雪が降ったら
雨の中を歩きたかった。
傘を差して歩きたかった。
もう少し若ければ、いっそ幼ければ、雨合羽を着込みたかった。
雨の粒が透明なビニールの向こうではじける音が聞きたかった。
雨に濡れた草木の傍を歩きたかった。
雪が降ったら、もう少ししたら、全然違う景色が見れる気がして。
待ち侘びている窓の外に、何時かの憧憬を重ねている。
幸せをそれと知覚できなかった日に、心の狭さに気づいた時に。
何一つ許せなくなっていることに気づいた時に。
そして、それでも良いと決めつけてしまった時に。
雨の中を歩きたくなった。
雨で濡らした身体で空を見上げたくなった。
いつか、一昔にも同じようなことを考えて、そして、もういなくなった友達にそんなことを話した気がする。
車の気配などない国道の真ん中で横たわって。
この世界に誰一人いないのだと、そんな風に思い込みたかった。