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『コミック最新巻、7月8日発売!』落ちこぼれ退魔師は異世界帰りで最強となる  作者: 秀是
第六章 六道幻那編

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第十五話 激突

昨日も更新しています。

まだ読まれていない方はそちらからどうぞ。



 真夜とルフの参戦にこの場の空気が一変した。


「真夜!」


 朱音は目尻に涙を浮かべながら、真夜の名前を呼んだ。真夜とルフは朱音と渚を庇うように二人の前に立つ。


「少し待っててくれ、朱音、渚」


 真夜は向こうで展開していた霊符をすべてこちらに移動させ、この場に存在していた五枚も戻し、そのうちの十枚を用いた高野山でも使った高位結界を展開しようとする。


 しかしその前に幻那が動いた。


「させると思うか!」


 幻那の周囲に膨大な妖気が渦を巻き、拳大の妖気の球体を無数に真夜に向けて解き放つ。特級どころか超級さえもまともに受ければ危うい弾幕のような攻撃が真夜へと襲いかかる。


「Aaaaaaaaaa!」


 真夜を守るようにルフが前に出ると、両手を突き出し障壁を作りだして幻那の攻撃を受け止める。ルフが稼いだ時間を利用し、真夜は結界の展開に成功する。


 超級クラスの力さえ削ぐ今の真夜が発動できる最大の結界と浄化の術。


 だが……。


「なんで!? 渚の身体の呪いも傷も完全に消えない!」

「っ!?」


 真夜は霊術は確かに効果を上げている。渚を含め、結界内にいる生き残っている京極家が受けている呪いの進行を食い止め、傷を癒やそうとしている。しかしそれでも呪いの進行を食い止めるだけで完全に消し去ることができず、傷も塞がりきっていない。


 真夜自身、この術が通用しないとは思っていなかったのか、驚愕の声を漏らした。


「お前には何度驚かされたかわからんが、今回は私も入念な準備をしてきた。後れを取るつもりは無い」


 幻那は真夜に向けて厳かに宣言した。


 幻那の身体からあふれ出す妖気が呪いに影響を与えていた。呪い自体も強力な術式であり、様々な負の感情や妖魔や死んだ京極の人間を生け贄に利用したことで、想像を絶する強さを持っていた。そこへ幻那も新たに自らの妖気を解放し、真夜の浄化と破邪の結界に干渉することで効果を削いでいたのだ。


 真夜は今すぐにでも渚に駆け寄りたかった。しかし幻那から目を離せない。ルフがいても今の幻那から目を離していけないと経験と勘が告げていたのだ。


「……生きていたのか」

「京極を滅ぼすまでは、死んでなどいられんのでな」


 激情を胸に抱き、拳をきつく握りしめ激しく幻那を睨み付けている真夜に対し、幻那はどこまでも涼しい顔をしていた。


「星守への襲撃も京極への襲撃も、お前が糸を引いていたのか」


 この男が生きていた。そして電話で山姥はこの男の名前を口にした。そこから導きだされる答えは、この男がこの事件の黒幕であるという事。


「ここまで来れば隠し立ても無意味か。その通りだ。オババは実に良く働いてくれた。お前を完全には足止めできなかったが、目的はほぼ達成された。お前にもこの呪いは完全に消しきれない。あとは時間を稼げば……いや、この場でお前達を倒せば終わりだ」


 確かにあのような方法でこの場に真夜達が現れるとは想定外だったが、真夜の参戦を可能性としてあらかじめ想定していた幻那は、この事態になっても動揺は最小限だった。


 真夜との会話も時間稼ぎのためである。霊力の消耗を考えれば、時間は幻那に味方する。幻那とて呪いを真夜が解呪するようなことがあれば、ここまで冷静でいられなかったかもしれないが、呪いは進行を抑えられているとはいえ、確実に京極の人間を蝕んでいる。優位は未だに幻那にある。


 しかし堕天使の力を借りればどうなるか予想も出来ない。ゆえに幻那はこの場で真夜とルフを倒す決断をする。


 撤退はない。ここで真夜とルフを倒さなければ、また自分の想像を超える奇跡を起こすかもしれないと考えたからだ。


「その堕天使の力ならば万が一にも呪いを解除される恐れがある。ゆえにこちらも早々に切り札を切り、お前達を排除させてもらう」


 幻那は温存など考えず、対ルフのために用意していた切り札を切った。


 ズンッ!


