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『コミック最新巻、7月8日発売!』落ちこぼれ退魔師は異世界帰りで最強となる  作者: 秀是
第十三章 京極一族編

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第六話 治療と浄化


 右京の娘の京極雫と名乗った少女の登場で、場の空気が不穏な物へと変わったことを肌で感じた真夜は、右京の方へと視線を移した。右京はあまり気にした様子はない。予定調和と言ったところか。


 真夜は清彦の方も見るが、困惑とは違うが先ほど以上に難しい顔をしている。


(右京さんに娘がいるなんて話は聞いてないが、三人の様子や自己紹介を見るに、単に俺が知らなかっただけじゃないみたいだな)


 京極家について真夜もそこまで詳しくは無いが、あの名乗りから推測すれば三人とは初対面になると言うことだ。しかしそこへいきなり、次期京極家当主を目指す者と宣言すれば、ファーストコンタクトにおいては最悪の形と言っても過言では無いだろう。


「右京さん、これはどういうことですか? その子は本当に貴方の娘ですか? それと京極家の次期当主を目指すといきなり宣言するのは、どういう了見なんだい?」


 右京と雫の両方に聞く清貴。真夜の時よりも剣呑な視線で、二人を見据えている。清治も清羅も苛立ちを隠そうともしない態度だ。


「正真正銘僕の娘やで。DNA鑑定も済んどるし、疑うんなら調べてくれても構へんよ。隠しとったのは悪かったと思うけど、こっちのも事情があったんやわ。ほんまはこの子も京極家に関わらす気はなかってん」


 右京は殺気立つ三人に言い聞かせるように言うと、事情を説明する。


 雫は本来であれば、右京は京極家に関わらす気はなかった。しかし六道幻那の事件で状況が一変した。


「うむ! 私も従兄弟の領分を侵す気はなかったが、そうも言っていられない状況だと聞いたので、困窮を極める京極家のためにおとうはんと共に協力したいと思っているんだ」


 真夜はどこか従兄弟の海に近い性格のように感じる雫を、不自然で無い程度に観察する。


 抑えているが感じる霊力は高い。それこそ彼女の言うとおり次期当主を狙えるほどに。今の渚どころか、他の六家の次期当主や当主候補の流樹や赤司よりもさらに上。


(渚や朱音よりも上どころじゃねえ。兄貴や雷坂には劣るが、流樹や赤司さんよりも上だと?)


 感じられる霊力の高さが俄には信じられないほどだった。霊力の高さがそのまま強さになるわけでは無いが、指標の一つになる。


 さらに質。重厚でありながら、どこか澄んでいるかのような不思議な霊力。輝かんばかりの存在感を主張している。


 真夜とあまり変わらない年齢でありながら、このような気配を纏う少女に真夜は疑問符を浮かべる。


(右京、どういうつもりだ)


 この場の推移を見守っていた清彦だが、右京がこの場に娘を連れてきた事では無く、あんな宣言をさせた事に困惑していた。


 右京から娘がいることは、清彦が渚と和解した日の帰りの車の中で聞かされていた。その時は驚き、よく京極家に隠し通せていた物だと感心もしていた。


 母親に関しては詳しくは聞かされていないが、京極家の血を引く者とだけ聞いている。澪の例もあるので、清彦が知らなかった京極家の血筋の人間はまだまだいたのだろう。


 あるいは、京極家内の権力争いの犠牲者の縁者の可能性もある。


 先ほど本人が述べていた通り、当初は京極家に関わらせないようにするつもりだったらしい。


 しかし六道幻那の事件があって、その方針が変わったという。


(確かに今の息子達に京極家を背負い、発展させていくのは厳しい。後遺症が無くとも、状況はかつてとは大きく違う)


 清彦は息子達にこれ以上、苦労や苦しみを背負って欲しくなかった。京極家当主の地位は想像以上に重い。重圧という意味だけではない。京極家を背負うのは過去の負債まで背負うということなのだ。


 澪の一件だけではなく、六道幻那の件やこれまでの事も含め、その重責は計り知れない。


(右京にしても敢えて火中の栗を拾うどころの話ではない、今の京極家当主の地位を娘に目指させるなど……)


 京極一族を存続させていくには、確かに誰かが貧乏くじを引く必要がある。清彦はそれを続けているし、次世代にはできる限りの負債を残さないようにしているつもりだ。


 だが清彦とて限度がある。さらに今の六家の頂点に求められているのは策謀よりも、象徴たり得る個の力。


 超級どころか覇級すら現れるこの現代において、一族を纏め牽引するには何よりも強い退魔師が必要不可欠。


 雷坂彰、星守真昼のような強い退魔師が。


 息子達にはそれだけの強さは望めない。後遺症が無くなったとして、息子達にはあれほどの強さとカリスマ性は期待できない。


 雫と名乗った右京の娘はどうか。強さはわからないが、かつてほどでは無いが権謀術数がはびこっていた京極家に関わっていなかった娘が、京極家を牽引できるとは思えなかった。


