6話 本人登場ですね
振り返ったら、知らない女。
フードを被っているので顔が良く見えない。
「どちら様ですか?」
「私は結城美佳よ。その身体は私の身体のはずだったけど、ねぇあなた一体誰なの?」
結城美佳本人を名乗るその人物はフードを取って顔を見せた。黒髪のロングヘアに赤い眼、透き通る様な白い肌。全身黒を基調にした服装だ。
だが、全然知らない女の顔だ。
何コイツ怪しい。けど美人ですね。
「さ、咲野だけど」
仕方ないので名乗ってみた。事情がよく解らないが
彼女が本当に結城美佳本人なら、俺を知っているはずだ。
「咲野……くん、なの?本当に?」
「ああ、そうだけど……」
こんな所でまさかの再会とは!
とはいえ、詳しく事情を話そう。
「とにかく場所変えて話さないか?」
道端でする様な話ではないだろうからな。
聞かれると困る内容でもある。
「そうね」
相変わらず可愛げ無い態度だ。
しばらく歩いて、人気のない裏路地に着いた。
「で、なんで咲野くんが、私になってんの?」
とりあえず、今までの経緯を洗いざらい説明した。
と言うより、させられた。
「ふーん、それであんたは人の身体で悠々と異世界生活を楽しんでいるのね!大体、あんたのせいで殺されたのよ!責任をとりなさい!強盗見て笑うとかありえないでしょ普通!」
返す言葉もありません。
急にあんた呼ばわりに格下げかよ!
関わりたくないな。うん、逃げよう。
「じゃ、そう言う事なんで、お互い頑張ろうね!」
その場を去ろうとしたが、回り込まれた。
「逃がさないわよ!覚悟しなさい!」
と、その時、(ギュルルー)なんか変な音が。
「うぅっ」
美佳が、お腹を抑えた。
「大丈夫か?悪いもん食ったのか?」
「もう3日何も食べてなくて……」
見捨てる←
助ける
こんな選択肢が出てそうだ。
何か食わせろ的な展開ですかね?
仕方ない、見捨てるのもありだが、ここは恩を売っておけば、少しは大人しくなるだろ。
「わかったよ、とりあえず何か食べに行くか?」
一方その頃
フレオニールは、セリスを呼び出した。
エイルの件で、相談がある為だ。
「失礼します。お呼びでしょうか?」
「まぁ、楽にしてくれ、実は相談があってな」
「嫌です」
「ぐっ、まだ何も言ってないぞ!」
予想外の即答にちょっとビックリのフレオニール。
「大体わかりますよ、どうせまた貴族とか、王族とのパーティーに呼ばれるとかですよね?側室になれだの、正室になれだの、王妃になれだのとか、ウンザリです」
割と凄いのが、紛れてたが今回は違う。
「エイルの件なんだが」
「エイルがどうかしましたか?」
「実はな、ギルドに頼んでステータスを探らせてもらった」
「あまり感心出来ませんね」
「エイルは天族だ」
「天族?ってなんでしたっけ?」
「士官学校で習わなかったか?邪神戦争の時に出てきた神の使いだ
もしそんな存在が本国に知れたら……」
「討伐の対象かあるいは利用されるか」
「…………」
「だが、幸いにもまだ一部の人間しか知らないのでな、知らんふりする事にした」
「はあ……」
「そこでだ、セリスにはエイルに同行して貰い、エイルが世界を敵に回さない様に誘導して貰いたいんだ」
「要するに間者になれと?」
「まぁ、そうだがエイルの為でもある。彼女は世界を知らなすぎる。君の様な保護者が必要だよ」
実際保護者としてセリスが適任とは言い難いが、セリス自身がエイルに興味を持っているのは感じる。
「了解しました。エイルを敵にしたくないので、この任務一命に変えても遂行致します!」
◇某食事処
仕方なく、結城美佳に食事を奢る事になったが、食事をしながら、彼女のこれまでを聞く事が出来た。
この世界に転生して15年。赤子からリスタートした異世界生活のパターンの様だ。
15歳になり、成人したので、故郷を出て今日に至る。
この世界での名前はミカエル・デストラーデ
なんか助っ人外国人みたいな名前だが、あまりからかうと怖いので、やめておいた。
「ところで、結城さんは、種族何なの?人族ぽいけど、違う様な感じするよね」
「…………淫魔」
淫魔ってあの、エロい悪魔みたいなやつだったかな?
「あの男嫌いの結城さんが、淫魔とはね」
「純粋な淫魔ではないの!母が淫魔で父は吸血鬼なの!」
どちらにしても魔族だね。
それから、ミカエルの旅の話を聞いていた。
所持金、荷物は騙されて全て失ったらしい。
永い旅の為、途中で見つけた商人の馬車に乗せてもらっていたのだが、その馬車は盗賊団だったらしく、野営の際に逃げてしまったそうだ。
要するに一文無し。
だが、15年先に異世界に転生しているなら、この世界に詳しいはずだ。
「ところでこの先、どうするつもりなんだ?金も無いんだろ?」
「あ、そうそう、勇者をぶっとばしに行くつもりなんだけど、咲野くんも来ない?」
「勇者を?なんでまた?」
コイツ何考えてるんだ?いきなり面倒に巻き込まれるのはごめんだ。
「勇者は、私達を殺したあのコンビニ強盗よ」
「えぇっ!間違いないのか?」
「ええ、間違いないわ。咲野くんが殺されて、直ぐに私も殺されたんだけど、死ぬ間際にストッキングを剥ぎ取ってやったから、顔は覚えてる。それでたまたまこっちの世界で勇者を見かけたら、アイツだった」
コンビニ強盗が勇者とか、人選ミスにも程があるだろ
人の事殺しておいて、異世界で英雄とか許せないな。
「よし!すぐ殺そう!凄く殺そう!」
「それが簡単には殺せない理由があるのよね」
「やっぱり強いのかな?」
「うん、凄く。チートの権化。あと一番厄介なのは、勇者は死ぬと教会に戻って復活するらしいわ」
「何その国民的ゲームみたいな設定。反則過ぎるだろ!」
「まぁ、殺し方はこれから考えるとして、圧倒的な実力差を埋めるのが先決ね」
一度女神に相談した方が良さそうだな。
仇とは言え、勇者を殺るのだ。
結城さんを連れて兵舎に戻り、フレオニールを訪ねた。
「ちょっと話をしたいのですが今大丈夫ですか?」
「ああ、ちょうどこちらも話があってな、ところでそちらの怪しいご婦人は?」
やっぱり怪しいよね?
