第四話 思い出
前回の博多弁がかなり無茶苦茶だったので、涼子のセリフをすべて書き直しました。
ご指摘くださった方、申し訳ありません。ありがとうございます。
まだ博多弁がおかしければ、ご指摘ください。
それと第二話の驚愕の真夜達の旅行の予定も今回は本島だけ回るに変更しました、
「じゃあ撮るぞ」
「お願いします」
「いえーい!」
沖縄観光でまずは一日目は那覇周辺を観光するとなり、真夜達は首里城に訪れていた。
色鮮やかな朱塗りの建物を背景に、真夜達は自撮り棒を使って三人で一緒に写真を撮っている。
「うし。上手く取れたな」
写真を確認しつつ、満足げに呟く真夜に、見せて見せてと朱音が詰め寄る。
「うん、いい感じ。やっぱり旅行に来たら写真は必要ね」
「以前のデートでも撮ってはいますが、遠出での写真はほとんどありませんからね」
付き合いだしてから幾度も三人でデートはしていたし、写真を撮る事もしていたが、やはり本格的な宿泊旅行での思い出として、こう言うのは残しておきたい。
「次はどうする? 朱音と渚の二人で撮るか?」
「そうね。その次はあたしと渚がそれぞれ真夜と撮りましょうか。写真映えする場所探さないと」
「でしたら、あちらはどうでしょか?」
渚も朱音も楽しそうにどこか写真映えするスポットは無いかと探す。首里城のある首里城公園はかなりそれなりに広く、その周辺にも文化財などがあるので、見て回るにも時間がかかる。普通の見学コースでも一時間半はかかる。真夜達も来た限りでは見て回れるだけ見て回りたい。
それに首里城も霊的に安定し、龍脈の流れる地であり風水的にも綿密に計算されて立てられているパワースポットでもある。
琉球神話では神が湯喰った聖域とも言われる場所もあり、真夜達からしてもかなりの霊的な力を感じる。ある意味では修行や身体を休める意味でも格好の場所である。
沖縄の霊的守護者としてのシーサーの彫像も、あちこちに設置されている。これらは今では力を失っているが、かつて有事の際は退魔師が式神として使役していたとされている。そんな中で真夜達は観光を続ける。
「はい。では先に真夜君と朱音さんの写真を撮りますね」
「悪いわね、渚。じゃあお願いするわね。真夜、あっちで撮りましょ!」
朱音は自分が映りたい場所に真夜と共に移動する。首里城の奉神門の前では三人で撮ったので、朱音は近くの福を行き渡らせると言う意味のある広福門で撮ることにした。
「ふふっ、こうやって真夜と旅行先で二人で写真を撮るのっていいわね」
「そうだな。まあ朱音とは昔から結構親父達が写真を撮ってたけどな」
「でもあの時は小さかったし、恋人同士でもなかったじゃない。それに真夜も余裕が無かったから、あんまり嬉しそうでも楽しそうじゃなかったでしょ?」
「それについては悪いと思ってるよ」
当時は本当に真夜に余裕は無かった。まだ守護霊獣との召喚と契約の前であれば、希望があったためにそれにすがれていたので、マシな顔の写真があるが、儀式の失敗後は本当に荒れており、写真など撮られるのも嫌だった。
「それがまさか朱音や渚と恋人同士になって、こんな風に楽しく写真を撮れるようになるんだから、人生何がどうなるかわからねえな」
真夜自身もこの状況を楽しんでおり、朱音や渚と写真を撮れることを嬉しく思っていた。と、朱音が真夜の腕に手を回して密着してくる。
「ふふん。今だけは真夜を独占よ。次は渚に譲るんだから、少しくらいはいいでしょ」
普段は渚の事もあるので、抜け駆けのような事は控えているが、たまには朱音も真夜を独占したい気持ちはある。
以前ならば気恥ずかしく出来なかったことも、恋人同士になりそれなりの時間が経過していることもあり、今では難なく出来るようになった。
「俺は構わねえよ。二人には色々と気を遣わせて悪いな。我慢もさせてるだろうし」
「いいわよ、別に。あたし達は納得してるんだし。真夜にはいっぱい助けて貰ってるんだから。でも偶には少しくらいわね」
朱音は彼女らしい笑みを浮かべて真夜を見る。そんな朱音を真夜は愛おしく感じ、思わず抱きしめそうになるが、ぐっと我慢する。観光客も多いし渚もいる。するなら人が見ていない所でだ。
ついでに仲睦まじい二人の姿を渚は微笑ましく見ているが、内心では少し嫉妬しており、早く自分も真夜とイチャつきたい考えていたりもする。
