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『コミック最新巻、7月8日発売!』落ちこぼれ退魔師は異世界帰りで最強となる  作者: 秀是
第十二章 風間一族編

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第九話 本心


 真昼が意識を取り戻したのは、当主会談にて凜の話題が出てしばらくしてだった。


「んっ、ふわっ、あっ、凜、楓。おはよう」

「いや、おはようじゃないだろ、真昼!」

「真昼様! お身体に違和感などはありませんか!?」


 心配していたというのに、朝の寝起きのような反応を返す真昼に割と本気で怒る凜と、いつも以上に心配する楓。


 真昼は京極での事件の時も二人に心配されていた事を思い出し、素直に謝罪する。そういえば真夜もこんな風に朱音や渚に謝っていたと思い出し、似たもの兄弟だなと思わず苦笑した。


 その事でさらに凜に怒られる羽目になるのだが。


「ったく。真昼も本当に無茶するよな。嵐さん相手とは言え、あそこまでするなんて」

「凜様の言うとおりです。真昼様ならもっと簡単に勝てたのではないですか?」

「そんなことは無いよ。嵐さんは強かったからね。彰とはまた違うやりづらさがあったし、空を飛んでるのもあって、楓が言うほど僕には簡単に勝つ方法は無かった。でも凜も楓もごめんね。また心配かけて」


 嵐は単純な戦闘力という点では彰に劣るだろう。しかしそれを補って有り余る厄介な術や霊器を持つ。真正面から打倒すれば良かった彰とは違い、嵐を打倒するのはまた違う戦い方をしなければならなかった。