(右京の話では娘と共に京極家を支えるだけであり、次期当主の選定はまだ先にするとの話だったはずだ)


 今日は雫の存在を身内に明かすだけの場であり、その際に雫の力を見せ、そのまま息子達を支えると伝えるだけと聞いていた。


 だが蓋を開けてみれば真夜がおり、雫は京極家次期当主を目指すと口にした。次期当主を目指していた清貴、清治には真夜以上に受け入れられない話だ。


 清彦はどういうつもりなのか、右京を問い詰めたかった。まさか右京は京極家を混乱させ、瓦解させるのが目的なのではという、あり得ない疑念まで生まれる。


 しかしこの場で下手に騒げば余計に拗れるだけだ。息子達が帰ると言いかねないし、京極家の衰退への道が早まるだけだ。


「協力だと? ふん! それこそいらぬ世話だ! それに京極家の次期当主を目指すだと!? 馬鹿は休み休み言え! 例え京極家の血を引いていたとして、それだけでなれるほど、京極家の当主は甘くも軽くも無い!」


 清治は怒号にも似た声で反論する。確かに彼の言い分は正しいだろう。清治も清彦も、京極家で当主の子供としてぬくぬくと生きて育ってきたのでは無い。


 魑魅魍魎のような京極の長老達と接し、その顔色を窺い、他者に蹴落とされぬように細心の注意を払わなければならないような環境。減点方式で一度の失敗ですべてを失わないかねない当主の子供という立場で、これまで生きて当主を目指していた彼らからしてみれば、外からやって来た者が簡単に口にして目指して良い立場ではないのだ。


「そうよ! それこそふざけた話よ! それにあの事件の場にいなかった部外者が、しゃしゃり出てくるんじゃないわ!」


 清羅も雫が気に食わないため、真夜の時よりも激しい剣幕を浮かべる。清貴も同じ意見なのか、深く頷いている。


(まあ当然の反応か。流石にやり方が不味すぎる。さてどうしたもんかな)


 真夜は心の中で深いため息を吐くと、この場をどう収めようかと思案する。ある意味、これを見こして自分を巻き込んでいたのならば、右京にしてやられたと真夜は思う。


 この状況では清彦や右京が口を開いたとてこの場が収まるとは思えないので、第三者の真夜がこの場を仕切るしか無いだろう。


(一億でも割に合わない仕事だったかもな。どう着地させる気だよ、これ)


 雫に実力があっても、反対派が多ければ当主の地位に就くのは難しい。組織をある程度穏便に運営するとなれば、少なくとも半数は味方に付ける必要がある。


 彰のように、圧倒的な実力とカリスマを見せつければまた違うだろうが、あれは例外だろうし元々一族内での立場もあった。それに比べ、雫には京極家での実績も後ろ盾も何も無い。右京の娘という肩書きと、右京が後ろ盾に立とうとも、納得しない者は多いだろうし、下手をすれば京極を割る事態になりかねず混乱を招くだけだ。


「お互いに言いたいことは山ほどあるでしょうが、このままだと話が進まないと思うので、不満でしょうが俺が仕切らせてもらいます。で、雫さんと言いましたか? 一応自己紹介をさせてもらいます。星守真夜。星守一族の人間で、この場には右京さんの依頼で来ています」

「うん! おとうはんから話は聞いているぞ! よろしく頼む! それと私には堅苦しいしゃべり方はしなくていいぞ! 私もまだ十八歳の成人したてだからな!」


 ぐいぐいと来る雫に、朱音や海を思い出しながら、この場の主導権を握る意味でも相手の言うとおりにすることにした。


「了解。じゃあそうさせてもらう。とは言え、さっきの発言でお三方はかなりお怒りだ。俺としてはこのまま顔合わせを続けるよりも、先に霊的治療を施したいと思う。清彦さんや右京さんはそれでも構いませんか?」

「……ああ。私としては構わない。先に初めてくれるか? 右京もそれで構わんな?」

「僕もそれでええよ」


 若干、真夜は右京に険しい視線を向けつつ提案すると、二人から了承を得られたので、即座に治療を開始することにした。


 霊符を五枚顕現すると、三人を囲い込むように五芒星の軌跡を描かせ霊力を解放する。


「これは!?」

「今からこの場で治療を始めさせてもらいますので、しばらくはじっとしていてください」


 浄化の霊術を発動させながら、さらに真夜は隠形の術を施し誰にも見えなくした三枚の霊符を顕現すると、清貴達に気付かれないように彼らの背中に移動させる。


 幻那の呪いの効力は渚の時に嫌というほどに理解した。あの時、完全に浄化したと思っていたが、その残滓が残っていないとも限らない。だからこそ、浄化の霊術と個別の霊符による強化で浄化を行う。


