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孤龍の繋がり  作者: 春山 隼也
3/7

互いの繋がり

 しばらくして戻ると、リルはそこにいなかった。

 

 俺はあの時どう声をかけていいか分からなかった。


 ……リルは刺客ではなかった、か。


 いなくなってやっと、そう思えた。

 探しに行こう。彼女を、リルを。


 俺は住処を飛び出した。

風術・飛翔(ふうじゅつ ひしょう)


 風魔術を発動し、俺は森の上空へ飛び立った。

 しかし、

「木が邪魔で探せない、か」

 それに雨も降ってきた。

 仕方ない、しらみつぶしに探すしかないか。


 俺が降下しようとした直後、

「ウオォォォン」

 

 雄叫びが聞こえた。光狼のものだろうか。

「敵は、殺す!」

 俺は再度風魔術を発動し雄叫びの聞こえたほうへ。


---


 俺がそこに着くとリルが傷だらけで倒れていた。

「チッ」


 恐らく光狼のやつらにやられたのだろう。

 足跡は……もう、消えているか。天が味方をしやがった。


 取り敢えず住処に戻ろう。

 俺は傷ついたリルをそっと抱き上げ、

「風術・飛翔」

 住処に向かって飛んだ。俺たちの、住処に……。


---


「おい、リル。大丈夫か?」

 俺が呼び掛けてもリルは返事をしなかった。

 体の傷がひどい。取り敢えずこれで、

龍術(りゅうじゅつ)再生(さいせい)

 

 しかし、よかった。今まで生きてきて初めて龍族でよかったと思えた。

 各種族は、それぞれ特有の術を持っており龍族では龍術を。光狼の奴らは狼族(ろうぞく)なので、狼術(ろうじゅつ)を使う。


 この力で人を助けられるのなら、俺は外の世界に出て行こうと思う。

「ん、ん~。ゆ、ユー君?」

 全くお前は、やめて欲しいって言ってるのにな。


「ああ。俺だ」

 良かった。本当に。


「リル」


「何?ユー君」


「ごめん」


 リルは困ったように、また、嬉しそうに、

「いいよ」

 と、そう言った。


---


 あの出来事から数日。


 俺は、リルが完全に回復しきるまでの間、森への侵入者の警戒を厳重にしていた。

 また、いつ襲ってくるか分からない。光狼は何故リルを狙ったのか。その疑問の答えも見つけたい。


 この警備もリルが回復しきったら終わりだ。

 森を出る。目的は、復讐。そして光狼からのリルを守るため。


---


 そしてリルは完全に回復した。


 あれから結局光狼の襲撃はなかった。理由は分からないがむしろありがたい。今は光狼相手に追跡出来る実力が俺にあるとは思えない。


 今はまず戦力の向上と、リルの保護が重要だ。


「じゃあリル」


「はい、ユー君」


 こうして()()()は旅立った。


 と、言っても風魔術で森の外にひとっ飛び。というわけでは無い。

 俺は風魔術で飛ぶ事が出来るのだが、リルは使えない。

 俺が抱えた状態で飛ぶ。そんなことをすれば風がリルに傷をつけてしまう。


 そんな訳で俺たちは徒歩で森を抜けなければならないのだ。


 道中はお互いの過去の事を話しながら進んだ。外部の者が入ってこなければこの森は平和な場所だ。


 リルは道中、草や木に名前を付けていた。理由を聞くと、昔からの癖。らしい。

 リルなりに寂しさを紛らわせていたのだろう。恐らくそれが寂しさとは気づかずに……。


 どうやら『ユー君』と言うのもその癖の延長みたいにつけられたものだったらしい。

 俺は、言われた時、初対面の人にそんな呼び方!?って驚いてたのに。


 まあ、その話を聞いたおかげでユー君呼びには抵抗がなくなった気がする。


 そんな感じにお互いの理解を深めているうちに森の端まで来たらしい。


 木々の間から差し込む木漏れ日ではなくしっかりと俺たちの全身を照らす光。

 俺たちは光に向かって走った。


 そして、


「森を出ましたよ!ユー君。森の外はこんな風になってるんですね!」

 

