表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『コミック最新巻、7月8日発売!』落ちこぼれ退魔師は異世界帰りで最強となる  作者: 秀是
第十一章 火野一族編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

202/244

第一話 星守と火野

 

 一月二日早朝。真夜は渚や朝陽、結衣と共に星守で長年勤める、専属の運転手の運転する星守所有の車で火野へと向かっていた。


 当主夫妻とその子供が正月の期間に火野へと直接出向くのは、今までに無かったことである。


 今年は真夜と朱音の関係もあり、星守側が挨拶に出向く事で、相手方の心証を良くする意味でも火野の長老衆が星守側の条件を受け入れやすくする目的もあった。


「お義母様も来たがっていましたね」

「残念だけど仕方が無い。私達だけでなく母様まで来たら、間違ったメッセージを火野に与えかねないからね。それは真昼もだけど」


 星守の当代、先代、次代当主が全員で火野へと赴くと、星守が火野にプレッシャーを与えていると捉えられるかもしれないが、逆に火野一族は真夜の婚姻のためとは言え、三代に渡る当主が一同に来ることで、火野の方が風上だと勘違いする可能性があり、またほかの六家も星守は火野の風下に立ったと思われかねないという懸念もあった。


 当人達にその意図はなくとも、外野やこの事を利用しようとする輩は確実に現れる。だからあくまで通常の婚姻を進めるために、両親と息子が来たという体に抑えたいのだ。


 明乃としては表面上は変わらずだが、内心では自分が交渉に赴けないことに歯ぎしりしていただろう。


「色々と面倒ですね。当人達の気持ちでスムーズに進められたらいいんですけど」

「母さん達の時も大変だったんじゃないのか?」


 頬に手を当てて、困った顔をする結衣に真夜は何となく思ったことを口にした。


 朝陽が選び退魔師としての素養があったとは言え、特別な一族の出身でも無い結衣を嫁にするのには、今ならばともかく、昔の明乃や星守一族ではかなり抵抗があったのではないかと想像した。


「あっ、真夜ちゃんも聞きたいですか? 私と朝陽さんはそれはもう大恋愛の末に、色々な苦難を乗り越えてゴールインしましたからね!」

「はははっ、懐かしいね。確かに色々と苦労したけど、その甲斐あって結衣を奥さんに出来たからね。もう語り出したら、少なくとも一晩は語り尽くせるね」


 相変わらずの二人に真夜は語り出させたら、本当に長くなりそうだなと些か顔を引きつらせる。


「まあその話は今度ゆっくりしよう。それよりも今日の火野での挨拶に関してだ」


 朝陽は自分達の事を語りたいのを我慢して、今日の主役である真夜や渚、朱音の話を優先することにしたようだ。


「先方には色々と話を通しているし、今日は以前から話し合っていた真ちゃん達の婚姻の最終確認がメインだ。その際に、真ちゃんや渚ちゃんの火野での顔見せもある」


 火野一族としては名前や功績は報告書などである程度知っているが、直接見たわけでは無い真夜や渚の事を疑問視したり、誇張されているのではないかと疑う人間がいる。


 真夜に関しては今まで落ちこぼれだった人間が、この短期間でそれほどまでの力を身につけたと言われても、素直に信じられる物では無いだろう。


「下手すりゃ絡まれるかな」

「面倒ではありますが、その方が手っ取り早いかも知れませんね」

「その場合、こっちの力を見せつける好機でもあるしな」

「朱音さんの手前、出来れば穏便に済ませたいですが、やむを得ない場合は、少々強引に行くのもありかもしれませんね」


 真夜も渚も相手に侮られるつもりはなかった。なぜか相手が絡んでくる前提で話をしていることに、朝陽も結衣も苦笑する。


「真ちゃんだけじゃなく渚ちゃんも過激だね。まったく誰に影響されたのやら」

「親父にだけは言われたくねえよ。この間の交流会だって、こっちからすれば過激だったから、親父に影響されたんだろうよ」


 星守の交流会では、増長した身内を窘めるために朝陽は他家の若手をぶつけてきた。他にも朱音と渚、楓と凜、真夜と明乃の対戦を組んだことを考えれば、真夜からしてみれば朝陽も十分に過激だと思える。


 そんな息子からの言葉に朝陽は肩をすくめる。


「やれやれ、一本取られたね。でもほどほどにね。今の真ちゃんもだが、渚ちゃんの強さも間違いなく退魔師全体でも上位。火野だけなら渚ちゃんに勝てる相手も限られているだろう」


 戦闘では無類の強さを誇る火野一族だが、朝陽は直接戦闘でも相性や搦め手、式神などを用いれば渚に勝てる相手は両手の指の数にも届かないと見ていた。


「とは言え、火野も渚ちゃんだけじゃなく、真ちゃんの強さを未だに信じてない輩はいるみたいだからね。確かに真ちゃんの場合、直接見ないと信じられないのは無理も無いとは思うが」

