喫茶店での攻防
佐久間たちは、喫茶店でコーヒーを注文して新田俊介を待つ事にした。
二人は注文したブルーマウンテンを飲みながら事前に話し合った。
「警部、どう思われます?」
「キナ臭い匂いがするね。父が殺されたと聞いた時も予期したかのような感じがした。犯罪を起こした確信犯的な予感がするんだ」
「同感です。叩けば埃が出るとの言葉も気になりますな。社員の話だと、社長の新田敏朗よりも会社運営に詳しいとか。何かありますね」
「ああ。まずは彼の出方を見てみよう」
九十分後、約束通り新田俊介は現れた。
「お待たせして、すみません」
「いえ、時間ぴったりですね」
「時間にルーズなのは、許せない性分なもので。父親とは正反対と言われます」
「警視庁捜査一課の佐久間です。こちらは同僚の山川刑事です」
「山川です」
「新田俊介です」
さて、どう話をしようかと佐久間はコーヒーをお代わりした時、新田俊介が口を開いた。
「やはり、父は殺されたんですか?」
「・・・ええ。あなたは、七月六日はどちらにいましたか?会社では、敏朗さんは七月六日の夕方にあなたから電話が入って、慌てて帰宅したようだと証言があります」
「アリバイというやつですか?」
「はい。ですが、アリバイは関係者には全員聴くものです。決してあなただけではありません」
「・・そうですか。確かに七月六日の夕方は父に電話を入れました。彼女と一泊旅行に行くとね」
「失礼ですが、どちらにご旅行を?」
「茨城県の勝田です。彼女と知り合ってちょうど二年になるので、知り合った勝田でデートしようと計画したんです」
「それは、おめでとうございます」
「ありがとうございます」
「何時の電車で?」
山川は明らかにわかるように、ぶっきらぼうに聴いた。
「・・・こちらの刑事さんには、疑われているようですね?」
「気にしないでください。私からもお願いします。何時の電車か覚えてませんか?捜査する必要があるんです。我々にはまだ、これくらいしか、捜査の進展がないもので」
新田俊介の右眉が、かすかに動くのを佐久間は見逃さない。
佐久間はあえて、賭けに出て見た。
「実は、新田敏朗さんが乗車した電車にあなたも一緒にいた証言があるんです。我々は、事の真偽を確認したいだけなんです」
「ーーバカな!そんなことはない!」
新田俊介は、立ち上がり否定する。
山川は、ジッと睨みながら追及した。
「座りなさい。やましい事がないなら」
「まあまあ、山さん。もう一度聴きます。あなたは、本当に新田敏朗さんとご一緒だったんですか?それとも彼女と乗車をされていましたか?」
「・・・彼女とです。七月六日は確か上野駅の十番線で二十時四十一分発JR常磐線勝田行きに乗りました」
「よく、細かく覚えていますね」
「ええ。父がいつ捕まえるかわからない人でしたから、自分の身を守る為に、電車とか乗るときは、覚える癖を付けているんです」
「何か証明出来る物はありますか?」
しばらく、新田俊介は考えていたが思い出したかの様に口を開いた。
「そういえば、発車直後に彼女が後方の車掌さんに勝田行きの到着時刻を聞きました。確認して頂いて結構ですよ」
「何両目におられましたか?」
「はじめは、一番後方の車両です。空きがないので、どんどん先頭車に向かいましたが、何両目に落ち着いたかは、わかりません」
「勝田駅には、何時到着されました?」
「二十二時五十分前だったような」
「それから、どちらへ?」
「ひたちなか温泉 季楽里 別邸です。予約して行きましたので、ご確認して頂いて結構です」
「わかりました。アリバイについては確認させて頂くとして、彼女の氏名を聴いても?」
「・・・川合朋子。二十五歳です」
「ご職業は?」
「看護師です」
「もう一つ教えてください。あなたは、ご自分の父親を決して褒めない。ましてや、疑われても否定しない。何故です?普通は、遺体にすぐ対面を希望すると思いますが、あなたは会おうともしない」
「それは、刑事さん達の思い込みです。世の中には、父親を本当に憎んでいる者もいるということです」
「最後に、下山刑事にはお会いになったことは?」
「・・・知りませんね。刑事に知り合いはいませんから」
「・・・そうですか。今日の所はこの辺にいたします。また伺います」
佐久間と山川は、喫茶店を出た。
「警部?やはり怪しいですな?」
「ああ。奴は何かを隠しているな?とりあえず、アリバイが崩せるかどうか足取りを追うことにしよう。あと彼女にも裏を取ってみよう」
こうして、佐久間たちによる本格的な捜査が始まった。