4話 始まりの街ですね
目が覚めた
「知らない天井だ」
またこのパターンか。
「ヨダレでてた」
口の涎を手で拭きながら辺りを見渡すと、かなり広い部屋のベッドで寝てたらしい。
「どこだ?」
確かドラゴンと戦ってて、その後は記憶が無い。
服が変わってるので、寝てる間に着替えさせてもらったのか……
異世界ものの定番で、俺が主人公だとしたら、やっぱり美少女が登場して看病してたりする場面ですが……
居ないみたいですね。
ヒロインの登場があったりとか期待してしまう。
「よっ」
ベッドから降りて、窓から周辺を確認する。
高さからすると3階くらいか。
辺りの建物を見ると、町のようだ。
町の風景は何と言うか、中世西洋風ですかね?
石造りの建物が殆どを占めている。
太陽?で良いのか解らないがお日様の位置からして
朝だと思う。一日経過している?
「さてどうしようか?」
装備品も見当たらないので、窓から逃げる訳にもいかない。一文無しは困ります。
コンコン
突然のノックにビクってなった。
「はひっ!」
ダッシュでベッドに潜り込んで、ドアの方を窺う。
「入りますね」
金髪のロングヘアをサイドテールに束ねた女騎士が入って来た。
ぴょんと跳ね上がった長い耳。どうやらエルフだ。
ヤバイ、実物のエルフとか初めて見るが本当に美人だ
スラッとしてますよ、スラッと。
このちんちくりんの身体とは出来が違うのですよ。
〇クとは違うのだよ!ザ〇とは!と言われてる様な
プレッシャーを感じるぜ!
「意識が戻られて良かった」
本当に良かったと思って無いだろう位に無表情だ。
少し、警戒しているようだ。
「あの、あなたは?、それとここは一体?」
「申し遅れました。私はファミリア王国騎士団、サンク市防衛隊、副隊長のセリスでございます」
騎士らしい礼をする。
「貴方のお名前を伺っても?」
「あ、えーと、エイルです。はい」
エルフで女騎士とか、お腹いっぱいっス
今後のクッコロに期待大だ。
「では、エイルさん、私の上官がお話があるそうなので、お呼びしてもよろしいでしょうか?」
「……はい」
拒否は出来る状況ではない為、仕方ないよね?
ボロが出ない様にしないとだが……
尋問?拷問?
しばらくして
「私はファミリア王国騎士団のフレオニールだ、幾つか質問をさせてもらう」
うう……俺はこういった尋問や面接が苦手だ。
異様に緊張して、余計な事答えたり、要らん事聞いたりしてしまう。
俺が就職に失敗したのは9割は面接と言っても良い。
「あの場所で一体何が起きた?」
「えーと、ドラゴンに遭遇して倒しました」
うん、そのまま言った。
「「!」」
「君一人でか?」
「ですね。強かったので死ぬかと思いました」
「助けてくださって助かりました」ペコリ
「そ、そうか、で、どの様に倒せたのだろうか?」
引きつった表情でフレオニールが聞いてくる。
「えと、殴ってから、魔法を連発して……後は覚えてないです」
「「…………」」
しばらく沈黙が続いて
「質問を変えよう、君はどこから来たんだ?」
「あっちの方だったかな?ちょっと方角が解らなくなってしまい、すみません」
「出身は?どこの国かな?」
あっ、そういう事か、困ったな。超田舎設定で行こう。
「山奥で 母と二人ひっそりと暮らしてまして、国とかは良く解らないのです」
「そうか、了解した。暫くは解放出来んが、町に滞在する許可を出そう」
「ありがとうございます」
「食事の用意が出来たら、人を寄越すので、それまで部屋でゆっくりしてくれ」
そう言うとフレオニールとセリスは部屋を出ていった。
隊長室にて
「セリス、どう思う?」
「怪し過ぎますが、間者の可能性は低いですね
嘘が下手すぎです」
「確かに」
「まぁ、しばらく様子を見るか」
◇
「うーん」
ベッドの上で俺は考え事をしていた。
とりあえずこの先の行動計画が必要だ。
異世界のテンプレ的な行動として、宿を探す、職を探す
なのだが、あとはこの世界について調べる必要がある。
予めアチナに聞いておけば良かったが、アチナも説明不足でないかい?不備が目立つよね?