 周囲にかかる威圧感がさらに増していく。闇が深くなり、静寂が周囲を包み込む。


 幻那の背後からそれは突然、姿を現した。


 赤い灼熱の太陽を思わせる球体。大きさは直径十メートル。その周囲は雲のような妖気の塊がまとわりついており、さらに本体より分かれた四つの炎の球体が、まるで鋭い爪を持つ巨大な手のような形に変化した。


 そして真紅の球体にギョロリと大きな一つ目が見開かれる。


 放たれる力は覇級クラス。真夜の額から汗が一筋流れ落ちた。


 幻那の対真夜とルフ用の切り札である、すべての妖魔を滅ぼす存在として生まれた最強の妖魔・空亡そらなき


 幻那が作り出した最悪の空想上の妖魔。


 空亡が力を解放する。結界の効力を一切受けていないかのように、すべての者に等しく絶望を与える化け物が力を振るう。ルフと同格にも思われる妖魔の出現に、誰もが言葉を失う。


「おおぉぉぉぉぉぉぉっ!」


 幻那も出し惜しみは無しだとばかりに力を解放した。妖気と霊力が高まり、相反する二つの力が反発し合う。だがそれも僅かな時間だった。二つの反発していた力がお互いに干渉し合うが、打ち消されずに幻那の中で留まり続けると、霊力を起爆剤あるいは餌として、妖気が強まっていく。


 真夜やそれこそルフの霊力すら上回る幻那の妖気。あの彰でさえも言葉を無くしている。


 いや、彰も凛も真夜とルフが現れた時からずっと驚愕したままだった。


「凛、雷坂! かなり激しくなるぞ! 自分の身は自分で守ってくれ! 悪いが朱音と渚を頼む! 朱音も……渚を頼んだぞ」

「うん。真夜も気をつけて」


 朱音の言葉に真夜は無言で頷く。真夜とルフの出現からずっと困惑し続けていた彰と凜も、真夜の言葉で我に返ると、急ぎ邪魔にならないように朱音達の下に移動し防御結界を展開する。他の京極の人間も凜が風の霊術をコントロールしてできる限り自分達の方へと移動させ、巻き込ませないように防御する。


 どれだけの京極家の人間が生き残れるのかわからないが、二人と二体の覇級クラスの激突に巻き込まれれば、それだけで死にかけの彼らなど消滅しかねない。


 まさに世界最強クラスの戦いが始まろうとしている。


 異世界でもこれほどの相手は数えるほどしか存在しなかった。今の幻那の力は魔王軍でも最上位幹部クラス。さらにそれに匹敵する化け物までいる。異世界での全盛期の真夜ならばまだしも、今の状態ではルフがいても互角に届くかどうか怪しい。


(それでもやるしかねえだろうが!)


 渚の事が心配だ。今すぐ駆け寄り抱きしめたい。治療に集中したい。だが目の前の相手を倒さなければそれすら出来ない。


(渚の事も心配だが、まずはこいつを何とかしないとどうしようもできない。なんでこいつが生きてるのか、どれだけの策を張り巡らしていたのか、どうして京極を滅ぼそうとしたのか、聞きたいことは山ほどあるがそんなことはどうでもいい。こいつは母さんを危険にさらした。渚を傷つけた。絶対に許さねえ!)


 真夜も後先など考えず、今の自分の出せる全力を解放する。


「Aaaaaaaaaaa!!」


 ルフも翼を広げ、声を上げる。彼女もどこか怒りを感じているようだった。


 四つの強大な力がついに激突するのだった。


 ◆◆◆


「ちっ、なんて奴らだ」


 彰は全力で展開した防御結界が激しく軋む音を聞きながらも、天上の戦いを思わせる光景から目を離せずにいた。今の自分など、あそこに割り込めば即座に命を散らすだろう。


 真夜の実力を朧気ながら理解していた気になっていたが、それがまだまだ甘い認識だったと感じさせられた。


「それに、なんだあの化け物は。星守の奴、あんな奴を従えてやがるのか」

「アタシが知るか。つうか本当にあれは真夜なのかよ。そもそも真昼はこのことを知ってるのか。……お前は知ってたのか、このことを?」


 彰と凜はルフの事を知らなかったため、動揺を隠せないでいた。彼らの目の前では想像を絶する戦いが繰り広げられている。


 凛は思わず朱音に問いかけた。


「ええ。詳しくはあたしの口からは言えないけど、彼女は味方よ。今は真夜達を信じて見守ってて」


 凛の問いかけに答えつつ、朱音は必死に渚の手を握りながら、つたない治癒術をかけ続けていた。


「渚、しっかりして。真夜が来てくれたから。もう大丈夫だから」


 先ほどよりはマシになっているとはいえ、それでも渚の容態は芳しくない。真夜の結界が何とか渚をギリギリのところで持ちこたえさせているが、まだどう転ぶか予断を許さない状況だ。


 渚だけでは無い。凜が細心の注意を払い、風の霊術で移動させた京極家の人間が朱音達の後ろで大勢倒れている。間に合わなかった人間もいるが、生きている人間も大勢いる。しかしその命は風前の灯火である。


「悪いが、そっちまで手を回す余裕はねえぞ」

「アタシもだ。結界の維持で手一杯だし、そもそも治癒系の術は不得意だからな」


 彰も凜も結界の維持で手一杯であるのと、治癒系の術を使えないことが原因だ。


「わかってるわ。ここまで付き合ってくれたし、結界まで張ってくれてるのに、文句なんて言えるはず無いわよ」


 朱音も二人に感謝こそすれ、文句を言うなどお門違いも甚だしいと思っている。だがそれでも自分だけではどうにもできない焦りが朱音を襲う。


 他の京極家の人間も何とか真夜の結界の効果で命を紡いでいるが、早く本格的な治療を行わないと危険だ。


 いや、そもそもの話、この呪いをどうにかしなければここから真夜の術が消えた時点で彼らは命を失う。ここから動かすことも出来ない。真夜が幻那に勝ちこの呪いをどうにかしなければ彼らの命は無い。