 厄介さで言えばどっちもどっちであろう。


「それにおかげで僕もまた一つ上に行けたからね。その反動で寝込んで迷惑かけてたら、世話ないんだけど。ちなみに僕はどれだけ寝てたの?」

「五時間って所だ。もう夜の八時過ぎだ」

「えっ? そんなに寝てたの? 本当にごめん、凜、楓」


 五時間も寝ていたと聞かされ、真昼は両手を合わせさらに平謝りを行う。


「良いって。心配したけど、アタシもまた凄い戦いを見せてもらったからな」

「はい! 流石は真昼様。見事な戦いぶりでした!」

「ありがとう。でも嵐さんもまだまだ強くなるだろうし、彰もいるからね。それに真夜はさらに上だから、僕もこれで満足してられないかな」


 真昼の向上心ぶりに呆れるやら、尊敬するやら苦笑する二人に真昼はきょとんとした顔をする。


「ところで父さんやお祖母様は?」

「今は当主会談の続きをされています。真昼様がお倒れになられてしばらくしてから開始されました」

「そうなの? ちょっと不味いかな。当主としての経験もってことで、今回の会談に僕も参加させてもらう予定だったから」


 手合わせは自分から言い出している手前、かなりバツが悪い。


「まあ大丈夫だろ? 嵐さんの事もなんやかんやで、真昼のおかげで上手く行きそうだからな」


 若手や門下生は多少の差はあれど、嵐を支えていこうと言う雰囲気が形成されている。


 妹の凪の応援や彼女がその後も嵐を擁護する声を上げたのも大きいだろう。凜も凜で嵐を否定せず、逆に嵐を尊敬する旨の言葉を述べたのも後押している。


 真昼との戦いは見た者達に与えた衝撃は大きかった。


 星守交流会の真夜と同じで、雷坂や他の六家に対抗するためにも、今の嵐には何が何でも風間に所属し続けててもらわなければならないと考えるベテランや長老衆が何人もいる。


 今の嵐が認められたのは間違いない。もし真昼との手合わせがなければ、こうはならなかっただろう。


 もっとも次期当主に据えるかどうかは、未だに一考の余地が残っているらしいが。


「そっか。少しは役に立てて良かった。ただ当主会談の時に大切な話もあるんだ」


 真昼も話をされていた内容。風間との関係強化も含めた事でもあり、真昼の将来にも関わる重要な話である。この場には楓もいる。おそらく話し合いはすでにしているだろう。


「楓は知っていると思うけど、ここ最近、真夜の件があったのもあって、僕への見合いの話とかが増えたんだ」

「ん? んんっ?」


 いきなりの話に凜は怪訝な顔をした。本当に何の前触れも無く、凜からすれば唐突な話だからだ。


「えっ? 何が、どういうことなんだ?」

「ええと、星守との関係強化に結構な所から話が来てね。その、今までは正妻にって話だったんだけど、側室でも良いから家の娘をってのが凄くて」


 真夜の朱音と渚の婚姻の話は関係者の間でかなり話題になっていた。火野、京極とその中でも最初は難色を示していた一部の反対派も霊器だけで無くルフとも契約を果たし、強力な補助の術を使う真夜と星守との繋がりが出来たことに安堵していた。


 だが逆にその事で焦りを見せている者達もいる。他の六家の一部や退魔師一族、果ては政財界の人間がこれまで以上に真昼に対しての見合い話を持ってくるようになった。


 ついでに真夜の方にも、もう一人くらい側室をと言う話も朝陽や明乃に来ていたようだが、恋愛の末の側室であるので、これ以上は無理だと突っぱねたようだ。逆に明乃などはそんなふざけた事を言う輩に怒りの感情を見せているとか。


 だが真昼の場合は、まだ正式に誰も決まっておらず、一部から政財界も含めて圧力がかかっている。誰も決まっていないのなら、側室くらいならいいだろうという考えらしい。


 朝陽も明乃も次期当主となる真昼の嫁は、側室でも退魔師としてのある程度の実力が無ければ認められないとし、当人も高校生であるため、まだ確定させられないと先延ばしにしていた。


 だがそろそろそれも限界に近いようだ。


「それが、その、アタシとどう関係が……」


 言いながら凜はどこか顔を赤くしている。それはいつも以上に真剣に真っ直ぐに自分を見る真昼のせいでもある。だが、何となく凜も察していたのだろう。


「うん。今回の当主会談で、僕の婚姻の話も出る事になってたんだ。だから僕も凜には真夜みたいにはっきりとしようと思って」


 一呼吸置き、凜と楓をそれぞれの顔を見る。


「星守の交流会でも伝えたけど、改めて伝えるね。僕は凜が好きだ。それに楓の事も好きなんだ。凜は昔から僕に寄り添ってくれた。楓は僕が苦しんでいた時に側にいて支えてくれた」


 自分の気持ちに気がついたのは星守の交流会の時。あの時、朝陽が凜と楓の手合わせを組まなければ、二人が本気で戦い合わなければ、今も自分の気持ちに気がついていたかわからない。


 あの時、自分の気持ちに気がついた。昔から真夜の事で悩んでいた時に話を聞いてくれて、寄り添ってくれた凜。生まれる前に真夜の力を奪ったことを知った時、必死に自分を支えてくれた楓。


 二人がいなければ、今の自分はいなかった。それこそ塞ぎ込み、自ら命を絶っていたかもしれない。


「二人同時にって言うのは、凜にも楓にも不義理だとは思う。でも真夜と同じで僕も二人を誰かに渡したくない。だから星守の次期当主になって、自分の我を通す。嵐さんが自分の我を通したようにね」


 自らの気持ちを自覚し、将来の事を朝陽や結衣、明乃と話し合った末に出した結論。


 改めて真昼から真っ直ぐな思いを告げられた凜は顔を赤くしている。そして楓の方を見ると、楓は聞かされていたのか、そこまで動揺した様子は無い。


「楓にはもう話をしているんだ。だから次は凜に。僕と婚約して欲しい。多分、父さん達が風間家の当主達には伝えてると思うから」


 付き合ってくれとかの段階をすっ飛ばして婚約である。凜は口をパクパクさせている。これは現実なのかと思っているようだ。


「凜はこんな僕だけど、この申し入れを受け入れてくれる?」

「あっ、その、はい……。ふつつか者ですが、よろしくお願いします」


 顔を茹でたこのように真っ赤にしながら、凜は微かに俯きながら真昼にそう返事をするのだった。


 ◆◆◆


(さて、どうすっかな)


