七夕の訃報
「すみません。この電車は勝田駅には何時に到着するんでしょうか?少しでも早く勝田駅に着きたいんですが?」
十番線発勝田行き電車が、上野駅を出発してすぐに川合朋子が、車掌に尋ねた。
「二十二時四十八分頃の到着予定です。お急ぎでしたら、二十一時発の特急がございましたが、間に合わなかったようですね」
「いいえ、ありがとうございます。俊介?時間わかって良かったね?」
「ああ。すみません、助かりました。ホテルの時間に間に合うのか気になりまして。連絡を入れるようにします」
「アナウンスでも放送が入りますので、ご注意ください」
新田俊介と川合朋子は、このJR常磐線で、そのまま勝田駅に向かうことにした。
「明日は勝田を久しぶりに探索だ。初めてのデートで行った所も回ろうか?今日は温泉に入って、美味しい食事を堪能しようじゃないか」
「ふふふ。新婚旅行みたいね」
「中々、座るところがないね。奥の車両に移動しようか?空いている座席を探すんだ。時間がかかるから、別々でもはじめは仕方ないなぁ」
新田俊介たちは、奥へ奥へと車両を移動しながら、座席を探した。
〜 一方その頃 〜
佐久間は、珍しく定時で上がり、自宅で夕飯を取っていた。
「今日は、早くて助かったわ。あなたと一緒に見たかったドラマがあったのよ」
「どんなドラマなんだい?」
「科捜研の○よ?あなた好きじゃない!」
「ああ。確かに。リアルに鑑識手法が再現されていて、いい番組だ。あの番組を見た視聴者で未来の鑑識希望者が出ることを期待するよ」
「そういえば、下山さん、退官されてからもう四ヶ月経つけれど、悠々自適の毎日を過ごされているのかしら?」
「どうだろね?畑仕事に精を出すと話していたが、きっと上手くやってるさ」
「明日は、非番でしよ?下山さんのお宅伺ってみない?」
「明日かい?突然伺って迷惑しないかな?」
「下山さんなら、キチッとしているわよ。確か土浦駅から、徒歩でも行ける距離だし。それに外で畑仕事しているかもしれない。不在でも、偕楽園にでも観光に行けば良いじゃない」
佐久間は、思わず笑った。
「どうかした?」
「いや、私は君のそんな明るい所に惹かれ結婚したんだと、昔を思い出したよ」
「そうだったかしら?」
「ああ。そうと決まれば、ドラマを見たら早めに寝なきゃね」
翌朝。
佐久間たちは、少し早めの朝食を取っていた。
「あまり天気がすぐれないわね。やはり七夕だからかしら?」
「天気予報はと。・・・日中は何とか曇で保つようだ。夜はやはり雨か。今年も、織姫と彦星は会えないようだね。早く出発すれば、偕楽園を見たとしても傘なしで戻れるだろう」
「そうね。早めに準備するわ」
その時だった。
佐久間の携帯に山川刑事から呼び出しの連絡が入った。
「ーーーーーー!」
「・・・わかった。山さんは私とまず土浦に行こう。いわきには、先に他の者を行かせるように本部長に連絡を。捜査要請がきた福島県警察にも、私は土浦で捜査してから伺う連絡を」
「あなた、仕事?」
「千春、本当に済まない。多分帰宅は早くても明日の夜以降になりそうだ」
「・・・わかったわ」
千春は、深く聞かない。
刑事の妻だからわかるのだ、これが殺人事件ということを。
珍しく佐久間の方から口を開いた。
「同じタイミングで二件の殺人事件だ。一人はJR常磐線の車内で、昨夜遅くに乗客が死んだようだ。そして・・・」
「どうしたの?」
「もう一人は。・・・・下山先輩だ」
「ーーーーーー!」
千春は、開いた口が塞がらなかった。
「下山さんが?何処で?何故?」
「詳しくは、行ってみないとわからない。私だけ下山先輩に会うとはね」
「・・・私も行きます」
「捜査関係者しか、中には入れないよ。しかもシートで完全に覆われるから、外からも見えないし、変わり果てた先輩を見せたくない。気持ちはわかるが、堪えてくれないか?」
「・・・わかりました。でも、一言だけ」
「何だい?」
「下山さんの無念を晴らして。他の誰でもない。あなたの力で!」
「・・・ああ。千春の想いも一緒にね」