8話 スピカの依頼
「それで、どうしてエイルさんが、聖都にいるんですか?」
「えっと……あの、ですね……秘密です♡」
「可愛い顔して誤魔化してもダメですよ!素直に喋らないなら、色々バラしますよ」
色々ってなんだ?あんた一体俺の何を知っているって言うんだ?北の大陸での事か?
「まぁ、大方想像はついているんですけどね。ツバキ様の件ですよね?」
「……はい。とりあえず仕返しでもしようかと思いまして……成り行きで学園に……」
「そうですか……来るだろうなとは思ってましたが、まさか学園に居るとは予想外でした。てっきり怒りに任せて空から突っ込んで来て防御結界で黒焦げ展開になると思ってましたし」
来る事自体は予想されていたらしい。
しかし、結界で黒焦げとか、電撃殺虫機みたいなシステムなんだな。突っ込まなくて良かった。
「スピカさん、内緒にしてて貰えたりしませんか?ね?俺とスピカさんの仲じゃないですか、はは……」
敵だけど優しいスピカさんなら分かってくれそうな気がするのです。
「……では、内緒にしてる代わりに、こちらのお願いも聞いて貰えますかね?」
「お願い?それは……」
「実は、この学園と騎士学校の訓練生が度々失踪する事件が、相次いでるんです。それも聖都外での実習中に失踪してしまうらしくて、とある人物から頼まれた訳なんですよ。それで教員として調査に来てるのですが……都合良くエイルさんが居るじゃないですか?と、言う事で調査の協力をお願いいたします」
「え?それ絶対めんどくさい奴じゃないですか!なんで私なんですか?」
「だって都合よく居るエイルさんが悪いんですよ。生徒であれば攫われる側になれますし♡」
「とにかくミカさんに相談してから考えます……」
「あらー、ミカエルさんも来てるんですか?随分ヒマな魔王さんなんですねー」
あっ、バレた。うっかりミカさんの名前まで出してしまいました。
「くっ!」
「ところで、エイルさん達はどうやってツバキ様の仇をとるつもりだったんですか?」
「うーん……辻斬り?とか」
実はあまり考えてなかったのだ。とりあえず教会本部とかに侵入して、暴れたり、光の宝玉を盗んだりする程度でしか考えてない。
「あまりお勧めできませんね」
ちょっと引き気味のスピカさんだった。
◇
セイクリッド邸のエイルの部屋
「それでスピカにまんまと見つかって、言い様に使われるわけね」
ミカさんに呆れ顔されております。
おっしゃる通りなので言い返せない。
「でも、ひょっとしたら教会に近づけるチャンスかもしれないし」
「……そうね。そうだと良いけど。それと、シュリが入手した教会本部の見取り図だけど……流石に重要な施設は、一部の人間しか知らないらしいわ」
「そうなると、やっぱり空から侵入するしかないかな?ビューンって」
「それだと、侵入した先に敵がたくさん居たりしたら困るわ。中の情報が無いと……あるいは陽動して注意を引き付けないと……」
「じゃぁ辻斬りだな!」
◇
夜の聖都に狐の面を着けた少女が、騎士ばかりを襲うと噂が流れ始める。
死人は出ていないが、既に聖騎士、神殿騎士に負傷者が数十人。無視出来ない状況である。
騎士団ではこの対象を『狐の亡霊』名ずけて、警戒レベルを引き上げた。
先のツバキ征伐に参加していた騎士は、狐の亡霊に恐怖した。死んだはずの剣聖ツバキが、聖騎士と神殿騎士に復讐しに来たのだと、もっぱらの噂だ。
因みに剣聖ツバキが生きている事はまだ、騎士団は知らない故に恐怖が蔓延して行った。
「どうして殺さないの?甘過ぎるわよエイル。生かしておく価値なんて無いでしょうに」
ミカさんは本当に容赦ないな。
「だってぶっ殺す必要はないからね。椿ちゃんを襲った事を悔いるには生きてないと。それに……出来れば人は殺したくない」
「でも、リュウタロウは殺すでしょ?」
「ああ、もちろんだよ」
◇
女学生として学園に通い始めてから五日程過ぎたある日、ついに実習訓練のメンバーに選ばれた。
訓練は聖都外にてモンスターの討伐訓練と、野営訓練になっていた。一泊二日の遠足みたいなもんだ。
「エイル。気をつけてね、あと夜は冷えるから暖かくして寝るのよ。それと……」
「分かってるってば!あんま子供扱いしないでよ!」
俺はそんなに頼りないのかな?