「じゃあ撮りますね! お二人ともこっちを向いてください!」
嫉妬はしても真夜と朱音のどちらも大切な渚は、邪魔をしないように少しばかり時間を置き、タイミングを見計らって二人に声をかける。
「おう。悪い、待たせたな。じゃあ撮るか」
「ええ!」
二人は今までに以上の満面の笑みを浮かべ写真を撮る。この時の写真は、朱音の中で年老いてからも特に好きな写真の一つとなる。
「では私はあちらでお願いしますね」
渚が選んだのは奉神門から少し歩いた場所にある京の内と呼ばれる場所である。この場所は霊力のある聖域とも言われ、さらに霊力は満ち満ちている。木々が生い茂り、落ち着いているが独特の雰囲気がある。
「いい場所だな。霊気も澄み渡ってる」
「はい。首里城に来るなら、ここも来たいなと。私はここで真夜君と写真を撮りたいです」
渚は手頃な場所に移動すると真夜にそう告げる。
「わかった。朱音、頼むな」
「オッケー。じゃあ準備して」
朱音は二人から少し離れると、写真を撮りやすい位置に移動する。それを確認すると、渚も真夜の方に身体を寄せ、朱音と同じように真夜の腕に自分の腕を絡める。
「本当に夢みたいです。小さい頃に真夜君と出会えた事もそうですが、真夜君と再会してからは幸運ばかりです。今もとても幸せです」
渚は本当に幸せだった。京極では辛い思いをしてきたが、真夜と出会い再会してからと言うもの、次々に幸福が舞い降りてきた。
朱音と言う友人が出来、真夜と恋人になれた。父とも和解し、星守の養子になり新しい両親も出来た。何よりも真夜との関係を周囲に認められた。本当に今は都合のいい夢を見ているのでは無いかと思う時がある。
「俺もだよ、渚。まあ朱音にも言ったが、色々と迷惑かけてるし我慢させてるのは悪いと思ってるが」
「いいえ。全然いいですと。確かに偶には真夜君を独占したい気持ちも、朱音さんに嫉妬する気持ちもありますが、それを含めて今がとても幸せです。多分、朱音さんもいなかったら、私はここまで幸せを感じられ無かったと思います」
最初は険悪なムードであったが、今では笑い話だなと朱音とも話をする。朱音と同じで真夜を独占したいし、他の人に対して嫉妬してしまう自分が情けないとは思う。
「でも今だけは真夜君を独り占めしますね。本当はさっきの真夜君と朱音さんの二人を見て、羨ましいと思ってたんですよ?」
しなだれるようにさらに寄り添いながら言う渚に真夜は申し訳ない気持ちと、彼女が自分を好きで受け入れてくれた事に感謝と幸福感をかみしめる。
「俺もできる限り渚に不満を抱かせないようにするさ」
「期待してますね。それよりもそろそろ朱音さんに怒られそうなので、写真を撮りましょうか」
朱音は何か言いたそうな、でもさっきは自分もしていただけに何も言えず、それでも少し不満げに口を尖らせている。
そんな朱音に苦笑しつつ、真夜は可愛らしい二人の彼女達を大切にし、幸せにすることを改めて誓う。
「そうだな。じゃあ俺達も一枚撮ろうか」
「はい!」
そして渚の大切な思い出の記憶とその記録が新しく増えたのだった。
◆◆◆
風間家の鍛錬場では戦いやすい服装に着替えた真昼と嵐が向き合っていた。嵐は相変わらず女装したままで、コスプレ用の胸もそのままだ。
周囲は風間一族の手の空いている者達が集まっている。本来であれば嵐の事は隠すべきなのだが、すでに話が一族内で出回っており隠し通せもしなければ、本人も隠す気がないのでもはや意味が無い。
さらに嵐本人が手合わせをするに当たって、不甲斐ない負け方をすれば女装はやめると言い出した。
涼子としても女装をやめろと言いたかったが、トランスジェンダー問題は現代では色々とややこしいため言い出せなかったが、当人から言ったなら話は別だ。
しかし嵐は交換条件に、この戦いを風間の手の空いている一族や門下生、すべてを集めて公開する事を言い出した。
涼子や莉子にしてみれば、苦渋の決断だが朝陽からも嵐が認められるには、大勢の前でその力を示すしか無いと助言され、本人からも自信満々に言われた。
だからもう涼子も莉子も開き直って、集めるられるだけの人間を集めた。
ここで嵐が真昼相手に力を示せれば良し。不甲斐ない戦いを行うのであれば、女装をやめさせた上に、次期当主候補から一時的に外し、一から涼子と莉子の指導で次期当主になるための修行を課すとした。
