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小学生の頃、憧れてた男の子がいた。
わたしより4つも年上で、『神出』という苗字しか覚えてないけど。
『カンデ』という響きがなんとなく大人っぽくて…本人も物静かで、休み時間には図書室にいるような、落ち着いた人だった。
ふと、昼休みの図書室でそんな事を思い出す。
カンデ君を初めて見たのが、やはり図書室だったからだろうか…。
何気なく今読んでいるのは、よくあるパターンの恋愛小説。
著者名を見ると『上原美雪』とある。最近有名になってきたけれど、私生活は謎と言われている作家。
話としてはベタな三角関係もので、ちょうど主人公が悩んでいる所で予鈴が鳴った。
今日はユースケは部活らしい。サッカー部に入っている。
なんか、ちょっと似合わない気もするけど。
一人で電車に乗っていると、女の子がぶつかってきた。
「ああっ、すみません!」
「いえ…」
お互いに顔を見て驚いた。
わたしはロングウェーブでセーラー服、相手はショートボブにブレザーという違いはあるけれど…
まったく同じ顔が、目の前にあった。
「えええ、アタシ?!」
彼女の方が叫んだ。
その声の大きさに驚きながら、わたしもつい
「双子じゃないわよね?」
と口走る。
「ない、ない。聞いた事な〜い!」
「わたしも、聞いた事ないわ」
「なんでぇ?!すっごい似てる〜!オモシロイよ〜」
「面白い…?」
ちょっと耳を疑ったが、彼女は目をキラキラさせて言った。
「だって、双子でもないのに、こんな似てる人とバッタリ会ったんだよ?すごくない?」
「ハッキリ言って、気持ち悪いわ…」
「えぇ〜?なんかゲンジツテキだねぇ」
彼女はガックリ肩を落とした。
(あらら、ちょっといじめすぎたかしら…)
わたしのそっくりさんは、わたしと正反対の素直で明るい性格のようだった。
一度落ち込んで見せていたけれど、すぐに顔をあげて
「アタシは悪いけど、運命感じちゃったしさぁ…メアド交換しようよ!」
「え…?」
「ほらほら、ケータイ出して!」
と、なかば強引にわたしの携帯を奪って、自分の番号を登録した。
まさか、と思いながら、相手の登録名を確認してみる。そこには…
『神原愛』とあった。
(同じ名前?!)
「あなた、あいっていうの…?」
「そうだよ。アナタは?」
「わたしも…」
と言いかけて、彼女にメールを送った。
「わたしも『神原亜依』なの」
彼女が息を飲むのが分かった。
「同じ名前…」
彼女も同じ反応をした。
「字がちょっと違うけど」
「なんか、不思議だね」
「ええ」
「亜依ちゃんて、おっとな〜ってカンジなのに、アタシ子供っぽいし…」
「素直って事じゃないの」
「ううん、ホント子供なんだ。いっつも亜依ちゃんみたいな人に憧れてさぁ」
ため息をつきながら彼女が言うのへ、わたしも
「わたしは愛ちゃんみたいに、もっと素直になれれば良いんだけど…なかなかね」
「うまくいかないねぇ」
「そうね、同じ顔なのにね」
わたしたちは顔を見合わせて笑った。
「ね、時々会おうよ。せっかく知り合ったんだしさぁ」
「都合が合えばね」
「えぇ〜。そこは『いつでも呼んで!』て言ってよ〜」
「悪いけどわたし、忙しいのよね」
「ホラ、やっぱクールだぁ」
その時、愛ちゃんの携帯が鳴った。
「ああ!ミユキちゃんだ、忘れてた!」
「あ、引き止めてごめんなさい」
「こっちこそゴメン!またメールするね!」
そう言って彼女はバタバタと、嵐のように去って行った。
「ただいま」
帰って、誰も居ない家なのに、ついついそう言ってしまう。
わたしの両親は揃って、一人娘を残して海外へ行っている。
誰も居ないと、つい考え事ばかりしてしまう。
最近は決まって、やはりユースケの事。
優しいし、癒し系だし、顔だって童顔だけど悪くない。身長は同じくらいだけど、それで選んだワケでもないし。
(何が不満なんだろう、わたし…)
今日出会ったあの子なら、こんなに悩んだりしないのだろうか?
何となくそんな事を思った。