 真夜はホテルの宿泊部屋で一人、かなり緊張しながら椅子に座っていた。今、朱音と渚は二人で風呂に行っている。


 三人で食べたホテルの食事は美味しかったし、一人での入浴だったが風呂も広くて気持ちよかった。


 沖縄旅行の一日目は、本当にトラブルらしいトラブルもなかった。


 いつもなら何かしらの事件や変な輩に絡まれる事になりそうなのだが、一切それらしい兆候もなかった。


 本当に異世界の神やこの世界の神に祈ったことが功を奏したのだろうか。


 なぜか真夜の脳裏にどや顔ダブルピースする異世界の神の姿が浮かぶ。かなり腹立たしかったが、このまま四日間、何も無く楽しく沖縄旅行を満喫できれば、あの時のように腰を折って深々と異世界の神に感謝をしても良いと思う。


(いや、油断は禁物だ。こんなことを考えてたらトラブルが舞い込むなんてありそうだからな)


 だが今日は後はホテルで寝るだけだ。いや、ここからがある意味本番だと言えなくも無い。


 真夜は部屋に敷かれている三枚の布団を見る。


 三人で一緒に寝るのは初めてである。いや、ただ寝るだけならば良いのだが、問題はそこからだ。


(手を出すべきかどうか。いや、出しても良いよな?)


 夕方の二人の反応を見る限り、二人も期待しているように見える。ここで手を出さないのは逆に二人に失礼であり、恥をかかせることになるだろう。


(俺も覚悟決めろ。どっちから先にとかはキスと同じでその場の雰囲気で進めば良いんだよ)


 一応、避妊具は用意している。朱音の父の紅也にも言われていることである。


 ドクンドクンと、心臓が高鳴る。緊張続きでおかしくなりそうだ。風呂上がりでもあるが、必要に喉が渇く。


 平静であろうとするが、どうにも無理そうだ。


 もし異世界の仲間が今の真夜を見れば、聖騎士と聖女以外は大爆笑をするだろうし、滅茶苦茶揶揄ってくるだろう。異世界の神の次は、異世界での仲間達の姿が浮かぶ。と言うかあまりにもリアルに脳内に笑い声が聞こえる。


(やかましいわ! だいたいてめえらも似たような物だろうが!)


 武王と大魔道士はどうかしらないが、勇者と剣聖はどうせ童貞と処女だろうが! つうか、お前らそれぞれに聖女と聖騎士と恋人寸前の関係で、俺と同じ状況になったら、絶対にテンパるだろうが! となぜか叫び返した。


 この事で少しばかり落ち着いたが、二人が帰ってくるまでのこの一人の時間があまりにも長く感じる。


 どれだけ待ったことだろうか。カタッと部屋の鍵が解除される音が聞こえた。


「お待たせ」

「戻りました」


 ホテルの浴衣を着ている姿は、またしても真夜の心を射貫き、心拍数を上げさせる。二人の頬が赤みを帯びている。ただ風呂上がりの二人の上気した頬は、湯船に浸かっただけではないだろう。


「その浴衣姿も似合ってるな」


 自分を落ち着かせるためにも、真夜は二人を褒める。実際、二人の浴衣姿にグッときているのは間違いないのだから。


「ありがとう。真夜も浴衣姿って新鮮よね」


 真夜も部屋に備え付けられていた浴衣を着ており、椅子に座る姿は様になっている。


「そうか? まあ親父も星守ではよくこう言う服を着てたしな」


 小さな頃は父とおそろいの服を屋敷で着ていることもあった。懐かしい思いもする。


「はぁ! 今日は楽しかったわね!」


 バタリと朱音は布団の上にダイブする。三人での宿泊でさらにテンションが上がっている。しかしどこか朱音も緊張しているように見える。枕を顔に近づけると、横目で真夜を確認している。