それと、刀剣スキルが無い為か、ドラゴンに全く通用しなかった。師事出来る人を探して戦いの基本を学ばないと危険だ。
食事のあと、外出の許可を貰おう。
コンコン
「お食事のご用意が整いましたので、ご案内いたします」
「はーい」
部屋を出ると、部屋を出ると若い兵士が食堂まで案内してくれた。
途中、何人かの兵士達とすれ違ったが、皆チラチラと
俺を見る視線が、気持ち悪い。
「こちらです。手前の席にお座り下さい。」
そう言って案内すると、兵士は去って行った。
ガチャ
「待たせてすまない」
フレオニールとセリスが入室して来た。
部屋の感じからして、他の兵士達とは別の食堂の様だ。
一つのテーブルに席は6つしかない。
「遠慮なく食べてくれ、赤龍を討伐してくれた礼の一部だ
あとで報奨金として金貨10枚を用意しよう」
「ありがとうございます」
金貨10枚が、どれだけの価値があるか解らないが、貰える物は貰っておこう。
目の前に並ぶ料理の数々。どれも初めて見る物ばかりだ。初異世界料理だ。
何の肉か解らない物がたくさん並んでる。
とりあえず食べてみるが、可もなく不可もなく
要するに普通だった。海外で食事する様なもんか。
海外に行った事ないが。
「この後、町に出てみたいのですが、よろしいでしょうか?
買い揃えたい物もあるので」
「ん、許可しよう。セリスを案内役に付けるが、よろしいか?」
「是非よろしくお願いします!」
多分、監視だろうけど助かる。実は1人で買い物はかなり不安だったのだ。ぼったくりに合いそうだし。
お昼過ぎ
「それではエイルさん、私がご案内致します。どこか希望はありますか?」
「とりあえず、衣類と下着を揃えたいのでよろしくお願いします!」
「かしこまりました、良い仕立て屋がございますので、ご案内致しますよ」
サンク市の正門から大通りが商業区で、左右に西通り
東通りがあり、西が工業区、東が農業区。大きく分けるとそのように別れている。住宅はそれぞれの区ごとにあるようだ。サンク市には約20万人住んでいるそうだ。王国二位の都市だそうだ。
ファミリア王国にはサンク市の他に港町サクルとココ村の二つあるらしい。首都は別にあるらしい。
多種族国家なんだそうで、人族、エルフ、ドワーフ、亜人が暮らしている。
街並みはブラウンを基調にした石造りの路面で建物も、上手く合わせた印象だ。
歩道には街灯があり、夜道も明るそうだ。電気?ガス?それとも魔法でしょうか?照明事情も気になる。
大通りには馬車が行きかう。移動手段は馬か……
パッと見の文明レベルは19世紀くらいかな?
地球の19世紀と違うのは人じゃない種族が歩いてる点かな。
色々と話ながら、商業区の店に着いた。
「ここは、女性冒険者がよく利用する仕立て屋です」
女性?あ、そうか俺は今は女性か。ていうか女の子だよ。
なんなら子供服でもいけます。ちびっ子です。
「いらっしゃいませー。あらセリスお久しぶり!」
血のように赤い髪の女性が元気よくあいさつしてきた。
「マリー、今日は客人を連れてきたのでよろしく頼む」
「あら、可愛らしいお嬢さんね!はじめまして、この店の店主マリーです、よろしくね!」
「あ、エイルです、よろしくお願いします」
「エイルちゃんね!今日はどんな衣服がご希望かしら?」
「えーと、冒険者用の服と、普段着を幾つかお願いします」
「いやー、久々に創作意欲のわく逸材だわ!本当に天使みたい!」
みたいじゃなくて天使です。まぁ元の持ち主は悪魔みたいな女だったが、それは語るまい。死んだ人の悪口は言いたくないからね。
「あ、あまり露出が多くないのと、派手過ぎない様にお願いします」
「かしこまりました!ぐふふ」
ちょっと嫌な笑いが聞こえたが、異世界の服装の常識など解らないので、任せるしかないだろう。
そもそも既製品の服(新品)は基本無いらしく、庶民は普通、生地を購入して、自前で作るのが一般的だそうだ。考えてみれば、日本でも既製品の服装等は昭和くらいからだろうか?
庶民レベルで既製品の服を買えるなんて近代国家でも
先進国だけだろうか?