 真夜は目を閉じ、意識を集中させ右手の顔の前まで移動させると人差し指と中指を立てて剣印を作る。


 この場を真夜の巨大な霊力が包み込む。清貴や清治、清羅があまりの事に表情を変える。まるで京極家が行う浄化の儀を彷彿とさせたからだ。清彦も右京も思わず息を飲む。


 これまで彼らが依頼したどんな術者のそれよりも強力な術式だと、誰もが肌で感じ理解させられた。


(浄化と治療だけじゃなく、色々とさせてもらうか。丁度試したい術もあるし、渚や渚の親父さんとの事を考えたら、少しばかり強硬策にも出させてもらうか)


 真夜は浄化だけで無く、治癒と強化の術も同時並行して三人に施していく。そうすることで、自らの中に幻那の呪いやその残滓などの異物が僅かにでも残っていた場合、それに抗おうと強化された本来の力が反応し実力が底上げされる可能性があるからだ。


 実例として朱音や渚、彰の件がある。十二星霊符にそのような能力はないが、真夜が把握していなかっただけで類似した力があった、あるいは備わった可能性はある。


 特に今は弱体化から解放され、真夜自身が強くなっていることもあり、十二星霊符自体も強化されているかもしれないのだから。


 真夜自身、自分の力がバレたとてもう問題ないと思っている。星守一族の後ろ盾はあるし、自分の身を守れる強さも手に入れた。煩わしい婚姻関連の話も終わっており、もし何かあっても明乃や朝陽に丸投げする事も出来る。


(さて、この術でどうだ? 感覚的に特に呪いが残ってる感じはしないが、強制的に強化して元の感覚に戻せれば、あるいは力が戻る可能性もあるしな。それと仕上げだ)


 浄化の術がさらなる輝きを増す。暖かい光が周囲に溢れ、その中心にいる三人もまた京極家の浄化の儀の時のような、いや、それ以上の精神的な安らぎがもたらされる。


 不意に、三人は黒髪の美しい女性に抱きしめられているかのような感覚に襲われる。彼らの背後で十三枚目の霊符が浮遊している。


 幻那の時のようなルフの力をも利用した幻。真夜は荒んでいる三人の心を落ち着かせる意味でも、またこれから先、ヤバい問題を起こさせないためにも、全力で持てる力を解放し使える術を行使していく。


 その女性の感覚が次第に変化していく。それはまるで幼子が母に抱きしめられているかのような感覚だった。ルフの姿が、気配が、彼らの中で自らの母親の気配に変化していく。


 実の母親に彼らは抱きしめられているような、大きな愛をその身に受けているな感覚が広がっていく。


 幻那の時ほどでは無いが、その幻は現実とほとんど見分けがつかない。歌声が聞こえる。優しい、穏やかな、安らぎを与える声。ルフの声のようでもあり、彼らの実の母の声のようでもあった。


 清貴も清治も清羅も、親のぬくもりをほとんど与えられていなかった。正妻と側室の不仲。京極家という環境。失敗を許されず、甘えさえも許されない。


 だからこそ甘えることが出来ず、母親達も三人が物心ついた頃には、目に見えた愛情を与えることをほとんどしなくなっていた。それは相手に付けいる隙を与えかねない行為であったから。故に歪んでしまった。


 しかし彼らの心に真夜の霊術が浸透し、今まで与えられなかった感情を流し込んでいく。


 彼らに必要なのは身体の治療だけでは無い。心の治療。それも幻那襲撃の際のトラウマだけでは無い。もっと根本的な部分であり、真夜とルフは彼らの深層心理に働きかけていく。


 清貴達の脳裏に幼い三人が母親達や父と仲良く遊んでいる情景が浮かぶ。そこに幼い渚もいる。あり得ない、だがあり得たかも知れない過去。


 真夜のしていることは心の浄化。異世界にて聖女が得意とした術。異世界ではその領域にまでたどり着けなかったが、今ならばそれに近いことが出来ると真夜は思っている。


 もし彼らが最初からどうしようもない性格破綻者であった場合、あるいは幼い頃から愛情を注がれていても歪んでしまっていた場合、この術でも効果はないだろう。


 しかしそうでないならば、何かしら好転するはずだ。


 だから試す。失敗に終わろうとも別に構わない。成功すれば儲けもの。自分の術の向上にも繋がるので、出し惜しみもしない。


 十二星霊符が共鳴し、光を増していく。その中心で三人は静かに涙を流すのだった。


最近、忙しい日々が続いております。

感想返信が出来ずにすみません。

全部拝見しております。大変励みになっております。

また折を見て返信していきますので。

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― 新着の感想 ―
真夜ママ…
直系の子孫の割に六道のかけた呪いがそもそもかかって無さそうなあたりだいぶ厄ネタ持ってそうなんだよな(会談直後も欠片も心配してなかったし右京は知ってそうだけど) ある作品では骨髄移植したから解呪されたの…
す、すごい…まさかの異世界の聖女の領域の浄化まで到達できるとは 成長の指針が異世界の仲間たちなのもめちゃくちゃいいな これで、京極家そのものがいい方向に向かってくれるといいな…
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