早乙女晴一 視点①
今、気分はとても最悪だ。
昨夜は、人生最大の汚点!男の血を飲むなんて!... ...昨夜はどうかしていた!しかも
上坂麗の気を失わせてしまった。悪い事をしてしまったと思いつつ、イライラする。
夕方、僕、早乙女晴一のドア前で
「うわわッ!?」上坂麗のビックリした様な変な声が聞こえる。五月蝿いんだけど!僕は昨夜の事でイライラしてるのに!今1番、聞きたくない声がする。
だけど、そんな事はお構い無しに
「えっと、首筋に触れられたら擽ぐったいので止めてもらえませんか。俺に用ですか?」上坂麗が一条征史朗に言う声が聞こえてくる。
人のドア前で何されてるんだよ麗!何だか腹が立つ。
僕はストロベリーブロンドをかき上げて、エメラルドの瞳を細め、顔を顰める。何でこんなに不快な気分になるんだ?
「そう硬くならなくても、取って食べたりしないよ。安心して。」クスリと笑う征の声。
「特にはないけど、
無闇にヴァンパイアの部屋に行くのは
良く無いよ。まぁ、忠告かな。晴は昨日、
君の血を飲んだから、大丈夫だと思うけど。
君の血液の香りは良い香りだから、気を付けてね。もちろん僕からも。」
何だか不穏な気配がする。僕は堪らず声を掛ける。上坂麗は危なっかしい奴!
「君ら、人の部屋の前で何話してんの?うるさいんだけど!」僕は吐露する。
「ごめんなさい。起こしてしまい。」上坂麗は謝ってくる。相変わらず、良い匂いだ。
そして居た筈の征が忽然と姿を消している。全く!
「...それで、晴の部屋の前で君は何をしたいわけ?」エメラルドの瞳を向ける。
昨日の一件で僕の事を怖がってると思ってたのに。君を貧血状態にしてしまった僕に。
君は平然と僕に話し掛ける。僕が言うのも何だけど、危なっかしい奴。
上坂麗は無防備過ぎる。
こうして居る間も、君の血液の香りが、僕達ヴァンパイアの鼻腔を擽ぐっていて、吸血衝動を引き起こさせてくると言うのに!
「あっ!2階のキッチンを使っていいですか?」
「別にいいよ。」
「此処の皆んなに料理を振る舞いたいなと思って。」
「食べれるの?それ。」
「晴さんのに比べると劣るかもしれないけど」そんなの当然だ。僕は思う。そして、
「頑張ります!」と君は続ける。
「まぁいいんじゃない。食べれる料理を期待してるよ。」
上坂麗の前では、何故か愛想を振りまけない。素の僕になる。
「えっと、此処の料理は皆んな晴さんが管理してるって彩世さんから聞いたもので...
たまご粥と、おにぎり美味しかったです!ご馳走様でした。」
「ああ、別に大した事じゃないし、それよりも君、僕の事、怖くないの?」人間達は、僕達ヴァンパイアを怖がる生き物だ。僕は、平然と声を掛けてくる上坂麗に疑問が湧く。エメラルドの瞳を麗の薄紅色の瞳に合わせる。
麗は薄紅色の瞳をぱちぱちさせた。思ってもみなかった顔をしている。分かりやすい奴。
「正直、少し怖かったです。でも、晴さんと話してたら忘れてました。」とアハハハと
明るく笑う麗。
僕は無言で麗を見つめる。
「それに、俺のこと気に掛けて、「なっ!」僕は慌てる。確かに悪かったとは思って気に掛けてはいたけど...
麗は続きを話す。「たまご粥とおにぎり作ってくれたなんて、優し過ぎるし、怖いよりも感謝のが勝ってます。」面と向かって言われるのは、恥ずかし過ぎる。だけど、僕は何故か、その言葉に内心ホッとしていた。
「おにぎりの具材も鉄を作るのに必要なアサリとか肉とかで、俺の事、ちゃんと考えてくれてたんだなと思ったら感激で嬉しかったです。」と再び麗は黒髪を照れ臭そうに撫でてニッコリ笑う。
ドクンッ
僕の心臓が飛び跳ねた音がする。きっと気のせい!そうだ。きっと!気のせいだ!男にある訳ない!
「なっなっなっ...!」「君は何でそんな恥ずかしい事を言えるわけ?おにぎりは君が新しい血を作ってもらう為だし!キモイんだけど!」と顔が熱くなる。
上坂麗は手を伸ばしてきて僕のストロベリーブロンドの頭を撫でる。
「!?」ビックリする。身長が僕より10㎝も小さい
上坂麗が僕を上目で見上げて撫でてくる。
薄紅色の綺麗な瞳を細めて
僕に笑い掛けてくる
ドクンドクン僕の心臓の音がする。
僕は思わずその笑顔に見惚れる。
白い肌
小さく繊細な手で触られる度に、その手に齧り付きたくなる。昨日の衝動が甦ってくる。
麗の血液の香りが、香ってきて、頭の中がふわふわする。どうにかなってしまいそうだ。君から目が離せない。
また、その白い首筋に牙を立てたくなる。僕はどれくらい撫でられていたのか、
正気に戻り、パシッと麗の手を振り払う。
何なの?君は!頭がおかしくなりそうだ。
「気安く僕に触らないでよね!征に聞いたよね!無闇にヴァンパイアに近づくと食べられるんだから!」顔が熱くなりながら、怒鳴ってしまう。
「それじゃ。もう、用は済んだでしょ!料理するなら早くしてよね!」と麗の両肩を持って2階のキッチンに降りる階段へと促す。
「は...い」麗は重々しく言った。僕に背を向けて歩き出す。
ひょろひょろした
華奢な後姿を見ると僕は思わず、声を掛けていた。
「麗!」
僕はそう呼び止めて、何時も持ち歩いていた物を、手に握りしめて麗に近づく。
「麗、また僕に血をちょうだいよね!」男だけど、上坂麗の血は美味しいから、僕が、貰ってやる。深い意味はない。
顔が赤くなるのが分かるけど無視だ。僕は
グーの形の手を麗に差し出す。
麗は首を傾げる。
「手!掌を出して!」晴一は言う。
「はい!」首を傾げながら、手の平を上に向ける。
僕は麗の手の平にシャリンっとブレスレットを乗せる。ブレスレットのトップには菱形の2cmくらいのカプセルが付いている。
「?」このブレスレットと僕とを交互に見て
首を傾げる麗。
「... ...ッあげる!この菱形のカプセルの中には、僕の血が入ってるから、これを持ってるだけで、少しは護身になると思う...」僕は慌てて言う。
麗はビックリした顔をした。
「あ、あ、有難う!こんな貴重なものを俺に。」と薄紅色の瞳を嬉しそうにする。麗の嬉しそうな、顔を見て晴一は益々、自身の顔が熱くなるのを感じた。
本当に麗と居ると調子が狂う。本当はこのブレスレットは「女神の血」の乙女にあげようと思っていたのに... ...
「君、危なっかしいから!只それだけ!じゃあ!」そうだ!こんな締まりのない、ほうけた麗だから、上げるんだ!僕は用も済んだし、とっとと部屋に戻った。
本日も最後までお読み下さり有難うございます(>人<;)




