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大阪城はダレがつくった?

『大阪城はダレがつくった?』


 どうしても元禄赤穂事件の『遺恨』について言及しなければならない事情から、正直勇み足を踏んでいる。

 私が歴史について常日頃問い、悩む事項の一つが、これだ。もっとも私的には結論づけしているのだけど、それを納得してもらうには力不足なのだ。


 それがこの問題。

「大阪城はダレがつくったのか?」


 敢えて、ダレ。つくったと仮名使用をしている。


「当たり前のことを言うな。大阪城は豊臣秀吉がつくった」

 あるいは、

「二代目は三河人」、「三代目は大阪府」


 これが〝正解〟扱いなのだろう。


 あ、一応私が問いたい事項は歴史の根幹に関わるので、大阪城が嫌いならば東北仙台の青葉城、播磨の姫路城など、地域の城として知られているならば自己置換しても大丈夫、ご自由に。

 また、どんな答えでも不正解にする意地の悪い問題ではないので、少し冷静にご考察頂ければ幸いだ。


 ただ、悪口ではないが、栃木県の佐野小中城などは除外して欲しい。あの城は遺跡が失われている上に跡地と類推される場所も〝一人でも構築が不可能ではない〟小城なので。



 さて、大阪城である。


 大阪城をつくったのは「豊臣秀吉」。あるいは「大工さん」。


 頭のネジがどうにか狂っている学者連たちは、戦後教育で若い教員たちが、「大阪城は大工がつくった」と言わせていると憤慨した著書を数冊、私は読んでいる。


 念の為記憶を辿ったが私の中学時代の社会科の教員は、党員ではないかと疑うほど熱心な共産党シンパ、もちろん戦後生まれだったが、「大阪城は大工~」発言はしていない。

 有名な先生方は、どこから都市伝説を仕入れて勝手に著述して印税を懐に入れているのだろうか。


 但し、その教員は、

「しばしば権力者からの強制的な命令で大事業は遂行されていた」と解説した覚えがある。



 閑話休題。



 大阪城は豊臣秀吉。その前の大工事では安土城が織田信長。


 通説だ。痛説でもある。


 秀吉、信長と答えなければ間違っていると憤慨された大先生様は、ではこの戦国双璧が、どのくらいの巨石を運搬して何トンの土砂を掘ってそれを埋めるなり堆積させたのか、全長で何メートルの土壁を盛ったり塗ったのかお答え頂きたい。


 これだけの大工事の材木を伐採。そして運搬して加工、煌びやかな瓦を焼いたり、屏風絵など大中小の細工も忘れてはならない。

 巨石の運搬や土盛りだけではない。


 陶芸などの経験者ならご理解が速いだろうけど、室内の色々な細工、そして瓦などの焼き物は、簡単そうで結構難しい。安土時代は電気窯ではなく薪を組み上げるなどして瓦を製造するのだが、ある異説で技術者集団に紛れていた説がある秀吉以外は瓦など焼けないだろう。なにしろ信長は、津島の財力を後ろ盾にしている「お坊ちゃん」。三河人は自説だと今川に奴隷扱いをされていたのだから。


 瓦だけではない。一体全体、信長や秀吉やその他が自力で切り倒した材木が何本だか、確実な資料を根拠に、お答え頂きたい。


 尋ねた私だが、信長が工事現場を頻繁に顔出しをしたとか──現場サイドでは迷惑な訪問だったはずだが──秀吉が運搬中の巨石に載って踊った記憶しかない。


 この行動は工事の手抜き禁止効果と視察督促の効果はないわけではないが、それだけで直接の工事では邪魔をしているのだ。


 結論として信長や秀吉の二人は、現代風で言えば発注者が正しい評価なのだ。たまに現場に顔を出して指図や注文をするのが関の山。そんなところだろう。


 つまり築城場所の比定、決定や原案を含めた注文は確かに通説通りで間違いない。

 でも、縄張り等の設計責任者は大阪城では黒田官兵衛孝高。安土城は丹羽長秀だし、この二人だって協力者がいた可能性は大きい。他の要塞も以下同文扱いをさせて頂く。


 疑う余地がないほど、「大阪城」は大工がつくったのだ。

 ただ、大工だけでは、平屋の一軒家くらいしか建築できないし、それも危なっかしい。土地の起伏や地盤を確かめて上モノを設計する技師が必要であり、信長や秀吉は技術者や技術官僚テクノクラートを招集した発注者と評価するのが正しい。