「俺もそれについては親父とまったく同意見だ。百聞は一見にしかずって言うしな」

「だからと言って、こちらから喧嘩をふっかけるのは論外だ。まあ真ちゃん達はそんな事をしないってのはわかってるけど」

「真夜ちゃん達は大人ですからね。でももう少し子供らしくママに甘えてもらいたいんですけど」


 朝陽も結衣も過激な事を言っていても、真夜や渚が大人な対応をすることはわかっていたので、むしろ相手から絡んできても上手く対応するだろうと思っていた。


 火野も若手は血気盛んな者はいるだろうし、朱音も火野の中では色々とあったがお姫様扱いしている若手もいるようなので、一悶着はあるだろうと朝陽も考えている。


 結衣は結衣で大人びている真夜達に少しばかり不満はあるのだろう。子供達がしっかり育ってくれているのは嬉しいが、それはそれとしてもう少し甘えて欲しいとか頼って欲しいと言う気持ちがある。


 ちなみに、某守護霊獣の堕天使がうんうんと頷いていたとかいなかったとか……。


「大丈夫だって。そこは上手くやるさ。けど親父もその方が色々と都合が良いんだろ?」

「はははっ、真ちゃんにはバレバレだね。紅也達には悪いけど、そうなった場合は利用させてもらおうかな」


 ニヤリと笑う真夜に朝陽もどこか意地の悪い笑みを浮かべる。それを見て渚と結衣は似た者親子と思いつつ、苦笑するのだった。


 ◆◆◆


「朱音ちゃん! もうすぐ真夜君達が来るね!」

「そうね。でもどうして火織がそんなにテンション上げてるのよ?」


 火野の本邸では、着物に着替えて化粧を施した火野朱音と、同じく着物を着た朱音の従姉妹の火野火織が話しかけていた。


「ええっ~。だってボク、こういうの初めてだから。しかもあの真夜君が朱音ちゃんをくださいって挨拶に来るんでしょ? 朱音ちゃんは緊張しないの?」

「火織もこの間の交流会で真夜や渚とは会ってるでしょ? それに別に緊張してないわよ。ただの一族への真夜と渚の顔見せだし、お父様達にはもうすでに真夜がきちんと話をしてるから」

「す、凄いね。でも流石の真夜君も火野での挨拶は緊張するんじゃないのかな?」

「どうかしら? でも真夜なら大丈夫よ、きっと」


 どこか余裕すらある朱音に火織は気圧される。帰省した朱音は前以上に落ち着いており、余裕があるように見えた。


 と言うよりも火織から見てもどこか大人びたというか、女の魅力が増したような気がした。


 分家や残っている門下生の若手からも、前以上の熱い視線を向けられていた。


「朱音ちゃん、なんか凄く余裕があるよね。もしかして真夜君と、そのクリスマスに……」

「ふふん……」


 火織の言葉に朱音は鼻を鳴らすと、どや顔を浮かべる。クリスマス前にはようやくキスを達成した。順調に進展していると確信しているのと、キスをされた、したことでさらに朱音に余裕が生まれていた。