「そうだな。こんなに心地いい風も吹いてるし、な」

 リルは、恐らく初めての。そして俺は10年ぶりの。

 森の外の世界に感動していた。


「ですが、ユー君。何にもありませんよ?」


「お、おう」

 そう、俺たちは森を出た。しかし出てきた森以外に周りには草原が広がっており、まっさらなのだ。


 取り敢えず上から見てみるか。

「リル、ちょっと上まで行って見てくるから、待っててくれないか?」


「えっと、上までってどうやってですか?」


「あ~。リルに見せるのは初めてだったか。これだよ」


「風術・飛翔」

 俺は風魔術で上空へ。下にいるリルはなにやらはしゃいでいるようだが気にしない。


 さて、どこかに人が作った道とか建物がないか?


 俺は辺りを見渡した。

 だが、やはりそれらしきものは見つからなかった。


「ない、か」


 取り敢えず一度降りて……。


「ん?あれは……」


 目線の先には背中に羽の生えた男性。鳥族(ちょうぞく)、か。

 手には重そうな四角い箱。


 配達員だろうか。

 とにかく道を聞こう。


「お~いそこの人。ちょっといいか?」

 俺は急いでその男に近づいた。


 その人は驚いた様子で、

「は、はい」

 と、返事をした。


「あの、道を聞いても?」


 男は少し考えてから、

「ああ。構わないですよ」

 と、答えた。


「ここから一番近い里、町。とにかく人のいるところを教えてくれ」


「人、ですか。そうですね。そんなに大きくはありませんが『プレンド』という町がありますね」


「そうか。方向は?」


「真東、ですね。しかし……」

 男は少し間を開けてから、

「悪いことは言わない。あなたは人族(ひとぞく)ではない、ですよね。極力近づかないほうがいいと思うのですが……」

 そう続けた。


「なぜ俺が人族ではないと?」


「それはその風魔術ですよ。人族に魔術が使えるものはいません」


「そう、なのか」

 そもそも、人族について俺はほぼ知らない。

 だが、だからこそ行く価値があるな。


「ありがとう。もう少し人族について聞きたいことがあるが、お前も仕事中なんだろう?」


「あ。そうでした。それでは私は急ぎますのでー……」

 そう言って男は体の向きを変え、飛んで行った。


 さて、東、か。

 北じゃなくてよかったな。森に戻らないといけなくなってたところだ。

 

「お~い!ユ~くーん!!」

 あ、そういえばリルの事すっかり忘れてた。


「悪い悪い」


「悪い悪い。じゃないですよ。私の事おいてどこかに行ってしまうのかと不安だったんですよ」

 そんなことを言っているがリルはいつもの笑顔だ。


「はいはい。それじゃ行くぞ、リル」


「ちょっと、私の言ったこと聞こえてましたか?」


 こうして俺たちの旅は始まった。


---


 俺たちは鳥族の男の言った通り真東に進んでいた。


 目印は何もないがリルの能力、『方角感知(ほうがくかんち)』によって何の問題も無かった。


 しかし、本当に草原が続くばかりだ。つまらない。

 時々出てくる魔物がいるが俺たちの敵ではなかった。


 あれから結構進んだのだがまだ森の木々が見える。

 町にはいつ着くのだろうと二人でぼやいていると、その町は突如現れた。


「あれ、ユー君。着きましたね」


「ああ、そうだな」

 恐らく結界が張られており、目に見えなかったのだろう。町が魔物に襲われることが無いように。


「こんな目くらまし如きで魔物除けになると思ってるのか」


「ん、何か言いました?」


「いや、何でもない」


「それじゃあ行きますか。ユー君」


 リルにそういわれ町の門をくぐろうとすると、

「お前か。結界を破ったのは」

 熟練そうな術師(じゅつし)らしき人に睨まれ、そう言われた。

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