新田俊介の逮捕
「おーい、俊介?まだ帰らないのか?」
東京理科大学の研究室で、同期が声を掛ける。
「ああ。研究レポートを書き上げたら帰るよ。ありがとう」
十七時五十分、やっとレポートが終わり、新田俊介は帰宅するために、大学の門を通って、帰途につく。
江戸川台駅に着く手前で、ふと足が止まった。
「お疲れでした、新田俊介さん」
佐久間と山川が新田俊介に立ち塞がる。
「また、あなた達か?どうしたんです?今日は少し疲れていましてね。父を殺した犯人がわかったんですか?」
「はい。新田敏朗さんを殺害した犯人、JR常磐線勝田行き車両の土浦駅での切り離し、JR特急ひたち二十九号との時間差トリック、そして十六分間での下山元刑事殺害の犯人と犯行手順がわかりましたよ」
「ーーーーーー!」
「さらに話すと、青酸カリや酢酸タリウムについてや、十七年前の誘拐事件の真相、誘拐された子供の真相、古田智章さんについてもです。古田さん、もう出て頂いて結構です」
「ーーーーーー!」
古田智章が、姿を現し、その姿を見た新田俊介は、驚きを隠せなかった。
佐久間が、更に説明しようとした時、新田俊介は、手を広げ制止した。
「・・・もう結構です。私が全ての実行犯です」
「・・・俊介」
「一言だけ。何故わかったんです?練りに練った時間差トリックだった。薬の効き目も時間配分に誤りがなかったはず。特急ひたち二十九号では、顔がバレない工夫もしたし、監視カメラの位置にも配慮した。土浦駅では、何度も練習し時間配分を身体に染み込ませた。アリバイ作りのための証言作りも完璧だったと自負しますよ。何故?」
「その完璧さがですよ?」
「・・・?・・・」
「あなたと初めて対峙した時、時間にかなり執着する感を覚えました。時間差トリックを紐解くために、実践しかなり苦労しました。だが、最後のピースである下山元刑事とあなたの繋がりが解けませんでした。しかし、逆にあなたが古田智章さんとの繋がりを現場証拠として残してくれた。その証拠のおかげで、下山元刑事の殺害にまた話が戻った訳です」
「証拠?証拠なんてないはずだ。電話も手紙も証拠は残していない。犯行も一瞬だ。靴も履き替える工夫もしたのに?」
「あなたの靴底に、古田智章さん宅で育てていたアロカシラという外来種の植物の種が残っていたんですよ。この植物は関東では、群馬県高崎市と古田宅でしか確認出来ない程珍しいんです。また、あなたの時間に対する執着心が土浦駅で、一人の記憶に残っていました」
「正直、この証拠がなければこの結末に辿りつけなかったでしょう。それほどこの事件の完成度は高いものでした。でも、あなたと古田智章さんの絆が強引に決着をつけたんだと思います」
「おおおおおお・・・」
新田俊介は、涙を堪えることが出来なかった。そして、古田智章も。
佐久間は山川を見た。山川は、静かに頷いた。
「新田俊介。新田敏朗殺害容疑、下山隆殺害容疑で十八時二十三分、現行犯逮捕する」
こうして、悲しい連続殺人は幕を閉じた。




