127話
寝る前に中学校の地理と歴史の教科書を見る。
どうやらエデンの国々の地理と歴史が乗っているみたいだ………3学年分ザッと読んでから、気になる部分を改めて読み進める。
凄い…国名が変わったり、国内での内乱はあるが他国とは1度も戦争が無い。
日本の歴史だと第二次世界大戦とか産業革命とか習うけど、こちらだと魔物の大量発生…スタンピードを中心に学ぶ様だ。
近年で大きい物だと約100年前のゴブリンのスタンピード…エルフ族の国ハイルング国とドワーフ族の国フォーゼライド国で同時発生し、エデン全体で確認出来た戦死者だけで数万人以上、エデンの行方不明者等詳細不明。
特にエルフ族は人口の恐らく約半数が減って被害甚大。
どうやら結婚してからしか子どもが産めないのは、ゴブリンの苗床対策もあるみたいだね………異世界だなと改めて実感した。ゴブリン怖い。今日はこれ位にして寝よう。
次の日の午前中にユリエルさんが来てくれて、勉強再開だと教えてくれた。よろしくお願いします。
「………100年前のスタンピードは軍に所属していたので、私もハイルング国やベスティア国に行った」
そうか。ユリエルさん長生きだったね…見た目が若いからあんまり実感無いけど。
スタンピードが発生すると、その国から援軍要請が出されたら、他国から軍が送られる協定があるみたいだ。
行方不明者が多いのは、ゴブリンにパックンされて跡形も残らなかったり、城壁が壊されて他の魔物の餌食になたり、終息するまで結構な年数かかったので餓死者が出たり、死体を媒体にグール系の魔物が増えて二次被害がおきたり。
エデンは他大陸からの入国制限は厳しいが、今現在も戸籍管理が国ごとに違うので、詳細がわからないらしい。
「………言語を共通語に統一して、戸籍管理などもエデン内全体で共用する働きかけがある」
現在言語習得真っ最中なので、実用化されるのは少し先の話しらしい。
早くて獣人族の国ベスティア国、人族の国神聖帝国、カイザス国の3ヶ国で数年先に導入予定。
十数年後にドワーフ族の国フォーゼライド国。
エルフ族の国は未定。エルフ族の国ハイルング国は100年前のスタンピードの影響で今も国の立て直しでそれどころじゃ無いみたい。
歴史は後は生活魔道具の発展やらだったのでとりあえず一旦保留。
次は中級魔道具使用免許(一部フィールド限定)の授業をユリエルさんが教えくれる。
「………こちらを読んでフルネームでサインを」
手渡されたのは誓約書2枚。
内容を読むと、中級魔道具使用免許(一部フィールド限定)の受講内容の一部を一般人には秘匿する事や、フィールド限定の魔道具を許可の無い場所で使用しません。と言う同意書みたいな物だった。
1枚は関係機関に保管用でもう1枚は自分の控えらしい…サインをして、2枚ともユリエルさんに渡すと、ユリエルさんも確認者の為の欄にサインしていた……ユリエルさんのフルネームってユリエル・カミュって言うんだ。
「獣人族の方ってこう言う書類にサインする時フルネームってどうするんですか?」
ふと、疑問に思ったので聞いてみたら、どうやら自分の名前の後に片方の親の名前を入れるみたいだ。へー。
獣人族の人が自分で両親の名前入りのサインをするのは、婚約と結婚誓約書の2回。
婚姻届を出す時は片親入りの名前らしいので……下手したら一生に2度しか正式なフルネームを書く機会が無いのか。
ちなみにカイザス国は夫婦別姓も有りだと、法律関係の本に書いてあったな。
そう言えば、今更気づいたがコンスタンティンさんの養子に入ったけど、私家名とか特に変わって無いもんね。
あれだ、日本で言う結婚等で氏名が変わった際に、免許や銀行の名義とか変更しなくていいのは楽かも。ガイザス国だと、それが養子にも適応される。
そして、届出を出さなければいけないが、家名や名前の変更も本人の自由。
さて、疑問を解消したところで、お勉強の時間だ。
ユリエルさんはテーブルの上に教科書を置いて、上着の中から懐中時計を取り出してパカッと蓋を開けていじり始め………透明な膜みたいな物が出来て、ユリエルさんと私を包み込んだ。
巨大なシャボン玉の中に入ったらこんな感じなんだろうな。何だろうこれ?
