表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『コミック最新巻、7月8日発売!』落ちこぼれ退魔師は異世界帰りで最強となる  作者: 秀是
第六章 六道幻那編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

117/244

第十六話 猛攻

三日連続更新!



 真夜と幻那、ルフと空亡は超一流の退魔師達から見ても、想像を絶する戦いを繰り広げてた。


 強力な妖術を駆使し、相手を葬り去らんと果敢に攻める幻那。前回の戦いや、罪業衆との戦いでの真夜の戦闘スタイルから接近戦に持ち込ませないように、幻那はあえて中・遠距離から攻撃を徹底した。


(ちっ!)


 真夜は内心で舌打ちする。近づけない。


 弾幕のように放たれる妖気の弾丸。妖気が鴉や狼などの姿を模し、まるで生きて意思を持っているかのように真夜に襲いかかる。


 接近しようとすれば、幻那の影が伸び、地面から槍のように鋭利に突き出て、真夜の接近を阻止しようする。またそれらを回避した瞬間には、収束した妖気をレーザーのように放ってきた。


 防戦一方であり、まともに攻撃を受けることもできない。


 霊符の大半を結界に回しており、手元には二枚しか無い。一枚を自身に貼り付けることで防御と強化に使い、もう一枚は攻撃や回避できない攻撃の迎撃に使用している。


 だがこの枚数では牽制程度の攻撃ならまだしも、今の幻那の上位クラスの攻撃を受ければ防御を確実に突破されてしまう。


 前回の戦いにおいて、二人は接近戦で戦っていた。


 幻那もあの時は真夜の戦闘スタイルを看破できていなかった。さらにルフがいたことでの不利な状況や、地力で真夜に負けていたことなどもあり、精神的にも余裕はなかった。


 だが今は違う。幻那はすべてに備えていた。京極だけでは無い。最大の障害である真夜に対しても、ルフに対しても万全とは言えないかもしれないが、備えうるだけの準備をしていた。


(貴様は確かに強い! だが今の私は以前とは違う! 地力も上がっている! 堕天使に対抗する手駒もある! 貴様に対しての戦術も組み立てている! 今度は負けはせん!)


 ルフを空亡に任せることで、幻那は真夜に集中できた。ルフを相手に空亡がどこまで戦えるかは未知数だが、すぐに敗北することだけはないと確信していた。


 事実、地上で戦う二人と同じように、上空でぶつかり合う二体の戦いも拮抗してた。


 さらに真夜は幻那の攻撃が朱音や渚の方にいかないように、戦う位置にも気を遣っている。


 幻那も呪いを完遂させたいので、直接彼女たちを狙おうとはしないが、それも状況次第ではあえてそちらに攻撃し、真夜にさらなる選択を迫る腹づもりだった。


 その意図を真夜も察してはいるため、迂闊な動きをするわけにはいかなかった。


(それにこっちの戦闘スタイルを見切られてる!)


 真夜は幻那が一切の接近戦を仕掛けてこないことで、こちらに遠距離攻撃の手段が無いことを見抜かれていることを悟った。


(ルフと同じかそれ以上に厄介な相手。魔王軍の幹部との戦い以来だぞ!)


 高野山でのルフとの模擬戦で、自分の弱点を浮き彫りにされていたが、だからとて一朝一夕で解決できる問題でもなかった。


 霊符がもう少し戦闘に使用できれば違う対応もできたが、幻那を逃さないようにするためでは無く、渚達の呪いや負傷の事を考えればこの結界を解くわけにはいかない。


(くそっ! 何とか近づかねえと!)


 だがそれを簡単に許す幻那では無い。幻那は右手に黒い炎を、左手に黒い雷を作り出し解き放った。黒い炎と雷は虎の姿となり、地を駆け真夜へと迫る。


「くっ!」


 迎撃するしかない。両手に霊力を収束して迎え撃つ。両手でそれぞれの虎に拳を叩き込むと、炎と雷は一瞬で霧散した。


「まだまだ!」


 幻那の攻撃は終わらない。先ほどと同じように黒い炎と雷に加え、黒い風まで巻き起こした。


 朱音や彰、凜がしたように、三つの力を合わせ増幅させている。しかも朱音達が三人がかりで行った事を幻那は一人でこなし、さらにその威力は段違いだった。幻那は弾丸や刃のように真夜に向けて放ってくる。


 霊符一枚の防御では、まともに受ければ突破される。回避か受け流しをしなければならず、完全に真夜は防戦に追い込まれた。


 幻那に油断や慢心は無い。真夜よりも強大な力を手に入れた自負はあるが、だからといってその力にあぐらをかき、余裕を見せる事もしなかった。


(この男は銀牙や私を、黒龍神を、罪業衆を、数多の敵を討ち滅ぼしてきた! 常に私の想像を超えてきた! そのような存在を相手に余裕を見せるなど、手を抜くなどできるはずもない! このまま一方的に攻撃を続け、確実に仕留める!)


