エピローグ
遅くなって申し訳ありません。
「今回俺とルフは超級妖魔の逃走を防ぐ役目をしただけで、他は何もしていないから、討伐の功績は全部二人のものって事で。なんなら俺は見てただけって事にしてくれた方がいいか」
禍斗を倒し、周囲を浄化し終えた真夜は火野に華を持たせるために、いつものように自分やルフはほとんど何もしていないと主張した。
当然のように二人は難色を示した。確かに真夜は二人に比べれば活躍らしい活躍をしていないようにも思えるが、サポートに徹してくれていて、結界の展開だけでなく、回復や防御、浄化などの援護を行ってくれたし、赤司に関しては強化まで行ってくれた。ルフの牽制も含めれば、とても活躍していないとは二人は言えなかった。
だが爆斎や朱音の件に加えて、今回の件で真夜への不満がさらにくすぶる懸念もあった。
だから真夜はこれ以上、火野での潜在的なヘイトが溜まらないようにするためにも、自分が出しゃばらない方がいいと二人を説得した。
「それに損して得取れだ。俺には名声や名誉よりも、火野の当主と次期当主候補の二人に恩を売っておいた方がいいと思ってる。朱音の件は一応片づいたが、これからも火野とは仲良くしていきたい。親父や婆さんじゃなく、俺個人への借りって事で今回は受け入れてもらいたい」
焔はそれでも何か言いたそうだったが、赤司の方はその提案を受け入れ逆に焔を説得した。
「父上。彼の言うとおりにしましょう。この借りは俺が。当主になった後でも必ず返します!!」
赤司は今まで以上に強く自分の意見を主張した。また今まで自分から当主になると口にすることがなかった赤司がそれを口にしたことに、焔は驚いた顔をする。
「俺は、もっと強くなります。火野の名に恥じぬように」
今までに無いほどに、強い意思と決意を感じさせる言葉と目。昨日までの赤司とは違う。どこか頼もしさまで感じる。赤司に今まで足りなかった物を、手に入れたかのように焔には思えた。
「そうか。そうだな。わかった。お前の言うとおりにしよう」
当主として一族の利益を優先する立場にもある焔は、この提案を受け入れることにした。
(それにしても、雷坂も星守も若い連中に優秀なのが多いな。その事で赤司の将来も心配していたが、これなら大丈夫そうだ)
真昼の話や、昨日の真夜の戦いぶり、彰の活躍などを見聞きしてきた焔は赤司が将来、火野を背負って立てるのか、その地位や重責、果ては周囲の一族の当主との差に押しつぶされないのかと懸念を抱いていた。
しかし今の赤司の姿を見て、それが杞憂に終わったと安堵していた。
(昨日の今日で何があったのか。落ち着いたら一緒に酒でも飲み明かして話を聞いてみるか)
禍斗を倒した余韻と息子の成長に、焔は思わず顔をほころばすのだった。
◆◆◆
新年早々からの超級妖魔の出現。退魔師界を賑わせるには、十分な話題だった。
だが超級妖魔も火野の当主と次期当主候補の二人により、即座に討伐されたと言うことで、混乱に陥るほどの事態にはならなかった。
禍斗の封印を解く切っ掛けとなった二人組は、その後SCDに引き渡された。真夜との取引もあったため、国選弁護士ではなく、星守が何人か抱えている顧問弁護士に依頼する手はずを朝陽は整えたのだが、こちらは罪を減刑させるのではなく、本人達の反省を促すような形に持って行くとのことだ。
特級クラスの式神の禰々子は、真夜達が討伐に向かっている最中は二人組を監視するために残り、朝陽達の到着後は、事情を改めて伝える役目をしていた。その後は一旦は渚が契約していたため、星守の預かりとなったが、どうするかは改めて寺院の住職との話し合いで決めることになっている。
火野も焔と赤司が超級を討伐したことで株を上げた。真夜はあらかじめ伝えていたとおり、禍斗を逃がさないように結界を張っただけとして、その手柄のすべてを二人に譲り渡した。
火野の長老や他の者達も、真夜や星守にこれ以上大きな顔をされないで済んだと胸をなで下ろしたようだ。
「うまく事は運んだようだな」
「おかげさまでね。いつもみたいに真夜が功績を譲ってくれたから、火野も面子を保ったし、伯父様や赤司さんの評価も上がったみたいだから」
「真夜君は本当に功績には無頓着ですよね。もっとも、功績よりも実益を取っているのはわかりますが、少しは気にしてもいいと思います」
正月も過ぎ、下宿先のマンションに戻ってきていた真夜達は、いつものように真夜の部屋に集まっていた。
真夜達に取っても大変な正月となったわけだが、終わりよければすべて良しとそれほど気にせず、冬休みの終わりもあるので、後始末や面倒ごとの大半は明乃や朝陽に任せて早々に戻ってきたのだ。
「別に功績に関してはいいだろ。星守の交流会以降は偏見の目も減ったし、朱音や渚の件は片が付いたんだ。どうでもいいとは言わねえけど、必要以上に求める必要もないだろ?」
異世界に行く前の真夜ならまだしも、今の真夜に名誉欲などはない。元々欲しかった力は手に入れた。
あの異世界での激動の四年間で経験や仲間達は、何物にも代えられない真夜に取っての宝であるし、この世界で手放したくないと思った朱音や渚の事も、上手くいったのだ。
これ以上、多くを望むべきではないと言うのが真夜の考えでもあった。
「でもあの二人組みたいに、まだ真夜が凄いって事を知らない奴が大勢いるかも知れないのよ? だったら、少しくらいは有名になるように動いてもいいんじゃないの?」
「はい。真夜君が馬鹿にされるのは許せません。今までの功績を考えれば、おそらく国内には真夜君に功績で勝る人はいないと思いますし」
