18話 英雄の帰還ですね
魔族国デスニーランド
この日、魔都はお祭り騒ぎだった。
新たな魔王の誕生に国民達は喜びに満ち溢れていた。
先代の魔王ラファエルの一人娘、ミカエルの即位は誰もが望んだ事であり、その実現に歓喜した。
暗黒神デススデスを崇める暗黒神殿では今まさに
降魔の儀が執り行われていた。
祭壇に一糸まとわぬ姿で仰向けになり、暗黒神の降臨を待つ。
祭壇の部屋には巫女達が祈りを捧げ、暗黒神に呼びかける。
やがて祭壇の後方の闇から暗黒神デススデスが降臨した。
白金色の髪に金の瞳、頭にはちっさい角が生えた美しい女性だ。
「汝に黒のコアを授ける……」
暗黒神はミカエルの心臓部分に手を当て黒い霧でミカエルを包む。
「ホイホイホーイ」
「……ぷっくく」
「(ミカエル!ちょっと笑わないでよ!)」
「(笑わせてるとしか思えないわよ!)」
「(ボクは真面目にやってるつもりだよ……)」
「(いいから早くしてアチナ!)」
「(ここでアチナって言わないでくれ!)」
「(はいはい)」
なんとも締まらない2人だった。
やがて、ミカエルの心臓が黒のコアに変換されると
ミカエルの身体に変化が訪れた。
「うっはぁっはぁ……」
頭髪は右半分が銀髪に瞳は左眼が金眼になっていた。
変わったのは見た目だけでなく。
Lv63
体力11000
力 13050
敏速11000
魔力17000
大幅に身体強化された。
ミカエル・デストラーデは正真正銘の魔王になった。
そして勇者リュウタロウをぶっ飛ばす準備が出来た。
◇帝国帝都郊外
リュウタロウの屋敷地下室に繋がれた少女は虚ろな目を開け、ただ一点を見つめていた。
「エイルさん……」
スピカは毎日エイルの身体を拭きにやって来る。
身の回りの世話は全てスピカが行っていた。
「もうすぐ皆さんの元へ帰れますからね」
スピカの声はエイルには届いていないのか、エイルはなんの反応も示さない。
スピカはリュウタロウに懇願し、ようやく解放の許可を得たのだが、既にリュウタロウはエイルに飽きただけだった。
リュウタロウはありとあらゆる精神支配や、拷問を施したが、エイルは堕ちる事が無かった。
だが、その代償は大きく。自我を失ってしまっていた。
「とにかく今は一刻も早くこの場を去りましょう」
錠を外し、エイルを抱き抱え、地下室を後にした。
馬車の荷台にエイルを寝かせて、出発の準備が整った所でリズが見送りに来た、
「スピカ様!これ、エイルちゃんに着せてあげてにゃ」
リズが紺色のコートをスピカに渡した。季節は春だが、まだまだ朝晩は冷え込む。
「ありがとうリズ。リュウタロウ様の事お願いね」
「わかってるにゃん。でも最近のリュウ様はちょっと嫌いにゃん!」
「ふふふ、私もよ」
リュウタロウは既に見限られていた。
まぁ当然だろう。
「じゃあリズも元気でね!」
スピカは馬車でファミリアに向かって行った。
帝国領内の街道を南へ進むと国境の街ポプランがある。
帝都からは馬車で2日ほどかかる道のりだ。
帝都を出発して一日が過ぎた頃。
スピカとエイルを乗せた馬車は盗賊に囲まれていた。
「あらあら、どうやら盗賊さん達に囲まれてしまいましたね」
馬車の手綱を握っていたスピカは周囲を確認すると30名程の盗賊らしき者達に囲まれていたが、落ち着いていた。
盗賊にしては、装備品が重装だ。隊章は無いが、傭兵団あるいは逃亡兵の類いだろう。
「おい!そこの女!金目の物と食料全部出しな!」
群れのリーダーの様な男が剣を向け近づく。
「そう言われましても……あまり蓄えは無いので……」
実際、女2人分の食料など、たかが知れている。
野党30人の腹を満たす食料は無いのだ。
「困りましたね。どうしましょう?」
「随分余裕だな!お前死にたいのか?まぁ、もっとも、全員に回された後になるがな!ヒッヒッヒ!」
「隊長!……じゃなかった、頭!馬車の中にも上玉の女が居ます!」
下っ端のような男が荷台のエイルを抱えて、頭と言われた男の近くに、エイルを降ろした。
「ほう……。なんだお前ら?美人姉妹か?」
「あら!美人姉妹だなんて、お上手ですね!」
「お前、大丈夫か?いつまでも俺たちが優しいと思うなよ!」
リーダーらしき男はエイルの衣服を破り、その控えめな胸をあらわにした。
「……この女、物狂いか?全く反応しねぇな」
エイルはただ一点を見つめているだけで、全く動じない。心はここに在らずだ。
「……その子がなんでそうなってしまったと思いますか?6ヶ月もの間、毎日の精神的攻撃と虐待に陵辱を受けてたんですよ……昨日やっと解放されたんです。それでも貴方達はこの子を傷つける事が出来るのでしょうか?もう充分に傷ついたんです!そっとしておいてくれませんでしょうか?」
数人の男達は、その話に同情を示す顔をしたが。
「うるせぇ!そんな事は俺たちには関係ねぇ!」
「……そうですか。なら私が皆さんのお相手致しましょう」
「はははっ!素直じゃねぇか!使い回した後は娼館にでも売ってやるよ!」
