町での繋がり
「今お前、なんて言った?」
「聞こえなかったのか。結界を破ったのはお前か?と聞いたのだが」
術師は言い直した。
結界を破った?俺がか?
「いや、俺に心当たりはない」
「じゃあそっちの嬢ちゃんは?」
「私、ですか?」
リルは困ったように俺の方を見た。
「こいつも違う。他をあたってくれ」
「そうか。悪かったな」
術師はそう言って町に戻っていった。
俺たちも町に入った。
しかし、鳥族のやつの話によれば人族は魔術を使えないのでは?
まあ、見た目はどの種族も獣化しなければ人族そのものだから、
あいつが人族でないという可能性もある、か。
「ま、それは俺の気にする事じゃないな」
取り敢えず俺のすることは戦力の増強だが、武器は、買わないとな。
「お~い。そこのおっちゃん」
「なんだ?俺はまだまだ若いぞ!」
そう言って男は筋肉を見せつけてきた。素晴らしい筋肉だ。
しかし、うん。今はどうでもいいことなんだが……。
「なあ、おっちゃん。武器屋の場所知らないか?」
「スルーかよ。あ~えっと。あそこだあそこ」
男は頭を掻きながら武器屋を指さした。
「ありがとな。おっちゃん」
「だからおっちゃんじゃね~!」
はいはい。今度会ったときはお兄さんって呼んであげよう。
「あの~」
と、しばらく横で静かにしていたリルが口を開いた。
「なんだ?」
「いえ。ユー君、今まで見た中で一番楽しそうな顔していましたから」
「まあ、楽しかったな。あのお兄さん」
「え!?」
リルの顔は一瞬で驚きの表情に変わった。
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「あ、着いたぞ武器屋」
「はい」
扉を開けて中に入るとそこには女性の店主らしき人がせっせと武器の手入れをしていた。
ん?今見えたのは……いや、気のせいか。
「あの、武器を買いに来たんだが……」
そういうとやっと気づいた様子で、
「あ、すいませんね。ちょっと武器の手入れに熱が入りすぎていたみたいですね」
彼女はこちらに振り返って、
「それでは、いらっしゃいませですね」
笑顔でそう言った。
「ああ。それで、俺たちでも扱えそうな武器ないか?」
「あの、ユー君。少し失礼じゃないですか?」
リルはそう俺に囁いた。
「そうなのか?まあ、いいんじゃないか」
失礼とかよく分からない。
「まあ、そういうならいいんですが……」
リルはまだ何か言いたげだったが口は開かなかった。
「では、この槍などどうでしょう」
俺たちが言い合っている間に店主さんは武器を選び持ってきたようだ。
しかし、何で槍なんだろうか。先ずは武器になれるために短剣とか、扱いやすいものからじゃないのだろうか。
「一つ、聞いてもいいか?」
「はい。何でしょうか?」
「何故、槍を勧めるのか理由を知りたくてな」
「それは、その……感覚、でしょうか」
「そうか」
まあ、そういうものか。職人だな。
「じゃあ、リル。えっと、こっちのにも頼む」
俺は、リルの頭に手を置いた。
あっ。ちょっと喜んでる?
しかし、初めて会う人になんて紹介すればいいかわかんないな。
「お願いします」
リルはそう言ってお辞儀をした。
「分かりました。え~と、リルちゃんでいいかな?」
「はい」
「じゃあ、リルちゃんにはこれ」
店主さんはそう言ってリルに短剣を渡した。
2本、か。
「あの、2本ですか?」
リルは少し戸惑っているようだ。
「ええ。リルちゃん瞬発力あるんじゃない?」
「はい。よく分かりましたね」
あの、店主さん?俺にはそういうの行ってくれなかったよね?
まあ、俺は主に魔術を使ってきたから、そういった体の特徴は目立たないんだろうな。
「じゃあ少し振ってみて。はい」
と言って店主さんはリルに短剣を渡した。
「えっと、どうすれば?」
リルは短剣をもって棒立ちだ。
「私もそんなに使ったことないけど、こんな感じじゃないでしょうか」
店主さんはそう言って短剣を振って見せた。
「凄いですよ。それだけ使えればまあまあ戦えると思います」
リルも真似をして短剣を振る。
店主さんは凄いのだが、リルも呑み込みが早い。
俺も少し使い方教えてもらいたいんだが……。
「なあ、俺にも少し槍を教えてもらってもいいか?」
「貴方はもう十分使いこなせると思いますよ」
店主さんはすました笑顔でそう言った。
「そうだ。店の隣に空き地があるのでそこで試し振りしてはどうでしょう」
ああ、そうかい。俺に教えてはくれないのかよ。
まあ、最初から期待はしてないがな。
「じゃあ少し行ってくる。頑張れよ、リル」
俺はそう言って店を出た。
「さあて、ちょっと振ってみるか」
俺は勢いよく槍を振った。
すると、槍の先の刃が変形した、のは分かったが。……見えずらい。
これは、風か?
