アリバイと証言
佐久間たちは、山手線で上野駅に向かう車内にいた。
「まずは、新田俊介のアリバイを確認してみよう」
〜 四十分後 〜
「ええ。確かにこの人でした。彼女とご一緒でしたよ」
七月六日、JR常磐線勝田行き、二十時四十一発に乗務していた駅員が新田俊介の写真を見ながら証言した。
「何か話されましたか?」
「・・・確か、土浦駅に最短で着くにはこの電車で良いのか質問されたので、二十一時発のJR常磐線特急ひたち二十九号のことを話しました。でも、聞かれた時には既に上野駅を出た後でしたから、このまま乗車された方が良い旨をお話して、納得されてました」
「他には何か覚えてませんか?」
「そうですね。一番後方車両に乗っていましたから、空き座席を探す為に仲良く先頭車に向かって歩かれたこととどこかホテルか何かに勝田到着時刻を連絡するとおっしゃってましたね」
「そうですか。ご協力ありがとうございました」
「奴の証言通りですね。しかし、逆に引っかかりますな」
「同感だ。何故当たり前のように、勝田行きの到着時刻を確認したのか?あらかじめ勝田に行くのも宿を予約するのも決まっていたなら、上野駅から勝田駅までの所要時間は把握しているはず。アリバイを作る為に、あえて乗務員に話しかけ、印象付けさせる感が否めない。何かを企んだはずだ」
「警部、他のアリバイも確認を」
「そうだね。おそらく、新田俊介の思惑通りアリバイは成立するだろが、確認してみよう。新田俊介の彼女、川合朋子にも裏を取ってみよう。グルかもしれないが」
「今日、日曜日だから休みですかね?」
「看護師と言っていたな。我々と同じ不規則な商売だから、わからないな」
山川は、新田俊介に聞いていた携帯に連絡し、会えることになった。
「警部、今日は日勤なので、夕方会えるそうです」
「では、彼女の病院近くで会いたいと話を。駐車場でも喫茶店でも、どこでも伺う旨を伝えて欲しい」
「わかりました。もしもし、・・・。そうです。はい。では、後ほど」
「助かりました。病院近くに喫茶店があるそうです」
「では、コーヒーを飲みながら、彼女を待つことにしよう」
〜 二時間後 〜
十八時、待ち合わせの喫茶店に川合朋子はやって来た。
「あの、刑事さん・・・ですか?」
「はい。川合朋子さんですか?」
「はい。あのお話とは?」
「新田俊介さんから、何か連絡はありませんでしたか?」
「いえ。特に何も」
これには、佐久間も山川も意表を突かれ思わず、聞き直した。
「実は、先日新田俊介さんの父親が亡くなりました。事件とは関係ないと思いますが関係者には一通りアリバイを伺っておりまして。この話もお聞きになっていませんか?」
川合朋子は、首を縦に振った。
(どういう事だ?)
佐久間は、腑に落ちない感があったが川合朋子にさらに事情を説明した。
新田俊介と中々、連絡がつかなかったことや新田俊介を調べていることなど。
勿論、誤解を与える言い方は避けた。
「俊介とは、七月六日に旅行することは一月程前から計画していました。二人の記念日にどこに行こうか話をした時に、私が勝田に行きたいと頼んだんです。当日はお昼ぐらいから出掛けるはずが、お互い時間が噛み合わず、二十時半か四十分か忘れましたがギリギリで飛び乗りました」
「俊介さんとはずっと一緒に旅行を?」
「はい。基本的には」
「基本的には?というと?」
「勝田駅に一緒に向かいました。でも座席が全然空いていなくて。お互いに空いている席に離れて座ってでも良いと考えて行動を勝田駅までは別々にしたんです。仕事で疲れていて、座りたかった私は合理的な彼の申し出を受け入れて」
「なるほど。おかしくはない話です。俊介さんとは、最終的にどこで合流されたのですか?」
「土浦駅で停車している時に。やっと人も少なくなったので、彼が私を見つけ隣の席に来ました」
「それ以外で、俊介さんと別行動は?」
「ありません。おトイレ以外は、ずっと一緒でした。ラブラブなんです」
「・・・そうですか。大変参考になりました。俊介さんにも、よろしくお伝えください」
川合朋子を見送ったあと、佐久間はコーヒーをお代わりした。
「山さん、少しばかりカラクリが見えて来たようだ」
「新田俊介は、川合朋子をエサにしたのでしょうか?」
「あの子の話振りから、利用されただけだろう。おそらく、新田俊介は上野駅を出発して土浦駅に着くまでの間に、途中下車して何らかの方法で、父親と合流し殺害を行なったはずだ。当日の近い時間に、親子が偶然にも別々の電車で同じ方面に向かい、片方が殺害されるなんて、あり得ないからね」
「新田俊介はどんなトリックを使ったんでしょうか?」
「まずは、新田俊介が乗車した同じ条件で試してみようじゃないか?それと、特急も乗車して、それぞれの時間を確認して比較してみよう。それから・・・」