如何に日本に生まれて良かったと感じずにはいられない。かなり脱線した。
「それじゃ、採寸するからじっとしててねー」
俺は言われるままに両手を横に広げたり上げたりした。
メジャーで胸囲を測られたとき
「まだまだこれから大きくなるからね~、強く生きてね~」
なんか励まされた。
「うん、もう大丈夫だよ」
「明日までには必ず、命に替えましても完成させます!」
「はぁ、よ、よろしくお願いします。」
とても不安だが、任せよう。
マリーの店を出て大通りを正門方面に向かって歩いて行くと、宿屋街、食事処が立ち並ぶ場所があり、その一角にある冒険者ギルドに着いた。
建物は二階建てだ。
中に入ると、正面に受付があり、1階の大半は食事処兼酒場。受付の右の壁に依頼関連コーナー。
うん。ありふれた冒険者ギルドだ。
全異世界共通ですか?
キョロキョロしながらセリスの後ろを歩いていると
受付の女性が声をかけて来た。
「あら、セリスじゃない、珍しいわね。軍をクビになったの?」
「違うぞ、今日は道案内で、冒険者希望のお客様を連れて来たんだが、新規登録頼めるか?」
「冒険者希望って、その子が?まだ子どもじゃない?」
子どもに見えるかやはり……
「そうだ、よろしく頼む」
「改めてよろしくね!私は受付担当のローザよ。セリスとは古い知り合いで、一緒にパーティーを組んでた事があるの」
髪はセミロングで栗色の髪。眼鏡がまた良く似合った美人だ。委員長みたいな感じかな。
良くいるタイプの受付の方ですね。
「エイルです、よろしくお願いします」
とりあえず自己紹介的なものをして、渡された書類に必要事項を記入する。
不思議と、この世界の文字は読めるし、書くことも
出来る。あれか言語理解的なチートだな。
「じゃあ次に、この魔道具の中心に手を置いてくれる?」
む?魔力測定器とかでしょうか。
丸い水晶を想像していたけど、平べったい石の板だ。
よく、異世界ものの定番でいきなり測定不可とかでギルドが大騒ぎになったりとかするよね?
「フッ、英雄の誕生だな。案外お前みたいなやつが魔王を倒すのかもしれないな」とか言われちゃうかな~。でへへ。
まあ、魔王居ないんですけど。
手をかざすと青白く光り、そして直ぐに消えた。
「はい。もう結構よ」
手を離すと、何やらカードを石版に置いた。
すると、カードが光り、直ぐ消えた。
「はい。出来上がり。あなたのギルドカードよ」
思っていたより簡単ですんなりいった。
魔力装置破壊とかのパターンも想定していただけに正直残念。
「まず、カードの説明をしますね、依頼を受ける際と完了した際に必要になりますので、無くさない様にお願い致します。再発行は銀貨5枚かかります。
今回は夏の新規入会キャンペーン中なんで登録無料で、今なら銅貨1枚、1000ジルで決済機能も付けれますが、いかがなさいますか?」
電子マネーかよ!って頭の中でツッコミを入れたが、便利そうなので決済機能を付ける事にした。
依頼の報酬も自動入金されるので、有難い。
ギルドの口座開設も完了した。
セキュリティは2段階云々って言ってたが、ちょっと何言ってるのか解らないので、適当に頷いてやり過ごした。
因みにジルペイと言うらしい。
「今日はありがとうございました。お陰で明日からの職にありつけましたので、なんとか生きて行けそうです!」
「いや、お安い御用だ。あとは何かありますか?」
「そうですね、出来れば少し剣術の指導をしてくれる場所とかないですかね?」
剣術スキルはこの先必要になるので、覚えておきたいところだ。雷電丸を使いこなせる様にはなりたい。
「それなら私が、指導致しましょうか?
刀は専門ではないですが、基本剣術なら指導できますので」
「是非お願いします!」
これは大変有難い。フレオニールとかはちょっと嫌だとか、思ってただけに、渡りに船だな。
美人エルフに弟子入りなんて異世界来て良かったなぁ。
談笑しながら兵舎に戻る途中。
セリスが、小さい声で「何者かに尾行されてます」
「えっ」
俺が驚いていると
「しっ、そのまま普通にしていて下さい」
「いつからですか?全然気付かなかったけど……」
「ギルドを出てからだと思います
このまま気付かなかった振りして戻りましょう」
「了解です」
尾行される覚えないから、セリスさん絡みだろうか?
結局何も起こらず、無事に兵舎に帰還した。