 朱音は友人の玲奈や可子には真夜とキスをしたと自慢したが、やはり火織にも自慢したい。


 それに年末の別れ際にもキスをしたし、今日はまた会えるしと浮かれ気味である。


「真夜君とエッチしたの!?」

「まだしてないわよ!?」


 想像していたのとは違う火織のあまりの言葉に、思わず顔を真っ赤にして朱音は叫んでしまった。


「キスよ、キス! 真夜とキスしたの!」

「えっ!? だって朱音ちゃんって大人っぽくなってたし、凄く余裕があるから、ボクはてっきり……」

「だからって何でそう言う話になるのよ!?」


 朱音としては真夜とそう言う関係になるのは望むところだし、期待もしてるのだが、それを他人に、それも従姉妹に実家で指摘されるのは、気恥ずかしいのがある。


「それに、まだって事はそのうち……」

「うっ、いや、それはその……そりゃ、恋人同士になったんだし、ねぇ?」


 目をそらしながら、曖昧に答える朱音に火織は食い気味に見てくる。


「あ、あたしの事は良いでしょ!? それに渚もいるんだから、そんな関係になるのもまだまだ先だと思うし……」

「ま、まさか! さ、さんぴ……」

「それ以上はだめぇー!」


 気恥ずかしい事もあり、朱音は火織を押し倒すかのように口もとに手をやり、それ以上喋らせないようにしようとして、そのまま二人は倒れ込むように重なる。


 と、そんな時、二人がいる部屋の襖が開かれた。


「……」


 朱音の従兄弟で火織の兄である赤司だ。二人とも多少の衣服の乱れがあり、絡まり合う姿に赤司は目を見開いたかと思うと、そのまま無言で襖を閉めた。


「待って、お兄様! これは違うの!」

「そうよ! 待って! 誤解なの!」

「……わかっている。俺は何も見ていない」


 襖の向こうから赤司が俺は何も見ていない、見ていないと呟いているのを、朱音と火織は何とか誤解を解こうと奮闘する。


「まったく。何をやってるんだ」

「朱音、服が乱れてるよ」


 そこへ朱音の両親である紅也と美琴がやって来た。

「真夜君達が来るからとはしゃぎすぎだ。今回の顔合わせは重要なのは朱音もわかっているだろ」

「ほら朱音。少し向こうに行こっか。服直してあげるから。火織ちゃんもね」


 美琴は呆れつつ、朱音と火織を連れて部屋の中に入ると、襖を閉める。


「本当に朱音の奴は……」


 紅也は娘の騒がしさに呆れつつも、嫁のもらい手がきちんと出来ていたことに心の底から安堵していた。


 しかし紅也は朱音ほど浮かれているわけにはいかない。真夜や朝陽が火野の顔を立てる形で、わざわざ来てくれるのだ。失礼があってはいけないし、今回の事をもってきちんと長老衆に三人の仲を認めさせる。


(まあ朝陽が相手だから長老衆も下手な事は言わないだろうし、しないだろう。すれば逆に朝陽がやりこめるだろうしな)


 あの飄々とした狸の朝陽を、紅也は長老衆以上に厄介で絶対に敵に回したくないと思っていた。それに真夜もまた朝陽とは別の意味で敵に回したくない。


 あの二人を甘く見ているのならば、長老衆には悪いが良い薬になるだろう。逆に怒り狂うかもしれないが、知ったことでは無いし、今の星守を敵に回して勝てると思っているのならば、それこそおめでたいと紅也は思う。


(まっ、火野に落ち度があれば、兄者には悪いがそれを理由に家族で出奔すればいいだけか。そこまでいかなくても、朱音だけを星守に嫁に出せば良いだけだし)


 浮かれてはいないが、楽観視はしている紅也。最悪の最悪は真夜と朱音の婚約が流れることだが、絶対にそれだけはないと紅也は確信していた。


 それどころか火野が難色を示せば、あらゆる手段を以てでも朱音を嫁にするために行動すると思うほどに、紅也は真夜を信用していたし、朝陽の事も信頼している。


(長老連中が何を画策しようが、出来る事なんてないだろうし、せっかく出向いて来てくれた相手の顔を潰せば、星守を完全に敵に回すからな)


 真夜と朱音の婚姻を絶対に成就させると意気込んでいるのは、朝陽達だけでなく明乃もだと紅也も聞いているので、ここで朝陽達の顔に泥を塗る真似をすれば、明乃を激怒させる事は目に見えている。


(忠告も警告もしたが、それでも聞かないのなら、俺の知ったことじゃない。兄者には苦労をかけるが、こっちも娘の幸せがかかっているからな)


 一族と娘。別段、当主の地位についてもいない紅也からすれば娘の幸せのために動くのは当然である。


「叔父上」


 と、そんなことを考えていると不意に、いつものようにあまり表情を変えずに立ってる赤司から声をかけられた。


「おっ、どうした、赤司?」

「今日来る星守真夜は、それほどまでに強いのですか?」

「ああ、強いぞ。赤司はこの間の星守の交流会は、火野の仕事が入っていて参加できなくて直接は見ていないから、疑問に思うのも当然だが、強さは私が保証する。娘を安心して嫁に出せるくらいに真夜君は頼りになる男だ」


 赤司は紅也の言葉に僅かに表情を変える。赤司からすれば、紅也が身内相手でもそこまで褒めることが無かったからだろう。


「俺よりも、強いですか?」

「赤司。そう自分と他人を比べるな。上には上がいるしな。私もそう言う経験や苦い思いをしたことはある。お前の父の兄者にも俺は負け続けていたしな」


 思い詰めたように聞く赤司に、紅也は諭すように言う。紅也も昔からどうしても勝てない相手と言うのは身近にいた。兄である焔、友人である朝陽。


 兄からも赤司が伸び悩んでいると聞いていた。だからこそ紅也は今の赤司の気持ちを察することが出来た。


「焦りはあるだろうし、周囲と自分との差に苦しい思いをするかもしれんが、赤司も間違いなく強い。霊器を顕現できているんだ。もっと自信を持て。私ならいくらでも話は聞く。だからあまり思い詰めるな」

「……ありがとうございます」


 赤司は礼を言い、頭を下げると失礼しますと言いその場を後にする。


 そんな甥の背中に紅也は一抹の不安を覚えるのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
上には上が居るから、俺も腐らずに精進しよう! とは中々ならんもんだよなぁ・・・ そこまで割り切ることがどうしてもねぇ?特にこの場合は真夜が落ちこぼれの最下層に居たってのもやっぱ加味してなぁ。
朝陽は真夜のことを「真ちゃん」と呼んでいるけど、真昼のことは何と呼んでいたっけ?
更新お疲れ様です。 さあ、いよいよ今日は火野へ挨拶に行く日です! 真夜と渚はもちろん、朝陽と結衣の両親も一緒で車で向かっているところですが、車内の会話は家族団欒どころか、なかなか過激な文言が飛び交っ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