俺は槍の先を自分に向けた。風だ。風が刃になっている。
「なるほど。あの店主よく分かってやがる」
俺は少し笑った。
「なら、これはどうだ」
「水術・水生」
予想通りだ。
槍に魔術が吸い込まれた。
風の刃は消え、水の刃に変わった。
そうか、これがこの槍の力。
恐らくこの槍はどの属性の魔術も吸い込み、刃にするのだろう。
それから俺はいろんな魔術を試した。
龍術・再生は、無理だった。
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一通り魔術を試した俺は武器屋に戻った。
店の扉を開けると、リルたちが短剣術を練習していた。
店の中でやることじゃないだろうに。
「お~い、お前たち俺の試し振りは終わったから外でやれ。店が潰れるぞ?」
俺が少し脅しめに言うとリルが、
「いえ、ユー君。今はそれどころじゃないんです。凄いんです、ナクルさん」
あれ?いつの間にか名前教えてもらってる。
そんなに意気投合したのかこの二人。良かったなリル。
「ああ、分かった。邪魔せずにここで見てるよ」
俺は店の端に置いてあった椅子に腰かけてそう言った。
「ありがとう、ユド君」
あれ?俺の名前までも。
おい、リル。俺の事しゃべったのか。
ってなんか口調変わってないか?
どうしたんだ?本当に……。
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日が、暮れた。
「ふ~。それじゃあここまでにしておこうかリル」
ナクルさんはそう言って短剣を置いた。
ほんと調子狂うな、その口調。
「はい。それにしてももう暗くなってしまいましたね。どうしますか?ユー君」
「そうだな。取り敢えず宿を探して……」
「それなら止まっていくといい!」
俺の言葉をさえぎってナクルさんはそう言った。
「え!いいんですか?」
一番にリルが聞いた。
嬉しそうだ。
「いいとも!」
「じゃ、じゃあ頼む」
全くついて行けないな……。
「あ、そういえばお代……あの、ナクルさん?」
「ん、なんだ?」
「お、お金持ってないんだが……」
忘れてた。俺たち森から出てお金のこと考えてなかったな。
「すすす、すいません!」
リルもとっさに頭を下げた。
「……やる。その武器はくれてやる」
「「へ?」」
思わぬ答えに抜けた声が出た。二人同時に。
「だからくれてやると言ったんだ。もう店をやめようかと思ってたんだし丁度いい。めんどくさいのは苦手でな」
お~い、この人どこまで第一印象壊してくれるんだ。
「な、なあ、ナクルさん。もしかしてあのお姉さんっぽい感じは演技だったりするのか?」
俺は恐る恐る聞いた。
「はい、そうですよ」
恐ろしい笑顔だ……。
その様子を見ていたリルは、
「も~、二人でずるいです」
と言って俺とナクルさんの間に入った。
お前の方が仲良くしてただろうが。
ま、初めての友達のようなもんだからな。
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それから夜が明けた。
「ん、ふぁ~あ。ん?」
なんか見慣れないと思ったら、泊めてもらったんだから。
泊めてもらった寝室は二階だ。
二階から一階の店に下りるとナクルさんが武器を箱に片づけていた。
「おはようございます。ユドさん」
あ、お姉さんモードだ。
「ああ。おはよう」
「見ての通り私は今日店を閉めたいと思います」
「そうか。でもなぜ店を閉める?」
「それは……」
ナクルさんは少し顔をしかめた。
それから、
「貴方は人族では無いですね」
と言った。
「そうか。知っていたか」
そりゃそうだ。魔術は人族では使えない。
しかしそれを知っているのならばあんな武器は渡さない。
「お前は何者だ!」
俺は槍を構えた。
「私は……闇狼のナクル」
そう言ってナクルさんは獣化した。