「あー、まあ二人に不快な思いをさせないためにも、もう少し有名になる方がいいかもしれないが、あんまり行き過ぎると面倒ごとも増えるだろ。ただでさえ色々な事に巻き込まれてるのに」
真夜のぼやきに朱音と渚は確かにと顔を見合わせる。
「いや、そこは少しは否定してくれよ」
苦笑する真夜だが、否定しようがないのだから致し方ない。
「それにしても赤司さんは律儀だな。お礼とお詫びの手紙とデートに使ってくれって、色々な所のチケットを送ってきてくれたぞ」
帰ってきてすぐに、真夜の所に速達の郵便で赤司から自筆で書かれた手紙と先日の初詣のデートを台無しにしたお詫びもかねてと言うことで、真夜達が住んでいる場所から近い所のデートスポットや映画館で使えるチケットなどが送られてきた。
手紙は短くもなく、さりとて真夜を気遣ってか長くもない内容で、真夜に対する感謝の念が綴られていた。
「そうそう。あたしも念入りに真夜によろしくって言われたわ。それとあの後の赤司さんは凄かったわよ」
朱音も火野に帰還してからの赤司の変化に驚きを隠せないでいた。
「あんまり自己主張しない人だったのに色々と積極的になって、火野の四天王入りのための入れ替え戦もするって言い出して。他にも次期当主になるのは自分だって、大勢の前で宣言したのよ」
今までの裡に溜まっていた感情を吐き出したのと、父と一緒だったとは言え超級妖魔を倒した事で自信もついたのか、今までに無いほどの覇気を纏う赤司に、周囲はどよめいたそうだ。
また赤司も彰の様に真夜に触発されたのだろう。焔や爆斎とは違う、年齢の近い真夜から感じ取った強さを自らの目標と見定めたようだ。氷室での黒龍神の事件で水波流樹が星守朝陽に当主としてのあり方を示されたように。
「赤司さん、何というかあたしでも肌で感じるほどに強くなったって気がするの。今のあたしでも簡単に勝てないどころか負けるかもって思うほどに」
「それは凄いですね。実際、そんなことがあるんですね」
「いや、二人もそうだったぜ。赤司さんの場合、吹っ切れたのもデカいだろ。俺も経験あるけど、そうなった時の伸びは凄いぞ。元々十代で霊器を顕現できるだけの天才と言われる才能はあるんだから、これからも伸びるだろうよ」
流石に真夜や真昼、彰ほどではないだろうが歴代の火野や他の六家の当主と比べても上位の強さになれる可能性はあるだろう。
「あたし達も負けてられないわね」
「はい。まだまだこれからですね」
朱音も渚も気合いを入れ直す。
「ほどほどにな。さてと、少しゆっくりしたら、三人で出かけるか。赤司さんからのお礼、さっそく使わせてもらおうぜ」
「いいわね。あたしも渚も実家の問題も片付いたし、今年はもっと三人で色々な所に行きましょう! 泊まりの旅行とかもありかもね」
新年早々から色々とあったが、真夜のおかげで婚姻に関しては火野はもう口出しできない。元々黙認されていた所はあるが、大手を振って真夜や渚と色々な所へ出かけたり、関係を進めることが出来ると朱音もほくほく顔である。
「とてもいいと思います。でも私はこうやって三人でいられれば、どこでも楽しく思います」
渚も朱音の提案はとても素敵に思えた。真夜に再会し、朱音と友人になってからは普通の女の子のように、今までに経験したこともないような事をたくさん出来るようになった。真夜や朱音といる事は、渚にとってとても落ち着ける時間であり居場所だと思えた。
「えー、渚は欲がないわよ! いいのいいの! 学生のうちにしか出来ない事もあるし! 真夜もそう思うでしょ?」
話を振られた真夜も笑みを浮かべる。
「そうだな。俺も三人と出かけるのは楽しみだよ。エスコートはしっかりさせてもらうさ」
二人が真夜を好きなように、真夜も二人を大切に思っている。だから失いたくないし、離したくもない。
(二人を守るって言うのは烏滸がましいんだろうけどな)
二人からすれば守られてるだけは嫌だと、強くなる決意を持っている。それを尊重はするが、危ない目には遭って欲しくないと思う。
(けど何があってっも二人は守る。俺は異世界でも勇者パーティーを守った守護者だからな)
真夜も朱音や渚のように決意をする。弱体化から解放された後は、さらに強くなる。大切な人達を、その人達の幸せを守るために。それが自分の幸せでもあるのだから。
「期待してるわね、真夜! それじゃあ、こっちに帰ってきたことだし改めまして。真夜、渚! 今年もよろしくね!」
「私の方こそ、朱音さん、真夜君。今年もよろしくお願いします」
「ああ。俺の方こそ、よろしくな」
三人は笑い合い、穏やかな時間を過ごす。この時間がずっと続くようにと。
遅くなりましたが、これでこの章は終わりです。
お楽しみ頂けましたでしょうか?
前半に盛り上がりがあり、後半はさほどの感じでしたが何とか良い感じに着地できたかなと思います。
次はスポットが当たっていない風間編か再びの京極編でも書こうかなと思います。
異世界編も構想はあるのですが、こちらは前も言ったかもしれませんが、過去編ではない異世界編になるかなと思います。
デスマーチがある程度落ち着いてきましたが、まだ終わりが見えないので続きがいつになるかは未定ですが、お待ちいただけますと幸いです。
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今後とも頑張りますので、よろしければ感想や評価などで応援今後もよろしくお願い致します。




