幕間 結城美佳②
部室での事は大した事件にはならなかった。
先輩は重症で入院した。生命には問題無いそうで。
学校側としては事件を公にすると甲子園出場は取り消し
、更に野球部の活動休止となれば来年の入学数にも影響を与える為、私には被害届けを出さずにしてくれないかと、校長先生に毛の無い頭を下げられた。
私としても、苦労して果たした甲子園出場を私のせいで取り消しになるのは嫌だった。てか私のせいじゃないけど。
でも、野球部は退部した。
野球部はエースが怪我で離脱と言うアクシデントと私の急な退部で甲子園に臨んだが、初戦で惨敗。
3年生は引退した。先輩はまだ入院中。そのまま死ねばいいのに。
夏休みが明け、学校内では根も葉もない噂が流れる。
野球部エースと私の間に何かトラブルがあったらしい。
恋愛感情のもつれが原因らしい。
私の浮気を知って、先輩が自殺未遂したらしい。
私が何股もかけてるとか、ビッチだとか、先輩にフラれた腹いせに襲ったとか酷い噂ばかり。
私が被害者なのに、本当の事を言えないから、加害者みたいにされている。もう嫌だ。
それからと言うもの、私は荒れに荒れた。超グレた。
渡らない横断歩道の歩行者ボタンを押したり。黄色い旗を盗んだり。自販機の受取口を接着剤で開かなくしたり。悪行の限りを尽くした。
授業中に一人で人生ゲームをしていたり、家庭科室の具材を勝手に使い、料理をしていたりとか好き勝手に過ごしていた。
学校側は私には逆らえないので見て見ぬふりだ。
まるで私が存在しないかのように。
本当につまらない、無駄な時間を浪費していた。
学校では嫌がらせが増えた。元々女子生徒に疎まれていたが、最近は特にだ。
机やら、教科書に落書きをされたので、校長先生の机と取り替えたら、落書きはされなくなった。やはり座り心地よい椅子は眠くなる。
上履きに画鋲が入っていたので、上履きを履くのを辞めた。校内を土足で過ごす事にした。
体操服を隠されたりしたが、着替えないから意味ない。
トイレは基本的に職員用を使うのでトイレの嫌がらせは無い。
常に金属バットを持って歩いてる為、直接的なイジメは来ない。来たら殺す。
故に平和だった。
ある日、バッティングセンター帰りにコンビニに寄った。
「いらっしゃっせー!」
無駄に元気な店員の挨拶がムカつく。
レジの前に商品を置いて、店員を見たら君だった。
「温める物ございますか?」
「……ない……です」
心臓が飛び出そうな程、緊張してしまう。急に現れるなんて反則だよ。
てゆうか、買ったの飲み物とアイスなんだけど、温める物ある訳ないだろ。アホか!
「ポイントカード的な物ございますか?」
「ないです……」
ポイントカード的なってなんだ?
「ただいま肉まんとアイスのセット割りですが、ご一緒に肉まんいかがですか?」
「け、結構です……」
肉まんとアイスのセット割りってなんだよ!
どっちから食べるのが正解なんだよ!
施策としておかしくないか?本部大丈夫か?
「ありあとっしたー!」
普通に会計を済まし、コンビニを出て帰宅した。
コンビニで働いていたのか。
学生かな?歳からしたら大学生かな?
気になるので、コンビニでバイトしてみる事にした。
面接
「何故、当店でバイトを希望したのですか?」
目にクマの出来た過労死寸前みたいな店長だ。
「いつも利用させて頂いてて、働きやすそうな雰囲気だったのと、進学費用を少しでも稼いで両親の負担を軽くしたかったので希望しました」
「なるほど。偉いね。接客は好きかい?」
「はい!大好きです!」
……嘘だ馬鹿め!
くっくっく!家族の為とか言っておけば好感触は間違い無い。接客など好きなはずないだろ!単なる暇つぶしだよ!
数日後……
「今日から働く事になった結城さんです!咲野くん、教育よろしくね!」
店長は君に私を丸投げして、事務所と言う牢獄へと戻って行った。
「あっ、はい!俺咲野。よろしくね、えーと……」
「結城です。よろしく咲野くん」
名前忘れるの早っ!今紹介されただろうが!
「じゃあ、結城さん!これがレジだ。これをピってすればなんとかなる機械だ」
いや、それは分かる。使い方を教えろ!
「それと……これが水道の蛇口だ。捻ると水が出る」
知っとるわ!馬鹿にしてんのか!
私を原人か何かと勘違いしてんのかな?
ムカつく!ムカつく!
「あと、入口を入って来る奴らは皆、お客さんだ。いらっしゃいませ!って言っておけば大丈夫らしい」
うん。何か君が、残念な奴だと言うのが分かったよ!
それと、この店ヤバいんじゃないかしら?
だけど、私は君と居ると、感じたんだよ。
絶対、コレはおもしろい事になる。ってさ。
◇魔族国、デスパレス城の寝室。
すぅすぅと、静かな寝息を立て眠るエイルを見る。
見慣れた姿だけど、君だと思うと、違って見える。
「まだまだ楽しませてくれるかな?咲野くん」
「……むにゃむにゃ……いいとも〜……」
何の夢見てんの?
そしてエイルを抱きしめて再び眠りについた。




