ。一度だけ会った事があるが、恥ずかしがり屋さんの可愛らしい子だった記憶がある。






 上の娘を妊娠したての頃は恨みもしたが、産まれてからは可愛らしくて愛おしくて、毎回必死でお乳やミルクを飲む姿が大好きだった。


 初めて捕まり立ちした時に盛大にこけてギャン泣きしていた。


 上の娘の抱っこををせがむスタイルは両手を広げて「だぁっこぉぉぉっ!」だったが、下の娘が生まれてからはわたくしのスカートを引っ張るスタイルに変わった…妹の小さかった時によく似た姿で懐かしくなったのを覚えている。


 小さい頃はよく喧嘩していた子ども達だが、上の娘は大きくなるにつれてよく下の子ども達の面倒を見てくれて第2の母だった。


 勉強はあまり好きではなかったが、好奇心旺盛で身体を動かすのは得意だった。学園で数学の授業の単位を落としそうだと泣きついて来た時は遺伝かしらと思った……おかしいな?ちゃんと教えたはずだったのに。



 『姉上、お付き合いしている人がいるみたい』



 と、下の娘にこっそり教えてもらった時は、わたくしにいつ話してくれるかとソワソワした…最終的に痺れを切らしてわたくしの方から聞いてしまった。




 結婚してこの後宮から出て行く時は思わず涙ぐんでしまった。

 わたくしのお腹に入っていられた位小さかった命がここまで大きく立派に成長したのかと、誇らしいと同時に巣立って行く寂しさは、今日の辛さよりも何十倍も何百倍も何千倍も何万倍も軽い物だった。そうか……もう上の娘はこの世にいないのか。










 わたくしはずっと泣いた。


 泣いて泣いて泣き果てて、眠ってまた泣いて……どれくらい時間がたったのか…世界の終わりを望む位には絶望し、これからの事を考えなければと思う程には頭は少し冷えた。



「バ…ババァ、どうしたんだ?」



 久しぶりに息子から話しかけられたが、今は話せる状態では無い…また涙が出てきそうだ。


 上の姉からの息子宛の手紙を手渡した時に扉が勢いよく空いた。

 息を切らせた下の妹が、仕事中のはずなのに部屋に転がり込んで来て、わたくしの顔を見て顔色を悪くしていた。



「昔勤めていた侍女が亡くなったと…」



 2人いた侍女の片方は、上の娘が12歳になるのを待ってくれてからお嫁に行った。


 子どもも1人産まれて、ここでの生活が生かされたと手紙で感謝を伝えられた。


 侍女は現在1人だけで今日はお休みで明日来る。

 そうか…彼女も亡くなったのか……わたくしは下の娘宛の手紙を手渡してまたベッドに突っ伏して泣いた。


 わたくしも死んでしまいたい。辛い。母に冷たくされても、父に脅されても、初夜だって、出産の痛みなんて幾らでも耐えてやるからどうかわたくしの可愛い娘を返して。






 しばらくして寝室に下の妹が涙でぐしゃぐしゃの顔をして入って来た…わたくしに抱きついて嗚咽を漏らしながら啜り泣きをはじめた。

 濡らしたガーゼで顔を拭ってあげていた…あの頃にどうか時を戻して。



「何故…何故こんなに魔力の…ぐすん…強制徴収のじ…時期が早いの…?先週は…せんしゅうまでげん…きにしてた…の…に…うぅ……」



「……わからないわ。わからないのよ……」



 罪状が出てから執行の時間が1週間かからないと言うのは異常だ。

 命に関わる事なので普通内容は吟味され、執行先が半年以上かかると言うのはざらで………しかも執行されてから亡くなるまでが早すぎる。




 そうか、この国は…滅びの時は近いのかもしれない。わたくしはどうなっても構わないが、下の娘と息子と妹達だけでも巻き込まれない様にしなければ。





 わたくしの名前は冬美・カイザス。

 カイザス国に100年続いた『仮初の玉座』時代末期をたくましく生き抜いた女。


 現在離婚協議中の書類上はまだ夫は、わたくしが離婚届にサインをすると魔力の強制徴収が寿命ギリギリまで執行され、その先は学園都市の研究機関に引き渡されるそうだ。


 慰謝料は300万ぺリンに引き上げられたが、養育費は200万ぺリン。全然足りないのでまだまだ引き上げて行きたいと思う。


 上の娘よ、わたくしの妹までは無理かもしれないが…これから先はたくましく生きて行くから、今日だけは貴方の為に泣く事を許してね。


 いつか天国で会えたら「あの時生まれてきてくれてありがとう」と貴方に伝えたい。今までも、そしてこれからいつまでも貴方の事を愛しているわ。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