「お風呂も気持ちよかったですしね」


 渚は行儀良く布団の近くの空いているスペースに座る。ただ彼女もどことなく緊張しており、チラチラと真夜の方を見ている。


 時刻はすでに九時を回っている。少し早いが明日への疲れを残さないためにも、寝るには良い時間かも知れない。だがここで何もしないと言う選択肢はすでに三人には無いだろう。


(期待、してくれてるんだよな? というか、俺も我慢の限界だ)


 彼女達への愛おしさがもはや止まらない。思えば去年の夏に付き合いだして、クリスマスにはキスを済ませた。そこから四ヶ月近く。真夜自身もよく我慢したなと思う。


 また懸念すべき事は妊娠のリスクだけであり、朱音の親には許可はもらい、渚の親にも挨拶は済ませているので特に問題なし。あとは真夜達次第。


(ここで行動に出なきゃ、多分これから先も二人に手を出すことはできないだろうしな)


 冷静な自分と欲望に忠実な自分が双方で出した答え。


「さてと。その、なんだ。……するか」


 ストレートに出た真夜の言葉に、朱音はガバッと顔を上げ、渚も驚いたように真夜を見る。


「正直、雰囲気とかムードとか色々と気にしてたら、キスの時みたいに何も出来ないまま時間だけが過ぎていきそうだしな。二人を待たせるのもあれだし……。いや、言い訳はやめるか。俺が我慢の限界だ」


 色々と言い訳を重ねず、男らしくとかではなく、ただ本能のままに、自分がしたい行動をする。ただ真夜の顔は真っ赤である。


「こんな物言いじゃ色々と二人は不満かもしれないが、変に取り繕っても意味ないしな。また今度、とか言ってたら次がいつになるかもわからねえ」


 今回の事で、旅行が終わってからもまた三人で泊まることもあるだろうし、マンションで三人で一晩を明かす事も出来るだろう。しかしこのタイミングを逃したら、次がいつになるかわからない。


 特に真夜はトラブルの星がつきまとっている。今日は奇跡的にトラブルが起こっていない。


 もしかしたら、次の瞬間にトラブルが起こるかもしれないが、今日は何となく何も起きない気がする。


 だから……。


「俺は、二人が欲しい」

「真夜……」

「真夜君……」


 本音を口にし椅子から立つと、二人の方へと進んでいく真夜。


 朱音と渚はそんな真夜を拒絶はしない。むしろ真夜の口から飾らずに出た言葉が嬉しかった。


 真夜は部屋の電気を薄暗くする。そして改めて二人と向き合うのだった。


異世界の神「儂、トラブルが発生しないように、そっちの神とも話してできる範囲で頑張っとるのよ? けどあいつ、厄介な星の下に生まれすぎてるから。頑張るけど、後の反動は知らんからよろしく。多分面倒なの来ると思うけど」

と異世界の神が言ったとかいないとか。


ノクターンの話、詳しく書こうと思ったら正直あっちで書けるよ。でもコミカライズもしてるから書かないと思う。もしコミカライズしてなかったら、書いていたかもw

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― 新着の感想 ―
コミカライズしててもコミックヴァルキリーなら大丈夫!・・・のハズ もっとエグいのありますしねーww
反動で面倒なの来るんかーい。 ……と思ったが,面倒なのっていきなり二人ともに子どもができたりだったりして(^^; ある意味面倒な事態に。
真昼!良く言った! 真夜が頑張って認めさせた結果、向こうも喜ぶ結果になった影響でその他が焦るとは思わぬピタゴラスイッチw 嵐が我を通した強さを見せたことで、真昼も我を通す気概に共感してたのめっちゃいい…
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