104.5話 ユリエル2
『弔いの旅』とは、故人のエルフ族の代わりに友人達に「亡くなりました」と知らせに行く旅である。
他種族だと寿命の関係でその子孫に知らせる事が多い。
簡単に書くとこんな感じだが、実際にかなりハードな旅である。
〈〇×〇▲u□※●&〉
「……いや、だからこちらを買いたい。それは必要無い仕舞ってくれ」
まず、エルフ族は引きこもりだ。
これは何処に住んでるエルフ族もそうだが、大体自分の生まれた所から一生外の世界とは無縁に生きて行くのが大半だ。
なので大体言葉が通じない。外の世界は直ぐ言語が変わるからな……外の世界の奴らに言わせるとエルフ族の言葉が古すぎるみたいだが。
そして、外の常識はエルフ族にとっては非常識だ。何故トイレの入り口が2つあるのか理解に苦しむ。
いや、知識としては知ってはいたが。何回入り間違えた事か…そしてどちらに入っても「きゃーっ」と言われる理不尽。
手持ちの食料が無くなってからは食事も大変だ。
やめろ話しかけないでくれ何?体に触るな肉食女子とやら。私は草食だから肉をススメてくるな卵はいただこう感謝する。
飯を食べるのも一苦労だ…肉ばかりで辛い。途中で海沿いから行けば魚が食べれると気がついた私を誰か褒めて欲しい。
出来るだけ海沿いの道のりを進む。エルフ族なので、1年位は食べれなくても、最悪水を飲んでおけば普通に動けるけるがな。
そして1番大変なのはやはり魔物。
この大陸『ヴァニア』の魔物は凶悪だ。何度死にかけたか…特に悪魔怖い。カミュ許さない。
怒りをエネルギーにかえて進む事数年。やっと目的の港に着いた。
コンパスを起動させるとまだ海の方を指している……色がやっと赤色か……
数年前にボタンのスイッチを押すとコンパスになった。普通のボタンは座標と住所が直接ボタンに書いてあったが、これだけは魔道具だった。
対象者が同じ場所に居ない可能性があるか、遠くにいる時にコンパス型を用意するらしいが『コンスタンティン』とやらは両方だったらしい。
だが、基本同じ場所にいるのでそこを目指している…………遠い場所ほど赤、近くに行くと青色になるらしいコンパスの矢印を追ってここまで来たが、果たして無事に辿り着けるかどうか。
故郷の家からコンパスを起動させた時は、赤通り越してドス黒い色をしていた。あの時の姉の哀れみの目は今でも忘れない。
姉の産みの親の赤子は無事に生まれたろうか?顔を見ると別れが辛くなるので、お産前に出て来てしまったが、やはり顔くらいは見とけばよかった………いや、絶対旅に出たく無くなるヤツだな。
さて、船の交渉をしたいが、果たして見ず知らずのエルフ族を乗せてくれる酔狂なヤツがいるだろうか?
港で大型船を眺めていると、見覚えのある文字が書いてある船があった。
『ベスティア国海軍 グロスヴァーグ号』
あれだな。筆談用の魔道具を鞄から出して船に近づいて行った。
「乗せて」と書いたボード型の魔道具を見せたら、幾つか筆談で質問され、種族判定の魔道具とやらで調べられたら船に乗れた………こんな簡単に乗せてくれて逆に心配になるレベルだ。私騙されてないか?
それにしても船は早いな。あっという間に陸地が見えて来た……もう陸地だと?矢印が濃い青になった……私が数年かけた距離を3ヶ月で来てしまうのか。
こんなに早く着くなら………海岸沿いなど旅しないで最初から船にしておけば良かったと思った。全部カミュの所為だ。