 前回の戦いでは幻那の方が先に妖気が底をつく可能性が高かったが、今回は逆だ。幻那の今の妖力は真夜の霊力を上回る。


 そして今回は真夜を倒せばすべてが終わるところまで来ていたため、後のことを考えずに幻那は真夜打倒に全ての力を解放できた。


 翻って真夜とルフは万全では無い。京極に戻るために無理に空間を貫くという暴挙を行った。星守救援のための朝陽達や、この場の渚達に託していた霊符の消耗もある。さらにこの結界を維持し続けるだけで、真夜の霊力は急速に消耗していく。


 加えて真夜には焦りもあった。幻那との戦いに使用できる霊符は二枚のみ。格下相手ならばともかく、今の幻那が相手では無謀というしかなかった。


 異世界で真夜は守護者として誰かを守りながら戦うことなど日常茶飯事だったが、それは頼れる仲間がいる状態でのことだった。


 もちろん仲間がいない状況で格上と一人で戦い、誰かを守る事は何度も経験したし、勇者パーティーにおいても皆を守り続けてきた。しかしその場にいなかったとしても、心許せる頼れる仲間の存在は、真夜に無意識に精神的なゆとりを持たせていた。だが今は自分と同格の仲間はおらず、援軍も望めない。


 渚の事や戦いの主導権を完全に幻那に掌握されたことで、霊力の残りを考えながら戦わなければならず、様々な要因が積み重なり、想像以上にストレスとなって真夜を蝕み、集中力と体力、精神力を大きく消耗させていた。


 幻那が真夜に対して行った陽動を含めた策は、遅効性の毒のように不利な状況、不利な状態へとどんどん追い込んでいく。


(まずい! このままじゃこっちの方が先に霊力が底をつく! それにルフの方も互角! あれじゃ援護も期待できねえ!)


 今までどんな敵もなぎ倒してきたルフだったが、この世界に来て初めての同格の相手。ただそれだけならばルフとて勝ち筋を見いだす事ができただろう。


 だが空亡は今までの敵とは違う。


 最強の妖魔、すべての妖魔を滅ぼす妖魔としての概念の下に生まれた空亡は、妖魔に対して絶対の優位性を持っていた。


 ――妖魔である限り、空亡には勝つことができない――


 ルフに対してはその効果は薄かったが、彼女の攻撃は空亡の概念により威力を減衰されてしまっていた。大幅な減衰とまでいかなくとも、同格の力を持つ者の戦いではその差は無視できるものではなかった。


 また空亡も特殊な概念だけ持つ妖魔では無い。四つの浮遊する腕が空中を飛び回るルフを掴まんと縦横無尽に飛び回る。


「Aaaaaaaaa!!!」


 ルフも成されるままでは無い。翼をはためかせ、羽を弾丸のように射出して空亡を攻撃する。


 だが空亡本体から太陽のフレアのごとく、炎があふれ出し、ルフの攻撃を撃退し、近づけさせないようにしている。


 いくつもの攻撃が双方から放たれ、ぶつかり合い、相殺し合い、空を爆発で埋め尽くしていく。爆発を利用して空亡の手がルフに迫るが、彼女は腕に霊力を集中し、剣のように伸ばすと切り払う。


 しかし空亡の手は残り三つもあり、切り払った一つも消滅させるには至らない。接近する手、掌から光線を放つ手、牽制するよう飛び回る手。ルフを翻弄し、彼女を打倒せんと虎視眈々と狙う本体。


 ルフも大技を放つが、そのことごとくが空亡に防がれている。


 また流れ弾や衝撃が真夜や渚、他の者達へ行かないように気を配っていることもあり、彼女も不利な戦いを強いられていた。


 戦いの天秤は幻那達に傾いていた。


 だがそれを打開する一手が、彼らの予想していなかった所から生まれるのだった。



 ◆◆◆


 真昼は自らの霊器を渚に突き刺した。


 朱音は絶句し、真昼に何かを言おうとしたが真剣な表情の真昼の顔を見て、何も言えなくなった。


 暴挙に等しい行為であり、瀕死の人間に行えば確実に命を奪うだろう。


 だが透き通るような白刃の剣と刀は、渚ではなく、別の物へと影響を与える。


「くっ!」


 苦悶の表情を浮かべる真昼だが、霊器に霊力を集めると共に集中力を高めていく。


(複雑で強力な呪い。真夜のこの結界でも消し去ることができないほど。でも確実に真夜の結界はこの呪いに対して効果を出している。なら今の僕であればなんとかできるはずだ!)


