被害者確認
現場を後にした、佐久間たちは土浦駅に向かった。
昨夜、JR常磐線特急ひたち二十九号の車内で起きた殺人について、福島県警察より捜査協力要請が入った為だ。
「先に行っている捜査員からの情報ですと、身元は割れたようです。また、現在司法解剖中とのことですが、毒物による中毒死以外はまだ判明してない模様です。警部、いわき市か福島市どちらに向かわれますか?」
「解剖結果がまだなら、先にいわきに行って事情を確認しよう。それから福島県警察の捜査本部に向かおう」
こうして佐久間たちは遺体が確認されたいわき市のいわき駅に向かうことにした。
「山さん、いわき駅に行くにはどれが最短かな?」
「はい。いわき駅までなら、この後到着のJR特急ときわ五十七号勝田行きで勝田駅まで行き、勝田駅でJR特急ひたち九号いわき行きに乗り換えれば、最短かと。約二時間で到着するでしょう」
「さすが、山さん。詳しいね」
「警部、いわき駅到着には、まだ時間があります。駅弁でも食べながら、事件を少し整理しませんか?」
「そうだね。一息入れようか」
二人は、車内販売で駅弁を購入し、食べながら、話を整理し始めた。
「山さんは、下山元刑事とは、どの程度捜査が一緒だったんだい?」
「私は、二回程一緒だったことがあります。品川駅付近での誘拐事件、赤羽での連続婦女暴行事件です」
「あの事件か?二つともスピード解決だった。見事な解決だったことは覚えているよ」
「あの時の下山元刑事の読みは的確でした。何故こんなに犯人の心理状況がわかるのか不思議で仕方なかったのを、はっきり覚えています。今のように、プロファイリングが確立していない時代に本当に凄いことです」
「そうだろうね」
「逆に、下山元刑事が解決出来なかった事件があると聞いたことがありますが」
「・・・府中市の誘拐事件だよ。今から十七年前の七月七日、午後四時三十分頃に府中市のショッピングセンターから、当時五歳の男の子が何者かに誘拐された。初動捜査を失敗し、結局子どもは戻らなかった。それどころか、親の犯行が疑われ、周囲の目を気にした妻が自殺する痛ましい二次被害が出てしまった」
「・・・そんな事があったなんて」
「下山元刑事のせいだけではない。私や捜査本部の手落ちでもあったんだ。家族のケアまで出来なかった警察の詰めの甘さともいえる。誘拐が長引く程、そして犯人から身代金要求がない程、家族への負担や疑惑の目が掛かるということを刑事に成り立ての私は、痛感させられた」
程なく、定刻通り、JR特急ひたち九号はいわき駅に到着した。
佐久間たちは、駅舎にて事件を目撃した駅員に当時のことを尋ねてみた。
「警視庁捜査一課の佐久間と申します。福島県警察からも聴取されたかも、しれませんが、遺体を発見した時のことを聴かせてください」
「被害者の方は、切符を確認しましたが上野駅から乗車されていたようです。車掌が、二名分の乗車券を確認しています」
「二名?もう一人は見かけましたか?」
「いえ、確認する時トイレに行っているとかで被害者が二枚提示したようです」
「どなたか、もう一人を見かけた方はいらっしゃいませんか?」
「あいにく、駅員や乗務員に記憶がないようです。鑑識官の方達が、捜査していましたから、それぐらいしか手掛かりがないのではないでしょうか?」
「・・・そうですか。では、発見された時、被害者はどんな感じでしたか?」
「はじめは、遠くから声を掛けたんです。しかし、眠っているようだったので、肩をさすったら、そのまま崩れ落ちたようです。すでに意識はなく、一目で事が切れているのがわかったようです」
「そうですか。ご協力ありがとうございました。また伺います」
佐久間たちは、駅舎を後にした。