104.5話 ユリエル1
この国が世間では一般的で無いと知識では知っていたが、実際に身をもって知ったのは旅を始めてからだった。
「カミュが亡くなった?」
身体の作りが男だった『祖父』が息を引き取ったと両親から知らせを受けた。『姉』は成人してからこの家を出ているので、これから知らせるそうだ。
姉の産みの親が姉の住まいに知らせに行き、私の産みの親と私は祖父の家に行く。
家に入り寝室に向かうと、昨夜亡くなった祖母と少し前に息を引き取った祖父がベッドで安らかな顔で横たわっていた。
あぁ…そんな。
祖母が老衰で亡くなり、祖父のカミュが後を追ってしまった………エルフ族の愛情は深い。
深すぎる故に伴侶が亡くなると後を追う様に、自決の魔道具を発動するのはよくある事らしい。
祖母が亡くなったと知りながら、私の両親もわかっていてカミュをひとりこの家に残したのだろう。
そんな私に産みの親が手紙と一冊の本を差し出してきたので、手紙を読む。
『ユリエルへ 後よろしく カミュより』
このサッパリした感じの手紙の書き方カミュ丸出し。本当祖母以外どうでもいいや感が滲み出ている。
さて、カミュがいつも着ていたローブをハンガーから外して、ボタンを確認する…いち、にー、さん、よん…………何個あるんだ、やってくれたなカミュ。今度会った時覚えてろ(激怒)。
ボタンは全部で33個。全てに名前が刻まれていた。
私がボタンを確認していると、姉と姉の産みの親が入って来た。姉はカミュを見るなりわーわー大きな声を出して泣き始めた。
葬儀を身内でササッと済ませて、家族会議を行う。これからが弔いのメインになる。
「ひとりで33人回るのは無理だ、特にコレが怪しい」
私はテーブルに置いた33個のボタンの中から、異彩を放つひときは大きなボタンを指差した。
『コンスタンティン』
と、書かれたボタンは、魔道具を発動するためのスイッチらしき物が組み込まれていると直ぐにわかる怪しさだ。
大体そういう物が組み込んであるのは、場所が遠いと相場が決まっている。
「ワタシが半分引き受けてあげるよ。とりあえずスイッチを押してみよ」
「わかった」
私はスイッチを押した。
結論から言うと姉が32個のボタンを引き受けてくれて、私が怪しいボタンの示した場所に行く事になった。
カミュ許さない。新婚の姉になんて事を……あ、心配だから姉のパートナーも一緒に行くのか。よろしくお願いします。姉は近場から攻めるらしく、早速次の日出掛けて行った。
私は支度があるので、旅に出るのは武器や魔道具の手入れなど済ませてからだ。
家の物も片付けて処分したり、両親に引き取ってもらった。もうここには戻って来られないだろう。
では、行って来る。泣くな両親、一旦帰って来ていた姉も泣くな。最後に姉の産みの親のお腹にそっと手をあてて、まだ見ぬ弟に今生の別れを告げる。本当カミュ許さない。
両親と姉に見送られ、何重にも張った城壁魔法を抜けて行く。
先週成人を早めに迎えた私は、真新しい深緑色のローブを羽織り、エルフ族の悪しき伝統弔いの旅に出かけた。
旅に出たのはカミュが亡くなってからちょうど3ヶ月後の事だった。
ー
補足
『姉』とか『私を産んだ親』とか書いていますが、実際には名前を呼んでいる設定です。
ユリエルとの関係性が分かりやすい様に便宜上『姉』など使っていますが、祖父のカミュ以外皆んな両性で性別の概念が希薄です。
両親共に出産可能なので、お父さんから姉が産まれ、お母さんからユリエルが産まれている感じになります。
今現在お父さんが妊娠中です。
本日昼12時にもう1話投稿予定です。