 生者の肉体に影響を与えず、呪いなどにだけ効果を発揮させる。言葉にすれば単純だが、それがどれほどの難易度か。霊器は確かに霊力が形を持ったものだが、物理的な効果ももちろん存在する。


 刀の霊器ならば妖魔だけで無く生身の人間も当然に傷つけ、殺めることができる。


 しかし真昼は真夜と同じようにそんな霊器の常識を覆した。


 魔の存在に対して圧倒的優位を誇る破邪と浄化の力を持った刀と、すべての霊術の構成を破壊し元の霊力に分解させる剣で、渚に影響を与えず、尚且つ呪いにだけ作用させるという神業を真昼は行おうとしていた。


 刀による破邪と浄化で呪いの影響を極限まで削ぎ、呪いとは言え術である呪いの術式の構成を剣で破壊する。


 幻那が作り、発動させた呪いは生半可な物では無い。複雑に絡み合う糸どころか、強固な鎖のように巻き付いている。


 もし真昼だけでこの呪いを解こうとしても、決して解くことも破壊することもできなかっただろう。


 だが真夜の結界が呪いを押し止めている。拮抗させている。その状態であるからこそ、第三者の介入でその天秤は容易に傾く。


 しかしそれでも並外れた力で無ければ、拮抗状態を崩すことなどできなかったのだが、結界内にいることで真昼の霊器は真夜の霊器に反応し、共鳴しあうことで相乗効果を上げていた。


 双子であり、真夜の力を真昼が取り込んでいるため、この場において真昼は誰よりも真夜の結界による恩恵を受けており、この結界内に限って言えば、彼の霊器の性能は最強の退魔師である朝陽を凌駕した。


 真昼の脳裏に、恐ろしい邪気を放つムカデの姿が映る。こちらを威嚇し邪魔はさせぬとばかりに襲いかかってくる。真昼は冷静にムカデと対峙し、己の持てる力を向ける。


 真昼とムカデが激突し、交差し、そしてお互いの後方へ離れていく。


 ギ、ギギギギギギギギ…!!


 ムカデの身体がパキパキと音を立ててひび割れていく。


 数秒の後、ムカデの身体がはじけ飛んだ。


 カッと現実の真昼が握っていた刀と剣の霊器が発する光が強くなった。すると渚の身体に浮かび上がっていたムカデの刺青が消滅していく。真昼が刀と剣を引くと彼女の呼吸も落ち着き、傷も癒える。


「う、うっ……」

「渚!? 大丈夫!?」

「……あか、ねさん?」


 うっすらと目を開けた渚は目の前にいる朱音の名前を呼んだ。


「よかった! もう大丈夫だから!」


 感極まって思わず渚の身体を抱きしめた朱音だったが、少し苦しいですと言う渚の言葉にはっと我に返りばっと彼女の身体から離れる。


「私は……、っ! 朱音さん! 六道幻那が!」

「ええ。今は真夜が戦ってくれてる」

「真夜君が!?」


 すぐに周囲を観察すれば、恐ろしい力同士がぶつかり合っているのに気がついた。

 真夜と幻那、ルフと太陽のような強大な妖魔が戦っている。


「真夜君……」


 心配するように真夜の名を呼び、不安そうに拳を握る渚。


「朱音さん、渚さん。僕は他の人達の呪いも対処するから」

「いけません、真昼様! いかに真昼様でもこれだけの人数では消耗が激しすぎます!」


 他の生きている京極の人間を助けるという真昼に楓が待ったをかけた。真昼の霊器は確かに強力だが、消耗も激しい。高野山の時に比べればマシになったとはいえ、これだけ大勢の人間の呪いを対処するのは真昼でも危険があった。


 呪いであるからこそ、下手をすれば真昼に対象が移し変わる可能性もあるのだ。


「それでも今、この場の人達を救えるのは僕しかいない。真夜の方も確かに心配だけど、救える命があって、その手段があるのに、やらないわけにはいかない。全員は無理かもしれないし、助けられなかったことで恨まれるかもしれない。それでも偽善と言われても目の前で死にかけている人達を放ってはおけない」


 今の真昼でもあの戦いに割って入ることは自殺行為だ。迂闊に割り込めば真夜達の邪魔になりかねない。


 ならば先に命の危険にさらされている京極の人間を助けるべきだ。


「大丈夫なのかよ、真昼?」

「凜も楓も心配しないで。大丈夫、真夜の結界の中なら僕もかなりのことができるから。あと前鬼と後鬼にもお願いするけど、無防備になると思うから、結界の方をお願い」


 二人を安心させるように告げた真昼は覚悟を決めたように、他の京極の人間を助けるために動き出す。


 だがその瞬間、真昼に向けて一発の銃弾が放たれたのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言]  最後の銃弾で思った事。  そういえば子供の頃、なんで怪人たちは変身ヒーローの変身中に攻撃を仕掛けないんだろう? という疑問をしょっちゅう感じてたなぁ…だった。  その答えがやっと分かった…
[気になる点] ここにきての苦戦は渋い
[一言] 早く異世界の時の真夜の力を見たい。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