襲撃
赤瀬新は人の居なくなった路地を走っていた。
その日は突然の大雨だった。衣服が身体に張り付き、不快さだけが増していく。
それでも彼は傘も差さずひたすらに走り抜ける。
ただでさえ人通りの少ない路地にはもう誰も居ない。
彼と、『その人物』以外は。
「何で、何でオレばっかり追いかけてくるんだ! 信吾、颯、早く来てくれ……!」
その人物は真っ黒なコートに身を包み、そのフードを眼深に被っている。故に顔は見えない。
ただ、それでも伝わってくるものはある。
明確な殺意。
新は携帯電話を握り締めたまま闇雲に走る。
助けは呼んだ。すぐに警察を引き連れて駆けつけてくれるはずだ。それまでに何とか逃げおおせれば。
上がる息。もたつき始める両足。
そんな彼を、口を開けて待ち受けていたのは一つの大きな障壁――否、そこには壁どころか足場すら存在していなかった。
「しまった、行き止まり……っ」
彼が住むのは港町。行き着いた先は防波堤。
闇雲に走ったことが仇となり、目前に足の踏み場は無かった。
「まさしく背水の陣……」
跳び込み、泳いで逃げようにもこの大雨で海面は荒波立っている。すぐに流され溺れてしまうことは火を見るよりも明らかだ。
そもそも今の新に着衣で泳げるほどの体力は残っていない。
すぐ背後に迫る黒コート。
「――こうなったら一か八か!」
振り返り、拳を構えた。
刹那。彼の後方、海側で雷鳴が轟く。
その結果、瞬間だけそのフードの下、凶器片手に迫り来る黒コートの素顔を新の二つの瞳は捉えた。
それは幸か不幸か。
一瞬反応が遅れ、構えた拳が黒コートに身を包んだその身体に撃ち込まれることは無かったのだから不幸と言えたかもしれない。
つまり、赤瀬新はこの日、
「……!!」
『通り魔』の振り上げた凶器によって、
「お前は――!!」