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『コミック最新巻、7月8日発売!』落ちこぼれ退魔師は異世界帰りで最強となる  作者: 秀是
第六章 六道幻那編

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第十一話 戦場

一部、残酷な描写があります。ご注意ください。

また前回の真夜が残していった霊符は四枚ではなく五枚が正しいです。

 

 京極の敷地内は戦場と化した。


 幻那達が解き放った妖魔達は、一斉に京極の退魔師達に襲いかかった。闇の中から飛び出してきたのは、四十七体の妖魔。これらはすべて上級妖魔だ。


 その姿は狼、熊、いたち、鷹、鹿、猪、川獺カワウソなどの動物型。ただしその体長は元来の動物の大きさよりも大きく、どれだけ小さく見積もっても一メートル以上、中には二メートルを超えている個体もいる。凶悪凶暴な風貌で、鋭い爪や牙などをむき出しにして、退魔師達へと襲いかかった。


 突然の強襲にまずは近くにいた三人の術者が犠牲となった。


 上級妖魔と言えども、幻那がこの場に連れてきたのは上級上位に値する。数体の狼が一人の手足と身体の一部を食いちぎる。もう一人は鋭く鋭利な鹿の角に身体を貫かれた。残りの一人は熊の鋭い前足に胴体を引き裂かれ地面に倒れ込む。


「ぎゃぁぁぁっっ!」

「ごふっ……」

「ひぃひぃひぃっ……」


 彼らはかろうじて生きているが、もはや助からないだろう。彼らは恐怖と絶望のまま無数の妖魔に詰め寄られ、その身体を生きたまま貪り尽くされた。


「よ、妖魔の襲撃だぁっ!」


 惨劇を目の当たりにした者の叫び声が木霊する。その間にも妖魔達は前進し、次々に京極一族の者達に襲いかかった。


 儀式を行う祭壇とその周辺には京極一族がほぼ全員揃っている。直系や分家を含め、総数は百三十七名。全員がまさかの事態に驚愕し、さらに数名が犠牲となるがその中でも即座に動く者がいた。


 斬!


 狼型の上級妖魔が真っ二つに切り裂かれる。続けて近くにいた他の仲間も同様に胴体から半分に両断された。


「霊器使いは前へ出て応戦! 非戦闘員は後方へ! 残りは陣形と結界の展開を急ぎ!」


 京極右京が妖魔の群れの前に立つと、声を張り上げる。彼の周囲には高速で回転する何かが浮かんでいる。


 それは直径五十センチほどの円月輪チャクラムである。しかも一つではない。合計六つのチャクラムが上級妖魔達を次々に切り裂いていく。これこそが右京の霊器。彼を京極最強と言わしめる象徴であった。


「右京殿に続け!」


 儀式に際して、この場の者達は全員が武装して参加していた。潜在能力の覚醒や強化において、愛用の霊具や霊器を持参している方が、術による相乗効果が高いことがわかっており、今回も全員がほぼ武装した状態で儀式に臨んでいた。しかしまさかこのような事態になるなど、誰が予想しようか。


 それでも京極一族の者達は突然の襲撃でも、霊器使いを中心に妖魔を殲滅せんと動き出す。一般的な退魔師ならば十名以上で対応せざるを得ない上級妖魔でも京極一族の者ならば数名、あるいは一人でも対処できる。


 霊器使いが霊器を顕現し、妖魔達へと逆襲する。槍、弓、鎖鎌、刀、小太刀……。襲い来る妖魔達を次々に返り討ちにする。


「破邪結界を展開する。清貴、清治、清羅、渚。準備をしろ」


 清彦は祭壇の上で自らの子供達に呼びかける。突然の事に混乱していた四人だったが、清彦はいつもと変わらぬ仏頂面で、まるでこの事態を予見していたかのように冷静であった。


「どうした。私は準備しろと言ったのだ。急げ、この結界を展開し、襲撃を仕掛けた黒幕がいるはずだ」


 清彦の静かな、それでいて威圧するような声に四人が我へと返る。


「はい。すぐに」


 代表するかのように清貴が答えると、清治と清羅は露骨に表情を変えたが、二人も今しなければ成らないことは理解しているため、急ぎ結界の展開を準備する。


 結果が出るまではもう少しかかるが、秘中の儀の発動自体はすでに終わっていた。ならば今は襲撃してきた妖魔への対処が最優先だ。


 破邪の結界はこの周辺だけしか作用しないし、超級妖魔を抑えるような浄化の儀ほどの効果は得られないが、それでも特級クラスにまで有効な結界だ。


 さらに陣の中、あるいは周辺であれば退魔師の力も多少なりとも強化される。


 五人掛で破邪の結界を展開する。同時に右京を筆頭に上級妖魔の群れを霊器使い達が次々に倒している。


 この場に参加していたまだ戦えない子供や長老衆でもかなり衰えた者は、先代の清丸が後方に避難させている。尤も結界で隔離されているため、逃げ出すことはできないが戦闘の邪魔になるような事は無いだろう。