「結界の魔道具だ」
結界とかファンタジー。
防音の魔法も一緒に組み込まれているみたいで、膜の中の音が今は外に聞こえない様になっているらしい…外の音はこちらに聞こえるので、誰か尋ねて来ても問題無いらしい。
薄い教科書を手に取ってページをめくってくれと言われたので、めくる。
何で初級魔道具?あ、普通は小学生で習うのね。混乱してて教科書の題名まで見て無かったわ。
「顔は教科書からあげるなよ。コンスタンティンからこの部屋に盗聴と盗撮と魔法感知の魔道具が設置されたと君の部屋に来る前に聞いた。一度教科書を私に手渡して私の方を見ろ」
うわー…うわー………とりあえず教科書を手渡す。ユリエルさんは教科書のページを見ながら、また話しはじめた。
「私が部屋に入った感じだと、盗撮の魔道具は魔石の質からしてリビングに誰が居て、このソファに座っている距離なら大きな動作がわかる位でそんなに厄介な物じゃ無い。だが、盗聴はリビング全体。魔法感知はこの客間全体だな。普通に出力のデカい魔法を使うと直ぐにバレる……バレ無い様に魔法を使ってもいいが、そこまでしなくてもいいだろう」
一つ言っていい?いや、そんな場合じゃ無いのかも知れないけど、ユリエルさんよく喋るし口が悪くなった気がする。
「エルフ族はコレが普通だから気にするな。寿命の短い奴だと失言して取り返しがつかない事になるし、誰が何処で聞いているか分からないから普段は言葉に気をつけるが、君は寿命が長いしそもそも私が何を言っても気にしないだろう。今はこんな話しはいい。時間が無い」
「あ、はい。黙って聞きます」
「初級魔道具の本は読んどけ。明日コンスタンティンの居住区でわからない所は聞く」
初級魔道具の本は一旦テーブルに置いて、次は中級魔道具の本を手渡された。
「部屋に入って来られた時に面倒だ。本を開いて読んでるフリでもしていろ」
「はい」
うん。誰この人って感じだが、言い方の割に怒ってる雰囲気は無いからこれがユリエルさんの普通だと思おう。
「魔道具が設置されたのは昨日の19時前だが心当たりはあるか?おそらく侍女だと思うが、変な動きなどしてなかったか?」
「昨日の夕飯の時ですかね……そう言えば、昨日は一回部屋を出て引き返してきましたね」
いつもは食堂室に夕飯を並べて帰って行くが、昨日はスープを運び忘れたとかで1回部屋を退出して、また戻ってきた。
先にテーブルに並べた物を食べてていいと言われていたので、食堂室で素直にサラダをもぐもぐ食べていたな。
「恐らくその時だろう。顔上げるなよ…多分客室入口の内側のドア部分の装飾に紛れて設置してある」
「うわー………」
この部屋至る所に装飾があって豪華なんだよな…柱とか天井とか。ドアの扉も立派だ。
右のドアの下部分に設置してあるので、不自然に見るなよと念を押された。了解デアリマス。
「そこでひとつ君に頼み事をしたい」
「はい、何でしょう?」
「このまま囮になってもらいたい」
「え………………」
思わずユリエルさんに顔を向けてしまった。下見よう。
理由も聞かずに「はい」と即答出来なかった私は、ちょっと嫌かもと心の中で思っていた。
初めて見たユリエルさんの素敵な笑顔をぶん殴りたいなと思う程には………いや、待てよ。何か理由があるんだろうな。
「そんな嫌な顔するな。当事者なのでちゃんと説明する」
「あ、はい。お願いします」
いやー…なんか今日ユリエルさんが馴れ馴れしいとまでは言わないが、やたら名前呼びして来るからおかしいなと思ってたんだ。
こうしてこの日を境に、短い様で長い王宮での私の苦痛生活が幕を開けた。異世界怖い。
ー
おかしいな?ユリエル
ユリエル「……おはようつばめ」
つばめ「おはようございますユリエルさん」
ユリエル「………つばめ身体の調子はどうだ?体調は大丈夫だろうか?」
つばめ「はい。魔力も安定して大丈夫そうです」
ユリエル「……魔力が安定しても、あまり無理はするな」
つばめ「わかりました。気をつけます」
ユリエル「……つばめ。今日から勉強を再開する。何かわからない所はあったか?何でも聞いてくれ」
つばめ「中学校の歴史部分を教えてもらっても………
(なんかユリエルさん微妙にいつもと違うな?朝の挨拶とか始めてしたわ。いつも返事「………ああ」だった気がする)