小さな背中
いつもお読み下さり有難うございます!
トイレ前で少し衝撃が走った様な気がした。
上坂が謝ってくるまで俺は上坂にぶつかった事など気づかなかった。
失礼と感じながら、本当に上坂は小さい。
俺は上坂を見下ろす感じだ。
「ご、ごめんなさい!ぶつかってしまい!大丈夫ですか?瀧川さん?」
「ああ、俺こそすまない。俺は大丈夫だが、上坂の方こそ大丈夫だったか?何か考え事か?」本当に吹けば飛ぶぐらい上坂は軽いし、小さい。俺は不死身であるからちょっとやそっとじゃ動じないが、上坂は人間という弱い存在だから、心配になる。
「え?あ、はい!大丈夫です。
両親が海外に居るので、贈り物をしようと考えてました。海外には普通に荷物を送れるんですかね?」
遠く離れたご両親に贈り物とは感心だな。
「そうか。それはいい事だな。」微笑ましい。
俺は海外郵送の仕方を教えると、礼儀正しく礼を述べる上坂。
「有難うございます!分かりました!調べてみます!あ、後、
血と涙の盟約の時は慌ただしくて言えなかったですが、お世話になりました!有難うございます!」と答える上坂。
盟約の時の謝辞を言われるとは思わなかった。俺は大した事はしていない。
寧ろ、俺の方が彩世を助けてもらった事に感謝しているぐらいだ。あの時、本当に必死だった。
大事な家族同然の彩世が深い傷を負った事に取り乱していた。
上坂には、酷い話だが、その血を譲れとまで思っていた。
彩世が元気になった今、心の中で抱いていた感情とは言え上坂には、罪悪感が残る。そして、同時に
彩世を助けてくれた上坂に感謝の気持ちも入り混じる。
俺の複雑な心境も知らずに上坂は無邪気な笑みを俺に向けてくる。
花が綻んだ様な笑みを浮かべた麗に
晃生は磁力線の様に惹きつけられた。
晃生は麗のショートの黒髪が揺れる後ろ姿をじっと見つめるのだった。
俺はふと考える。
上坂はパソコンは持っているのかと。
夕食前トントントン上坂の部屋のドアをノックする。
パソコンを上坂に貸すと言うと上坂は大層、喜んだ。
上坂を俺の部屋へ案内する。そう言えば、俺は誰かを部屋に入れるのは、久しぶりだと思い出す。潔癖な俺は普段あまり人やヴァンパイアを自分の部屋に入れる事はない。
「何も無い部屋だがあの椅子を使ってくれ。」と促す。
暫く返事を返さない上坂は戸惑っている様だ。
「...でも、椅子が一つしか無いですが...」
「気にする事はない。俺はここに座るから。」と大抵寛いでいる棺の上に座る。
俺は必要、最低限の物しか置かない様にしている。物が増え過ぎると思い入れが深くなってしまうから。
パソコンに向かった上坂がパスワードを尋ねてきたので、俺は長いパスワードを入力しに上坂の座る椅子まで向かう。
椅子越しに上坂に覆い被さる形でパスワードを入力する。
小さいな。
さっきも思ったが、椅子越しに見る上坂の背中は小さい。
とても。
守るべき存在だと実感する。
そう思っている間にも手を動かして
「出来たぞ。一応国際郵便のサイトも開いた。」
「あっ有難うございます!それにしても、詳しいですね!」
盟約以来、上坂の勇気や優しさを知った俺はすっかり上坂に心を許してしまい、俺の家族や事情について話してしまう。
「ああ、俺の親も海外に居て、時々利用しているからな。俺の親は訳あって、ヴァンパイア達に追われてる身で、海外に逃げている。」
「そうなんですね。それは大変ですね。」衝撃的な顔をする上坂。
顔に出やすいタイプなのか、此方を振り返った上坂の意志の強そうな薄紅色の目は、零れ落ちそうな程カッと見開かれていた。元々、大きな目が更に大きくなっていた。
シリアスな雰囲気が台無しな感じに、思わず笑ってしまう。
上坂本人は至って真剣なんだろうと思うと、俺は笑いを堪えた。
が、暫くすると捻った首が痛くなったのか、居た堪れなくなったのか、また前を向き始める上坂。
本当に分かりやすいな。俺は堪らず上坂の小さな背中越しに微笑むのだった。
そんな上坂を見ると気が緩む。
俺は上坂に俺の事を知ってほしくなり、気付いたら、上坂に俺の過去を打ち明けてしまっていた。
「軽蔑するだろうが、俺は昔、過激派だった。」とアメジストの瞳で麗の背中を見ていた。
俺が元過激派と分かった上坂はどんな反応を示すのだろうと。
本日も最後までお読み下さり有難うございました!