 もしも技術官僚と発注者とのコミュニケーションが潤滑で良好ならば、

「大阪城は秀吉と大工たちが作った」。

 以下、安土城も同様に表現できるだろう。


 だが、「殺してしまえホトトギス」の信長や、忠誠を誓った相手を殺す三河人に、そんな良好で対等な会話を求めるのは、どうだろうか。


 私は、相当無茶難題で困らせない限り、発注者の要望を大工の苦労で補完したと推測している。


 その大工や作業員も、

「それも、各地から人足や農民を集めた」


 具体的な証明物品がないのだが、この表現も私は疑っている。


 なにしろ大事業だ。木材や土台の巨石は適材があれば持ち出しただろうけど、人間。この時代だと人口の八・九割を占める農民を工事に動員する理屈が私には理解できない。しかも現代語で表現すれば摩天楼のような安土や大阪の城を支える岩石は、そこらに転がっている石を使うのは危険過ぎる。

 巨石を提供する地域は、それが奉仕労働と同等に扱われたかプロを使用した運搬と考えるべきだろう。


 第一未熟な労働者や嫌々動員された人間の工事など、私は信用したくない。もちろん、この時代は手抜きは自分の命ばかりではなく、家族一族、近隣の住民も連座する狂気な行動だ。


 だが、連座で凶悪な事件が防げたわけではないことは歴史が証明している。連座が適用された前時代も、廃止された今日でも凶悪事件は耐えず勃発しているのだから。


 封建時代の領主は皆、悪道非道だと解釈したい庶民の被害者意識もわからないではないのだが、「鶏の腸を咲いたら、もう卵は手に入らない」のだと理解もされたい。


 エジプトのピラミッドなども同様で、全時代のハリウッド映画ではないが、一から十まで鞭を打った奴隷的な労働で遺跡が建設されたと吠える被害者史観は、そろそろ卒業することをお勧めしたい。

 被害者史観でなければ、前政権は全て悪。現政権万歳史観だろうか。


 尚、ピラミッドは相当に自由労働であったことが近年発掘された粘土板などの資料で判明している。驚くなかれ、二日酔いや親族の葬儀《正確には亡兄をミイラにする作業》とかで欠勤届けが受理されているのだ。二言目には鞭打ちな環境でないことだけは確実である。


 冷静に考えれば技術的に挑発徴用。つまり命令でかき集められた烏合の衆の手作りでは、五層の大天守閣どころか一般家屋でも危なっかしくて住めやしないだろうから。


 つまり、安土城で各地から労働者を動員云々は工事費用の負担金の供出だと解釈するのが自然だろう。


 その金銭で、発注者は専門職を招聘するのだ。建設でも運搬でも。

 プロならば農繁期とかの田植えが放置されて、領地の田畑が荒れる心配も不要だ。いくら堅牢かつ豪奢なハコモノをつくっても、領地が荒れてしまえば、それは基礎の段階から間違えた障害物でしかない。

 だが、プロの職人に金銭を支払えば仕事も確か。納期も計算できるし、収入減にもならない。


「日本の歴史」などの児童用の教育漫画で、年寄りや坊主が土コネを強要させれれている場面を眺めてとても違和感を覚えた記憶がある。

 その当時は、こうした反論する知識や経験がなかったが、自分で工作や工事などを体験すれば、徴用で賄えるのは土嚢運びや土を踏み固めるレベル。

 それだって当時としては超高層ビルである安土城や大阪城の土台としては素人任せにするのはおっかない。

 労働させられる立場も考えるべきだが、それを使う立場も最高するべきだと信じている。



 餅は餅屋。

 建設は大工。

 運搬はその専門職。


 既に徒弟制度でも組織化した大工たちは、総責任者である長秀や官兵衛の指揮で動く大名家に金で雇われ動いた。そう考えた方が流れとしても不自然ではないと結論したい。実際、三河人の関東移封の後。つまり太田道潅の第一期ではなく、第二期の江戸城築城の折は、大名が動員されていることが明記されている。


 現場サイドは下働きをチェックする大工。大工を監督する棟梁。そして大阪城レベルだと、中棟梁や大棟梁が任命されていても不自然ではない。もっともこれだけの天下の大事業だと、大名家で担当受け持ち区が違うので、大棟梁は存在しなかった可能性もある。


 だが、最終的に大名家や黒田官兵衛や丹羽長秀がチェックをしたはずなのだが、細かい点検は中棟梁の、今日的な表現だと報告書や安全証明書の署名捺印で了解していたと私は推定している。

 官兵衛や長秀の二名だって土をコネて壁を築いた経験は本職の大工に比べればほどんど積んでいないはずなのだから。



 尚、余談だが熊本など城と堀のある各地にカッパ伝説がある。


 この空想モンスターは、実は江戸初期にブームとなり、やがて衰退した城郭の労働者がモデルだと言われている。

 築城ブームが終息して日雇いの労働者たちは当たり前にやがて失職してそのまま現場付近に住み着いたと言うのが一般的な解釈である。



「大阪の城? それなら、おいらがつくったのさ」



 耳をすませば川底からそんな声が聞こえているのかもしれない。



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