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十七年前の真実 〜佐久間警部の記憶〜  作者: 佐久間元三
エピローグ
15/15

家族の行く末

 事件から、二週間後。


 佐久間と妻の千春は、土浦駅で下車し下山元刑事の墓を訪れた。


「・・・長い十七年でしたね」


「・・・ああ。長かった」


「皮肉にも、十七年前に迷宮入りした事件は下山さんの死がキッカケで、解決したなんて、本当に因果なお仕事だと思います。妻の私ですら、心が折れるもの。でも、一つわからないことがあるの」


 佐久間は千春の顔を見つめた。


「犯人の新田俊介のことだろう?」


「ええ。聴いても良いかしら?」


「ああ。新田俊介は、母親を五年前に失くしているんだ。表向きは病死だ。しかし、実は新田敏朗によるDVが原因で精神が崩壊し自殺したらしい。死の直前に、母親は俊介に本当のことを告げた。子供が出来なかった新田夫婦は十七年前に府中市のショッピングセンターで、俊介を誘拐し、強引に養子縁組にしていたことや本当の親、古田智章の居場所のことをね」


「・・・何てことなの?」


「真実を知った新田俊介は、その日から微量だが、粉末の酢酸タリウムを新田敏朗に盛り始めたらしい。長い年月をかけ、病死するようにね。そして、俊介は本当の家族の元に帰ろうと決意して、古田智章の元を訪れて、驚愕したんだ。荒れ果てた自宅と生気のない親に。本当の父親と直ぐにでも、抱きしめ合い再会を喜びたかった。僕は無事だよと伝えたかったに違いない。しかし、あまりにも現実は幸せと程遠かった。だから、ボランティアと銘打って、古田智章に近付き、真相を確かめたんだ」


「その時、古田智章さんに告げられた下山さんのことを赦せなかったのね。だから、全てを奪った新田敏朗と下山さんを同時に殺そうと計画した」


「その通りだよ。新田俊介も被害者の一人だ。彼はまだ若い。やり直しがきくんだ」


「あなたは新田俊介に声を掛けたの?」


「ああ。身柄を移される時にね」


「何て言ったの?」


 佐久間は、下山元刑事の墓を見つめて静かに答えた。


「罪を償って戻ってきたら、下山さん、俊介の母、古田夫妻、そして私達夫婦の皆で、もう一度再会し酒を飲もう。皆で残りの人生をやり直ししようとね。失った時間は戻らないが、前を向くには皆で助け合えば、決して怖くない。だから、何としても生きて帰って来いと」


「きっと、心に伝わりましたね」


「ああ。必ず顔を見せると泣きながら約束してくれたよ」


 千春は佐久間の手を取り立ち上がった。


 そして、静かに微笑んだ。


「私、刑事の妻で良かった。これからも頑張って、皆を救ってあげてね」


 佐久間と千春は、下山元刑事に頭を下げ前を向いて再び歩き出した。


 これからも、下山の教えは佐久間をはじめ山川、後輩たちに受け継がれていくだろう。


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