リーダーらしき男はカチャカチャとベルトを緩め始めた……
「ふふ……お相手するのは、そっちの事ではないですよ?……こっちの方です。……換装!」
スピカが空間収納から2本の剣を出した。
剣はファルシオンだが、2本とも神話級の代物だ。
スピカは2本のファルシオンを構える。
「ふっ……俺たち全員に勝てるつもりか?」
「では行きますねー」
そう言った瞬間、リーダーを含めた、数十人の男たちは頭を全て切り取られた。
「ヒィィィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!」
馬車の中に居た生き残りは、その光景を見て驚愕し、逃げた。とにかく逃げた。
「逃がしませんよー」
だが、スピカは銀色の翼で羽ばたくと、逃げた男の正面に舞い降りた。
「全員、お相手するって言ったじゃないですかー」
「ヒィ!た、助けて!」
男は跪き、土下座して懇願する。
「むー、困りましたねぇ、一応この姿を見た人は全員殺さないと困るのですが……わかりました。絶対に秘密にして下さいね!」
「わ、わかった!約束する、いや、約束します!」
男は見逃してもらい、走って逃げた。
スピカはお願いされると断れない性格だった。
「甘いですね、全く」
そして、また馬車に乗り込み走りだした。
道中はかなり退屈だ。一応二人旅だが、エイルは無反応な為、スピカは独り言の様にエイルに話しをする。
「いっそこのまま、辺境の村で2人で暮らしましょうか?」
「……」
エイルはやはり、反応がない。だが、スピカは話しをつづける。
「辺境の村で、教会を開くかなー、一応聖女ですから、きっと喜ばれるかも知れませんね」
「でも、それだけだと食べて行けないので、何かしないとですよね?あ、私、昔牧場で働いてたんですよ!乳絞りは得意なんで牧場もありですかねー」
スピカは更につづける。
「小さな食堂とかもありかなぁ、一応料理は出来ますからねー、ミカエルさん程ではないですが……」
「エイルさんは給仕をして、店の看板娘ですね!多分繁盛しますよ。エイルさん目当てのお客さんで毎日賑わって……」
「ミカ……エル……」
エイルが反応を示した。
たまにだが、こうして話しかけていると知っている単語に反応する事がある。
だから今日もスピカは話しかけるのだ。
数日後
ようやくスピカとエイルはファミリア王都に到着した。
到着した足でそのまま王宮へと馬車を走らせる。
エイルを乗せた馬車は、最近完成したばかりの真新しい正門に着いた。
半年前にミカエルの八つ当たりで破壊された正門は頑丈な造りになった。
建築に携わった職人曰く、これでベヒーモスが体当たりしても壊れないそうだ。
「そこの馬車ァ、止まれ!許可なく、この門の先は行けません!許可証はありますか?」
馬車は当然だが、門兵に停止させられた。
「私はスピカ・アストライア、至急ユリウス国王陛下、もしくは騎士団のセリス様にお取次ぎ願います!火急の要件にございます!」
「スピカ……聖女スピカ様でらっしゃいますね?かしこまりました!少しお待ち下さい!」
◇王宮作戦会議室
会議室ではユリウス国王を始め、参謀長、騎士団長、陸兵団長等、が集結し帝国のデストロイ要塞攻略作戦の失敗を検証していた。
幾度となく無謀とも言える大作戦を繰り広げは失敗に終わる帝国の作戦。
帝国が無能なのか、デストロイ要塞が強固過ぎるのか、その原因を観戦した武官を交え検証していた。
「で、現場を見たフレオニールはどう思った?」
ユリウスは観戦武官に任命したフレオニールに意見を求めた。
「はっ。私が見た中では、第3回目の攻略作戦が効果的ではありました」
「……ほう、確か280ミリ榴弾砲だったね」
「ええ、あれの破壊力は抜群。ですが、命中率が悪く、失敗に終わったのですが、デストロイ要塞は対空防御が薄いと思いました」
「なるほど……上からの攻撃は想定されてない……か」
「しかしながら、榴弾砲を用いて攻略するとなると、観測役が必要となります。そこをどうにか出来れば……と言うのが私の感想でございます」
「うむ、素晴らしい!だが、帝国がそこに気付いてないのが阿呆らしい作戦の連続だな」
コンコン!
「ユリウス陛下へ火急の要件でございます!」
「なんだ?入れ!」
「失礼します!正門から伝令!エイル様の救出に成功!現在スピカ様が馬車にて正門に待機中との事です!」
その報を聞いた会議室にいた面々は一斉に立ち上がった。
「なんだって?本当か?至急、馬車を通せ!私も正門に向かう!それとフレオニールはセリスを呼べ!」
ブックマーク、評価ありがとうございます!
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新作「君を追って異世界に来たけど、魔王の娘として生まれました。」も宜しくお願いします!
ミカエルのお話になります。不定期連載ですね。
本編メインで行きますので(・ω・`*)ネー