まぁ、見るからに怪しい風貌だから仕方ない。
結城……改めミカエルが、フードをとり
「ミカエルといいます。エイルとは同郷の出身で、たまたま再会いたしまして」
一応二人で話合った結果、互いの呼び方をこの世界の名前で呼ぶ事にした。
まぁ、嘘ではないが、フレオニールがとても怪しんだ表情をしている。
「私はフレオニールだ、一応ここで防衛隊の隊長をしている。簡単な挨拶で許してくれ。用件を伺おうか」
俺はギルドの依頼があるため、街の外に出る事と、ミカエルと行動を共にするので宿をとって活動をして行きたい旨を伝えた。
「良いだろう。ただしセリスを連れて行ってくれないだろうか?」
監視かな?でもセリスと一緒に冒険出来るのは嬉しい
結城と二人では精神的にキツイので助かる。
「ああ、別に構いませんが、セリスも承諾済みですか?」
「問題ない。明日には合流させるのでセリスを頼む。困った事があればいつでも来てくれ」
「ありがとうございます。ではまた」
その日の夜
ギルドに近い場所の宿「ロビンソン」に部屋をとった。個室を取りたかったが、何故か結城に拒否されて同室になった。まさか淫魔だから襲うつもりか?
「何か気まずいな」
部屋に入り、マリーに作って貰った普段着に着替える
アンミラ風のブラウスにサスペンダーの付いたショートパンツだ。スカートじゃなくて良かった。
結城があの怪しいローブを部屋の衣装掛けに掛ける。
ローブで気づかなかったが、前世では無かった武器を手に入れた様だ。
張りの良い推定Eカップの武器を。
服は武器を強調するかの様な胸元が空いた黒いショートドレス。 淫魔め……
ローブ着て無かったら街中歩くだけで男子の視線はくぎ付けだろうな。凶悪な身体だ。
「咲野くん、じゃなかった。エイルひょっとしてノーブラじゃない?」
なんか睨まれてます。
「着る必要ないと思ったのと、付け方知らないから。それに全く揺れないのだHAHAHA!」
ピシッと空気が凍りついた。
「やっぱり君を一人部屋にしないで正解だったわ。
白いブラウスだと透けるだろうが!」
スパーン!
部屋にあった冊子を丸めたもので叩かれました。
「あと、片膝立てて座らない!あぐらもダメ!股を開くな!下の物を拾う時に前屈みになるな!胸元がガラ空きになる!男なんて、女を嫌らしい目でしか見れない生き物よ!」
「そ、そんな事は……」
「奴らはねブラチラ、パンチラ、ポロリでご飯食べれるらしいわ!」
その後深夜まで、女子としての行動等を無理矢理叩き込まれた。
そして、朝になった。
「起きろ俗物!」
いきなり蹴飛ばされ、ベッドから落ちた。人を朝から俗物扱いで蹴飛ばすとかホント怖い。
淫魔に俗物呼ばわりされる俺って……
「もっと普通に起こせよ!」
「何よ、私に優しく「エイルぅ、起きてぇ♡」とか言われたいの?嫌らしい!」
ちょっと言われたいかもしれない。
但し、貴様ではない!
「うぅ……」
駄目だ、コイツには口で勝てない。
「そんな事より、朝食が出来てるから、1階に来いってさ、髪直して上げるから急ぐわよ!」
寝癖を直して貰い食堂へ降りる。
朝食はパンとウインナーと目玉焼き。コーヒー付きだ。異世界感無いな。
「で、今日の予定はどうなってるのかしら?」
人を阿呆を見るような顔で結城、改めミカエル(ミカさんと呼ぶ事にした)は言った。
「ナオーリ草を採りに行って、セリスと合流。その後一度女神様に報告かなぁ」
「じゃあ、サッサと食べて行くわよ」
部屋に戻り、着物に着替える。腰には雷電丸。
ああ、そうだ、防具も一応揃えないとだなぁ、なんて考えながらふとミカさんの方を見た。
変わった武器を持っていた。
木製の90センチ程の太めの棒で、持つ所は細くなっていて、上部30センチくらいには金属の釘が無数に付いてトゲの様になっている。
釘バットである。
「なんで釘バット?」
「たまたま家にあったのを持って来ただけよ」
釘バットが家に有る環境で育ちたくないと思った。
魔族の家庭では普通なんだろうか?
あれで殴られる魔物が、可哀想だなとか考えながら宿を後にした。
本人登場の回でした。
位置付け的にはヒロインかなぁ
次回 A <B<E




