01
「千秋、千秋。起きなさい」
聞き慣れた声が耳に届く。
小鳥のさえずりとまではいかないけれど、それは澄んだ響きを持っていた。
「…んぅー…」
ゆっくりと瞼を持ち上げると、眩しい程の朝日が目に染みる。
きっちりと閉めたはずのカーテンは、誰かさんのせいで全開になっていた。
「…おはよう、母さん」
「もうっ。おはようじゃないわよ」
今日から新学期でしょう、と小柄な母は頬を膨らませる。まるでリスやハムスター。
「ほら、準備して!早くしないと京ちゃんが来ちゃうでしょう」
そう言いながら、なかなか部屋から出て行かない母親をどうにか外へ追いやって、千秋はグレーのスウェットへ手を掛けた。
葉山千秋、今日から高校2年生。
両親は、千秋がまだ幼い時に離婚して、今は母と2人暮し。たった1人の弟は、父と一緒に行ってしまった。
別に、寂しいとは思わない。優しく気丈な母もいるし、しっかり者の幼馴染みもいるから。
「おはよう、千秋」
にっこりと、目の前の青年は微笑む。薄茶色の髪が光に透けてとても綺麗だ。
「おはよ、京汰」
毎朝迎えに来てくれる幼馴染み、南野京汰。
明るくしっかり者で、クラスの人気者である。
そして。
千秋の想い人。