少女の繋がり
「誰だ、お前は」
俺はもう一度尋ねた。
「ゎ、私は、リル、って言うんです」
彼女は目を泳がせながらそう答えた。
名前を聞いたんじゃないのに。
「ああ、そうか。名前を聞きたいわけじゃないんだがな」
彼女はまた、ぎこちなくゆっくりと答えた。
「ご、ごめんなさい。じゃ、じゃあ私を何を答えればいいのでしょうか?」
「はぁ。もういい。帰ってくれ」
「あの、私がどこに帰ればいいのか知ってるんですか!」
なんだ、さっきとは様子が違う。
「お前、まさか……迷子?」
「ち、違います!私だって、そんなことならいいなって思いますけど……帰る所、知らないんです」
彼女は、ふくれてしぼんでといった調子でそう言った。
「知らない?失ったわけでは無いって事か?」
「はい。私は物心ついたころから一人でした」
それは、俺以上に……。
女の子が一人ではあまりにも可哀そうだ。あまりいいところではないが連れて行ってやろう。
「リル、だったか。ついて来い」
俺は、家とも言えない住処にむかって歩き出した。リルも黙って俺の後ろについた。
「リル、お前はどうやって生きてきたんだ?」
リルは、少し眉をひそめたがすぐに口を開いた。
「これです」
ん?これとはなんだ。何も持っていないが……。
「はっ!!」
リルがそう叫ぶと腕が白く光る毛に変化し、手は鋭い爪のついたものになっていた。
「チッ」舌打ちをしながら俺はリルから距離をとった。
「リル、お前が光狼だったとはな」
騙された。俺もまだまだってことだな。
同じ境遇を装い暗殺する。簡単なことだってのに。
「ライト、ウルフ?それは何なのでしょうか」
「ふざけんな!その腕は光狼特有の毛並みだ。俺を騙そうとしたって無駄だ!!」
あいつ、まだとぼけるつもりか。その毛並みは光狼だけの物、これ以上騙せるはずがなかろうに……。
「あの、ほ、本当に何を言っているんですか?すごく怒ってるのは分かるんですが、この腕そんなに危ないものだったんですか?」
危ない、だと。その毛は俺の復讐するべき相手の物。本当に知らないのか?こいつは。
「お前その腕だけでなく体まで獣化できないのか?」
「で、出来ませんけど」
「そうか、分かった。さっきの事は忘れてくれ」
こいつの真意はよく分からない。信じ切ったわけでは無いが今は保留だ。
いずれ成長し完全な獣化した姿が光狼だったら、容赦はしない。
「わ、分かりました。忘れられないと思いますが……」
忘れてくれ。ただの孤独な少女だったら可哀そうだ。
「その、一つ聞いてもいいでしょうか?」
「なんだ、聞いてやる」
「あの、先ほど言っていたライト、ウルフでしたっけ」
「ああ、それが?」
「はい、それは、貴方にとってどういう存在なのですか?」
「お前には教えることはできない」
まだ、刺客の線は消えてないからな。
「そう、ですか」
リルは残念そうに言った。
「そうだ。名前、教えてもらってませんでしたね」
「ああ」
「名前ぐらいは教えてもらえますよね?」
「ああ、そうだな」
全くこいつは、よくもこんなに聞いてくるもんだ。
俺の苦手な奴だ。
「早く教えてくださいよ」
「分かった分かった。俺の名前は、ユド、だ」
「これからよろしくお願いしますね。ユー君」
「なっ。そ、そんな呼び方するな!!」
こうして俺は、刺客とも分からない少女と暮らすことになったのだ。
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それからしばらく俺はリルの様子に警戒していた。
が、リルに一切怪しげな言動はなかった。
俺の考えすぎだったのだろうか。
っと。とりあえず一度落ち着こう。
俺は土で出来た容器に「水術・水生」と魔術で水を入れ飲む。
はあ。この頃リルの事ばかり考えているので頭が疲れる。まあ、俺のせいなのだが。
疑うのも悪いことではないのだ。
しかし、これ以上疑ったところで何の進展もないことも分かっている。
よし。一度この事は忘れよう。うん、忘れることなんてないけど、とりあえず忘れたことにしよう。
それがリルにとって一番負荷がかからない。
「さてと、今日は北に行ってみるか」
最近俺は、森の外にあると思われる光狼たちがいる場所を探している。
リルが来る前はそんなことはしていなかった。
いずれ始めるつもりだったが、タイミングが重なった感じだ。
一応の住処から出るとリルが腕いっぱいの食料を持って帰ってきたところだった。
その多くは木の実だ。リルはその獣化した腕で木を登り実を取る。
一度見せてもらったのだが手慣れたもんだった。
「リル、いつも思うが凄い量だな」
「あ、ユー君。いえいえ、こんなのまだまだですよ。もっと上手く獣化が使えればさらにたくさんの木の実が取れますよ」
「え、これ以上の量を……」
それは森を破壊しかねないんじゃないか、おい。
「あの、どうかされましたか?」
「いや、その、あまりとりすぎるとこの森に悪いんじゃないかと……」
「いやいや、大丈夫ですよ!森が、迷惑だ。なんて思ってるわけないじゃないですか!」
リルは笑顔でそう言った。
全く。初めて会った時はもっとおとなしい子だと思ってたのに、全然違ったみたいだな。
「リル」
「はい」
リルは何だと言わんばかりに首を傾げている。
「そういうことじゃない」
俺の言葉の意味が分からなかったらしくリルは、
「じゃあどういう事なんです?」
そう言った。
「あのなあ、リル」
「はい。ユー君」
おいおい、真剣に俺を見るのはいいんだが、ユー君はやめろユー君は!
「はぁ」
「どうかしましたか?」
純粋にそう聞いてきたので俺は仕方なく、
「何でもない」
そう答えるしかなかった。
「それでだ」
「なんでしたっけ?」
「森の事だ。それで、木の実には種があることは知ってるな」
「はい。毎日食べてますからそりゃ」
「ああ。食べる部分に種が含まれない者はいいんだが、含まれている場合。どうなる?」
「種を植えられない……じゃあ、次の木が、生えない。ですか」
「そうだ。俺の実体験だ」
「なあ、リル。俺と会う以前に、木の実取りすぎたこと、ないか?」
「は、い。な、何度か」
「やっぱり、お前か!森は俺ぐらいしか木の実を取る者がいないと思って調節していたにも関わらず次きたときに全て取り尽くされてる。なんてことが度々あったんだ。全く」
「ごめんなさい、ユー君ほんとにごめんなさい」
だからそれで謝るなっての。はぁ。
「なあ、その呼び方どうにかなんないのか?何で初対面からそんな呼び方するんだ?」
「そ、それは。初めての!人の!繋がり……だから」
繋がり……。
「私の記憶に人のいた記憶はない。もしかしたら小さい頃は親がいたかもしれない。でも今の私は一人!なんで、なんで私の繋がりを断とうとするの!」
リルは泣きそうだった。
「お、おれは別にそんなつもりは……だったら少しは俺の事を考えてくれ。俺は、その呼び方は……嫌いだ」
リルは泣いた。泣きそうだった顔がクシャクシャになっていった。俺は、その場を離れた。
あまり書くスピード無いのでこのくらいの長さに毎回なると思われます。