 この場において、ほとんどの者はこの時点では敗北の可能性など頭の片隅にもなかったであろう。


 門下生こそいないが、京極家の主力が全員おり、儀式が終わったことで、一部の者は強化されている。


 相手は上級妖魔で数も多いが、京極家の方が戦える人数も勝っている。


 だからこの戦いがどれほど絶望的な戦いなのかを知ることも無いまま、彼らは幻那達と戦いを進めるのだった。



 ◆◆◆



 送り出した妖魔達が次々に返り討ちに遭う様を、幻那とぬらりひょんは高みの見物をするかのように眺めていた。祭壇までの距離はおおよそ五百メートルと言ったところか。もっと近くに降り立つことも出来たのだが、幻那としてはこの位置が最適であった。


「良いのか? 手勢が随分とやられておるぞ?」

「ああ。これも計算の内だ。そもそもこのタイミングで京極家を皆殺しにするなら、結界を展開した直後に祭壇に降りたって力を振るえば事足りた」


 幻那の言うとおり、それが一番効率的で手間のかからない方法だっただろう。


 さらに幻那は手持ちの戦力の中で一番弱い上級妖魔のみを小出しにしている。さすがに数がそこそこいても上級妖魔だけで京極家を倒せるはずが無い。


「破邪の結界も展開されたぞ。祭壇の周辺では妖魔の力が阻害される。正直、ワシもお主の作った呪符がなければ、やばいくらいなのだがのう」

「しかし奴らには希望を持たせてやる必要があった。自分達の誇る力で勝てると思わせてやる必要があった。その心を折り、絶望させるためにな。心配せずとも何の問題も無い」


 不気味に嗤う幻那に、ぬらりひょんは感じたこともないほどの悪寒を感じた。


「ならばよいが……。で、そろそろ上級妖魔が全滅するぞ?」

「そうだな。上級妖魔達の壊滅も京極家滅亡への布石。だがあまり時間をかけて星守真夜が戻ってきてもマズい。京極も突然の奇襲から立ち直ったであろうし、上級妖魔の群れを撃退し、この周辺だけとはいえ、破邪の結界も展開し終え、奴らの士気も高くなったことだ。そろそろ茶番を終わらせるとしよう」


 幻那の見据える先には憎き京極一族が妖魔の群れを押し返したことで、意気揚々としている姿がある。


「ここからは本当の恐怖と絶望を与えてやろう。お前は適当に遊んでいてもいいぞ」

「くかかか。ではそうさせて貰うとするかのう。お主の作った玩具で遊び回るとしよう」

「ああ。存分に使い、京極を殺すといい」


 幻那はそう言うと、悠然と歩み出すのだった。



 ◆◆◆



 大半の妖魔が殲滅される中、霊器使いでありベテランの一人でもあった京極豊きょうごく ゆたかは、自らの霊器である鎖鎌の分銅部分を投擲し、少なくなった残りの妖魔を仕留めていた。


(ふん。数がそこそこでも上級程度で我ら京極に挑むとは愚かな事だ)


 四十半ばでもあり、経験も豊富な彼は最上級妖魔も単独で仕留めたことがあり、この程度の妖魔など恐るるに足りなかった。


(さて、残りを……)


 ぞあっ……


 その時、身の毛がよだつような感覚が全身を駆け巡った。


 黒いスーツに身を包んだ白髪の男――幻那がゆっくりと近づいてくる。


「何やつ!? まさか貴様がこの妖魔達の黒幕か!?」


 鼻息荒く問い詰める豊だが、幻那は一切答える気が無いのか、一歩、また一歩近づいていく。


「止まれ! さもなくば!」


 警告するが止まる気配は無い。やむを得ないと豊は鎖鎌の分銅の着いた鎖をぐるぐる回すと、幻那に向けて投擲した。一撃で上級妖魔を倒す分銅は正確に頭部を狙い、直撃すればザクロのように弾けだろう。


 だが……。


「なっ!?」


 頭部に当たる寸前、見えない壁にぶつかったかのように分銅が止まると、途端に砕け散った。


「ふっ」


 薄く嗤う幻那が手をかざす。次の瞬間、豊の身体が弾け飛んだ。


「ぐ、ごふっ……」


 霊力や纏っていた霊衣の防御さえも無視したかのように、豊は致命傷を負った。生きているが、意識がまだあるのが不思議な傷なのだが、豊は両膝をつき、虚ろな目で幻那を見る。


「絶望し、恐怖し、そして死ね。お前達は一人残らず根絶やしにしてくれる」


 幻那の背後に再び闇が生まれる。そこから這いずり出てくるのは、京極を滅亡へと誘う妖魔達。


 体長四メートルはあろうかという、巨大な直立不動の赤毛の熊。額には一本の角を生やし、燃えるような真紅の瞳が豊を見据える。


 鬼熊。幻那が用意した超級妖魔の一体。年月を経てヒグマが妖魔化した物を幻那が強化した個体だ。


 鬼熊の巨大な顎が開かれ、豊の頭に噛み付き噛み砕いた。


 グオォォォォォォォォ!