そのためこのような観衆の多い手合わせが実現した。
「ったく。真昼がそんな事を言い出すなんてな。雷坂や真夜に影響されてるんじゃないか」
「ま、まあそれは否定できません。今の真昼様は明らかにあのお二人を意識しておられますから」
観客席で凜と楓は隣同士で座り、話をしていた。手合わせをすることになった顛末も、真昼から聞いた楓が凜に伝えている。
楓の言葉に凜は思わず苦笑する。真夜が変わったように、真昼も変わったなと凜は思う。もちろん悪い意味では無い。昔は積極性に乏しい少年だった。どこか儚げで、放っておけない雰囲気をしており、手助けしたいと思ってしまった。
けれども今は違う。楓を助けた時もそうだが、真夜と和解してからの真昼は昔からは想像も出来ないほどに積極性を増し、手助けしたいと思う気持ちが無くなることはないが、それよりも安心感が勝ってきた。
(本当にかっこ良くなったよな、真昼)
鍛錬場の中心に立つ真昼は、成長期ということもあり身長も伸び、大人びてきていた。その姿を見るたびに、凜の胸に熱い思いがこみ上げてくる。
「しかしまさかこのような事になるとは。その嵐殿に関しても……」
「いや、まあアタシも会った時はそりゃびっくりしたんだよ。まさかそんな事になってるなんて」
意識が真昼に向かっていた凜は、楓の言葉で我に返る。
帰国する前とはまったく違う姿になっていた嵐。会った時は本当に本人かと凜も思ってしまった。
真昼と向き合う嵐の姿はどこからどう見ても女性である。凜もプロポーションで負けているとは思わないが、そんじょそこらの女性ならば相手にもならない。
帰国して当初は嵐は偽者かと疑われ、妖魔に取り憑かれていたり、別人が憑依したりと、それこそ星守の交流会で真夜が疑われたような事を涼子や莉子は調べたが、女装をやめたら皆が知る嵐であり、お互いにしか知らない話は知っており、霊力も当人に間違いないため嵐本人と断言された。
涼子や莉子は簡単に断言したくなかったので、霊術を用いても徹底的に調べたが、逆にそれが嵐本人だと確信する事になるのは皮肉だろう。
「まあその事は風間の話だからいいとして、問題は今の嵐さんが真昼相手にどこまで戦えるかってことだな」
凜も嵐の格好に思うところはないわけでは無いが、重要なのはそこではない。
「今の真昼様は交流会の時よりもさらに強くなっております。もちろん劇的と言うほどではありませんが、すでに守護霊獣がいない状態でも、明乃様と八咫烏様と同時に相手取り、勝負になるほどです」
楓の言葉に凜は絶句する。交流会で明乃の強さは嫌というほど見た。その明乃と八咫烏相手に勝負になるほどになっているとは。
「まだ勝利したことはありませんが、何度か勝利寸前にまでになったことはあります」
ただ明乃も明乃で負けず嫌いで、特に真夜に破れた後は真昼にまで負けてなるものかと執念を燃やしている。
霊器が無ければ明乃も真昼に負けはしないが、真昼の霊器も真夜と別の意味で反則である。そのため八咫烏がいなければ、霊器を持つ真昼にはどうしても明乃が不利になる。
真昼は霊器を二つ有するだけでは無く、それに加え超級下位にまで達した前鬼と後鬼の二体の守護霊獣を有する。
一体だけでも厄介なのに、当人もそれに匹敵する力があるなど相手からすれば悪夢でしか無く、いかに明乃とて、どちらかでも出されれば敗北は必至だろう。
とは言えそれを差し引いても、今の真昼の成長速度は常軌を逸している。それは彰にも言える事だろ。
「はぁ。そりゃヤバいな。嵐さんも手練れだけど、どこまで真昼と戦えるんだろうな」
心配する気持ちもある凜だが、確かに次期当主になるならば、真昼に追いすがるレベルでなければ話にならなず、雷坂彰もそれと同じレベルなのだから。
「ただ、勘ですが真昼様と相対されている嵐殿も、どこか飄々としておりますが、中々の手練れだと感じられます。それこそ朝陽様と同じような雰囲気を感じます」
楓は真昼の勝利を疑っていないが、嵐にもただならぬ実力があるように思えた。それは凜も同じだった。凜も強くなったからこそ、今の嵐の強さと何となく感じることが出来た。
そんな二人と大勢の見守る中、審判を務めることになった朝陽の号令の下、真昼と嵐の手合わせが始まるのだった。
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