(どうしたらいいの? 真夜でも無理なんて、誰にもどうにも出来ないじゃない)


 止まっていた涙がまたあふれてくる。自分はなんて無力なんだ。前に古墳で朱音が死にかけていた時、自分は真夜と渚に命を救われた。真夜に協力した渚がいてくれなければ、朱音は命を落としていたか妖魔になっていただろう。


 今はそんな渚が命の危険に晒されているのに、自分は彼女を助けることが出来ないなんて。


(真夜……)


 真夜達は幻那達と苛烈な戦いを繰り広げている。


「あれ?」


 朱音の視線の先、そこには先ほど真夜が現れた亀裂が完全に修復されずに残っていた。向こう側は歪んでいてこちらからは見えないが、どこかに繋がっているようだ。


 と、亀裂の向こう側から何かがこちらに出現する。


「真昼!?」

「凜! それに朱音さん。……っ! 渚さん!? 一体これは!?」


 そこから現れたのは何と星守真昼だった。さらにそこに前鬼・後鬼、さらには楓も続くように現れた。


「真昼、お前どうしてここに!? つうかどうやって!?」

「ここを通ってきたんだ。あっちは星守に繋がってる。それよりもこの状況は一体!?」


 今回ルフは前回の異界から帰還した時とは違い、亀裂を即座に修復しなかった。後続で朝陽達が来れるようにするためだ。


 朝陽と鞍馬天狗は念のため周囲の警戒を、明乃は一族や他への指示や連絡で手が離せず、消耗が少なく後始末をあまりせずに自由に動ける真昼が星守周辺を調べていた際、空間の裂け目を見つけ、真夜の気配を感じ飛び込んできたのだ。


 だが亀裂はすでに塞がり始めていた。ルフが戦いに集中しだしたため、維持することが困難になったからだ。


 もうこれでは朝陽達が来ることが出来ない。


「詳しいことはよくわからねえが、やべえ奴らに京極が襲撃された。結界も張られ、他の六家とは分断。肝心の京極はほぼ全滅。今は星守がそいつを抑えてるが……」


 真昼の質問に彰が端的に答える。真昼は急ぎ周囲を確認する。


 恐ろしいまでの力がぶつかり合っている。真夜とルフが戦っているが、それに匹敵する敵がいる。


 さらに朱音に手を握られている死にかけの渚や、彼女達の後ろに倒れている京極家の者達を見て、真昼は険しい表情をする。


「真昼! お願い、手を貸して! 真夜の術でも完全に回復できないの! 真昼は浄化と治癒系の術が使えるでしょ!? だから!」


 朱音は必死に真昼に懇願する。真夜ほどでは無いにしろ、この場にいる誰よりも真昼は浄化と回復の術の使いこなせている。


「わかった。やってみる」


 真夜の結界の効果の後押しがあるならばと、真昼は渚の傷や呪いと思われるムカデの刺青を観察する。霊術を発動してみるも、まったく効果が無い。


「これは、僕の浄化や治癒の術じゃとてもじゃないけど無理だ」


 真昼の口から放たれた言葉は、朱音にとって絶望的なものだった。


「そんな!? それでもお願い! このままだと、渚が死んじゃう! 渚は前に私達を助けてくれたのよ!?」

「わかってる。僕も渚さんには多大な恩がある」


 命を助けて貰った恩。そして弟である真夜にとって大切な人。このままみすみす、死なせる気はない。


 真昼は一度目を閉じ、僅かに逡巡したようなそぶりを見せるが、すぐに目を開ける。


「朱音さん……僕を信じて」


 真昼はどこか、何かを決意した表情を浮かべた。そして真昼は霊器を顕現する。


「真昼? ちょっと!? 何するつもり!?」


 朱音が叫ぶ中、真昼は剣と刀の両方の霊器を構え、そして渚に突き立てたのだった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 守りながら戦う、これはデバフではあるけど守護者の本領発揮ということで乗り越えて欲しい! という両方の意味で良い展開 [一言] がんばれ真昼!渚を救ってくれ
[一言] 準備の差があるから完全に幻耶の方が有利。まだぬらりひょんも暗躍していると真夜、ルフが来ても厳しい状況は変わりませんね。魔王軍に匹敵する敵か、勇者君達には借りを返しに来てもらいたいですね。全員…
[良い点] 何という怪獣大決戦。 これ、六家の他の面々も見られたらなぁと思います。 対策に対策を重ねて、想定しうる最悪の状態とまでは行っていないので戦闘に舵を切ったというところでしょうか。 ただ、真…
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