たかが一泊の野営なのに、ミカさんの心配性め!
訓練生は俺を含めて三人の小規模なものだが、引率に神殿騎士の人が一人同行するので安心だ。訓練生は自己紹介されたが忘れた。
「神殿騎士のイセリナと言う、私は基本的に指示はするが、実戦は自分達で行う様に心がけておくように」
「「「はい!」」」
イセリナさんは赤毛の長い髪した女騎士だ。
騎士らしく少し堅い口調だ。なんだか、初めて会った時のセリスを思い出す。
なんだろう。少し不思議な匂いがする。
香水か何かだろうか?まぁ女性だし、するよね。俺はしないけど。
聖都の周辺の魔物はアイアンランク冒険者でも倒せるレベルのコボルドや一角ウサギ等ばかりで、非常に難易度が低い物だった。
他の訓練生は初の魔物退治なのか、緊張しながらも何とか倒すと言った様子だったので、俺もそれに習い超か弱い風に討伐をこなしていた。
イセリナさんは少し離れた場所から訓練生の立ち振る舞い等を見てメモを取り、評価をしているみたいだ。
その時だった。
訓練生の一人がつまずいてしまった所に、運悪くコボルドが襲いかかって来ていた。
「危ないっ!」
咄嗟の事であり、ついつい本気で身体が反応してしまい、訓練生を助けるために飛び出してコボルドを一閃。
コボルドは訓練生の目前で胴から真っ二つになり倒れた。
「あ……ありがとう、エイルさん」
訓練生は安堵しながらも、ちょっと引き気味な作り笑いで俺を見ている。……しまった。か弱い俺サヨナラ。
その後は夕暮れまで討伐を繰り返して、野営地にて魔物の解体を習いながら、各自天幕を張り就寝となった。
見張りは二時間おきに交代だ。もっと寝かせて欲しいが仕方ないのだ。銀の翼の時の野営は、ティファの結界のお陰で、見張り要らずだったから余計に不憫さを感じる。ティファが恋しくなったりした。ミカさんには秘密。
特に何事も無く、無事に訓練は終わり、聖都に戻った。
スピカさんの話しによると、毎度訓練で行方不明になるわけでは無いので、今回はハズレと言う事かな?
数日後、再び訓練の呼び出しがかかった。
前回の訓練評価が高かったらしく、次の段階へと進んだようで、今回は単独討伐訓練だそうだ。一応、引率のイセリナさんが同行する事になっている。
うん。恐らく今回みたいだね。
と言うわけで、こちらも準備しておく事にした。
◇
今回の訓練場所は聖都から北に行った山岳地帯だ。
北部は結構凶暴な魔物が多く、人もあまり住まない。
熊っぽいヤツとかイノシシっぽい魔物ばかりなのだ。
椿ちゃんとの山生活で鍛えた俺にこの程度の魔物は食材でしかないが、今はか弱い振りをしないと怪しまれるので、適当にやった。
「きゃあああっ!やだ怖ーい!来ないでぇぇぇぇ!」
怖がりつつも、運良く勝つくらいの演技だ。
時おりイセリナさんが、首を傾げるが、多分大丈夫だと思いたい。
そんなアカデミー賞クラスの演技で数体の魔物を討伐して、山中で野営。
見張りはイセリナさんが先にする事になり、天幕で就寝したのだが……。
寝ていると、天幕内に異様な匂いが充満し始める。この匂いは……恐らく毒だ。毒霧によって身体を麻痺させるつもりらしい。
因みに毒耐性あるから効かないのだけど、せっかくなんで寝たフリで行く事にしたのだ。
イセリナさんの不思議な匂いはこれだったんだね。
などと考えていたら、普通に眠くて眠ってしまった。
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「ふえっ?」
目が覚めたら、知らない場所でした。