 咆哮が周囲へとまき散らされる。声を合図としてさらに闇より出でる妖魔があった。


 それは体長六メートルはあろうかという巨大な鹿だった。


 七つに分かれた巨大な角。背中には緑色の笹がびっしりと生え、目は陽光のように爛々と光り輝いている。


 伊佐々いざさおうと呼ばれる鹿の化け物であり、こちらも幻那が強化を施している。


 超級妖魔二体。一体だけでもどの六家でも一族の総力を挙げて対応する化け物が二体。いかに京極一族とは言え、犠牲を払わずに倒せるものではない。


 しかしまだ終わらない。闇の中から五つの巨大な獣が出現する。それぞれ赤、青、黒、白、黄色をした体長三メートルを超える虎である。


 五虎と呼ばれる四神や五神、五龍のようなそれぞれが異なる方角と五行を司る存在で、彼らはうなり声を上げ、獲物を見定めている。この五体の虎はそれぞれが特殊な能力を持ち、かつて朱音や流樹を一蹴した強化された赤面鬼と同格の力を有していた。超級二体以外にも霊器使い二人を簡単にあしらう力を持つ妖魔が五体。


 これだけならばまだ、彼らは戦意を保ったまま戦うことが出来ただろう。


 だが……。


 ゾオォッ……。


 幻那の身体から妖気があふれ出る、黒くおぞましく、おどろおどろしい瘴気すら内包する妖気。命ある者だけではなく、霊的な存在であっても忌避するほどの、気配が、妖気が周囲を飲み込んでいく。


 触れずに見ただけの者でも恐れおののき、本能的に身体をはねさせ、後ずさった。


 また直接触れた者は全身が硬直し、顔面を蒼白とし、汗が止まらなくなり、中には意識を失う者もいた。


 妖気に触れたことで、呼吸が荒く目の焦点が定まらなくなる。それは霊器使いであってもだ。唯一の例外は右京だが、彼とて幻那の妖気に戦慄していた。


(まさかそんなはずは!?)


 そんな中、祭壇の上でその妖気を感じ、相手を目視した渚は驚愕に目を見開いた。


 あり得ないと何度も心の中でつぶやく。だが感じる気配は、目に映る姿は、間違いなくあの時の敵と同じだった。


(六道、幻那……)


 真夜が倒したはずの妖術師。それが生きている。しかもより恐ろしく強大な気配を纏って。


 ガタガタと身体が震える。あの時よりも間違いなく強くなっているはずなのに、震えが止まらない。あの時以上の絶望的な力の差を感じる。しかもあの時とは違い、直接妖気に触れてもいないのに。


「な、何なのよ……何なのよ、あれは!?」


 渚の近くにいた清羅が絶叫を上げる。彼女も幻那の気配を感じ取った。あまりにも異質。あまりにも異常な気配。


「馬鹿、な。こんな、こんな化け物がいるなんて……それに超級に特級が複数だと……?」

「なん、だっていうんだ。これは、悪い夢でも見ているのか?」


 いつもは強気の清治も、常に笑み浮かべている清貴も動揺し、顔を青ざめさせてる。


 この中で清彦だけは、何とか平静を保っているように見えるが、渚は父の身体が僅かに震えているのに気がついた。渚だけは真夜やルフなどに触れることである程度の耐性がついていたので、何とか周りを見ることが出来ていた。ただし、だからといって状況が変わるわけでは無い。


 京極一族の誰もが言葉を失い、動けずにいた。


(あかん! 想像してたのよりも、何倍もやばい相手や! こんなん星守がおらな、いやおってもどないもならへんのとちゃうか!?)


 右京は自分の想定が甘かった事を悔やんだ。星守が抜けてもまだ何とかなると思っていた。だが他の六家とは分断された。仮に星守がいたとしても、この相手と戦うのは決死の覚悟が必要だ。


 それこそ六家すべてと星守の総力を集結して何とか勝てる相手。京極単独では勝ち目が全く見えない。


「京極一族よ。せいぜい抗うがいい。だがお前達の結末は決まっている。恐怖と絶望を抱き、この地で果てるがいい」


 幻那の言葉を合図に、超級妖魔二体と特級妖魔五体が京極家へと襲いかかる。絶望の惨劇が始まったのだった。


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― 新着の感想 ―
[一言] >五つの巨大な獣が出現する。それぞれ赤、青、黒、白、黄色をした おもわず…… 復讐戦隊リベンジャー(チュドーン) とかって想像しちまったいw 京極一族壊滅は別に良いけど、渚(あと序でに右京…
[気になる点] 一気にやらなかった幻ちゃんの舐めプがこの後でどう響くか [一言] これ真夜戻っても真夜とルフだけじゃ戦力的に不可能では?
[良い点] 京極一族にとって絶望的な状況ですね。 [一言] 渚は生き残れるのでしょうかね? 幻那にとって取りこぼしたら一番厄介な事態になることがわかっているから真っ先に殺す対象になるのでどうしたら生…
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