130.5 王妃5
どうにかこうにか陛下に服を着せたら寝所を後にした…陛下も一緒に。
わたくしの部屋の前まで来てみたら、中から泣き声がする。
流石に遅かったな…ドアを開けると、困り顔の侍女と、泣き喚く下の娘と上の娘が喧嘩していので仲裁に入る。
どうやら下の娘が夜中に目覚めて、わたくしがいない事に気づき、始めは啜り泣いていたが侍女に宥められてわたくしを待っていたが、うるさくて上の娘も起きてしまい、バトル勃発。
「よしよし、泣かないでお顔拭きましょう」
適度に濡らしたガーゼで下の子の涙と鼻水まみれのお顔を拭き、どうにか泣き止んだので皆んなで寝ようとしたらーーー。
「ははうえ、ドアの所にオバケがいます……」
オバケ?……陛下の事すっかり忘れてた。ドアの前に突っ立って固まっている。
「アレはオバケではありません。ちゃんと人間ですよ…足があるでしょう?」
「たしかめてきます」
そう言うと上の娘は陛下の元へ行き、脚を触ったり、手を触っていた…我が娘ながら勇気あるわね。
下の娘もモドモゾし始めて身体をのけぞらせる…抱っこから床に降ろしてのサインだ。
下の娘も陛下に近づき上の娘の真似をしはじめた。
「ははうえ、体がつめたいからきっとオバケです!」
「おばけ?おばけヤッ!」
2人の娘はわたくしの元に逃げかえって来た。陛下は未だに彫刻の様に固まったまま。
「本日はもう夜も遅い時間なのでお帰りください。おやすみなさい」
「おやすみなさい」
「なちゃい!」
娘2人は手を振っていたが、陛下は何も言わずに帰って行った。侍女にねぎらいの言葉をかけてわたくし達は就寝した。
「本日も私の寝所に連れて行きたい」
「馬鹿言わないで下さい。寝不足で無理ですよ…せめて明日以降にして下さい」
下の娘が中々寝付けなくて、わたくしも寝不足だ。下の娘は昼間にお昼寝してスッキリした顔しているが、わたくしはその間上の娘の遊び相手をしていた。
今日は妹も来る日では無かったのでヘトヘトだ………翌日に延期になったが、当日の夜に中々娘達が寝ない。
どうやら寝たら、わたくしが居なくなるのを察しているのだろう。下の娘がぐずり出したのであやしていると陛下が来てしまった。
「すみません、今日も無理そうです」
「オバケ!」
「ばけっ!」
あぁ…これではまた興奮して寝る時間が遅くなってしまう。昨日も中々寝なくて苦労したのに。
「そなたは子どもと私、どっちが大事なのだ?」
「子どもに決まっているでしょう!」
子ども達の寝かしつけがうまく行かず、寝不足でイライラしていたわたくしは陛下の言葉に強く返した。当たり前なこと聞かないでよ。
ドアを乱暴に閉めてから、陛下は部屋を後にし……そして、この部屋に2度と来る事は無かった。
ちなみにわたくしは妊娠していた様で、次の月からまた悪阻生活が始まった。3人目は男の子だった。
目まぐるしく月日は流れ…娘2人が学園を卒業し、上の娘は学園で知り合った男性と交際し、目出たく結婚。
さて、そろそろ息子も学園に通う頃だと思っていたら異変が起きた。
「………離婚ですか?」
「あぁ、離縁してもらいたい」
久しぶりに寝所に呼び出されたら、離婚届けを渡された。
正直言って離婚するのは構わないが…いや、待てよ?実家に出戻りは不安が大きい。あの父と母が喜んで迎え入れてくれるとは思わない。私1人でも嫌悪されてるのに……どうしよう。
しかも、慰謝料と養育費が全部で100万ぺリンぽっちだった。息子の入学費よりも安いわ…ふざけている。
また日を改めて話し合いをしようと言う事になったが、帰り際に陛下が私に質問して来た。
「そなたは私を愛しているだろうか?」
「何を今更…子どもを授けてくださった事は感謝しますが、アナタの事は嫌いです」
そう言うと何故か陛下は嬉しそうにしていた……え、気持ち悪いわ。嫌いと言われて笑うなんてどうかしている。
わたくしは足早に部屋に帰って来て、最近反抗期の息子に話しかけた……「うるせえ、ババァ」なんて言葉何処で覚えたのかしら?
その翌週、王族の殆どと一部の文官が罪に問われて、魔力の強制徴収と言う名の処刑が執行された。
その中には上の娘も入っていた。
わたくしはまた忘れていた…この世界はいつも不条理で理不尽だと。