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十七年前の真実 〜佐久間警部の記憶〜  作者: 佐久間元三
真実を辿れ
13/15

新展開

 捜査本部に戻った佐久間は、本部長に捜査状況を説明した。


「・・・つまり、佐久間警部の見立て通り新田俊介が一連の犯行を計画、実行している線が濃厚な訳だ」


「しかし、まだ謎が残ります。新田敏朗の殺害は家族間の火種からと解釈が出来るのですが、下山元刑事とまだ若い新田俊介の繋がりが解けません。しかし、十六分間のリスクを取ってまで、計画された犯行には、明らかに殺害に対する執着心が見受けられます」


「二十歳そこそこの若者が、そこまで下山元刑事に恨みを持つとはな。父親が、下山元刑事に逮捕され、家族がバラバラになったという図式なら単純でわかりやすいが・・・」


「手掛かりは、前日、鑑識官が発見したアロカシラの種かもしれません。そちらの調べは如何でしょうか?」


「それについては、時田くん!佐久間警部に説明をしたまえ」


「はい。佐久間警部、お疲れ様です。捜査の結果アロカシラは販売店以外には二件しか植えていないことが判明しました。一件は、群馬県高崎市内の幼稚園です。もう一件は、東京都内の古田智章宅です」


「ーーーーーー!」


「何だって?古田智章の家だと!」


「どうした?冷静な君らしくもない」


「本部長、古田智章とは十七年前の誘拐事件で迷宮入りした被害者です。下山元刑事と私で捜査を担当しましたが誘拐された子供は夫婦の元には戻らずマスコミによって、狂言誘拐と疑われ古田智章の妻、佳子は自殺しました。何故、その古田智章と新田俊介が?」


「もしもですよ?」


 山川が、仮説を立ててみた。


「もしも、新田俊介が誘拐された時の子供で、何かのきっかけで真実を知ってしまい、本当の親子である古田と結託し新田敏朗を殺害したとすれば、一応、辻褄が合いそうですが、下山元刑事とはあまり繋がりません」


「・・・山さん、その仮説。私も浮かんだよ。可能性は低いがね。山さんは、新田俊介の戸籍を調べてくれないか?私は、明日十七年ぶりに古田智章を訪ねてみよう。・・・会いたくはないがね」


「私が行きましょうか?」


「いや、下山先輩がいないんだ。当事者である私が話をしてみるよ」


 〜 翌日 〜


 佐久間は東京都府中市にある、古田智章宅を訪れた。


 十七年前。


 おそらく希望と幸福に満ちていた古田智章の自宅は今では完全に朽ち果て、静かな空気を醸し出していた。


 誰も手入れをしていない庭は、草木で荒れ果て、車は錆つき鉄の塊と化していた。


 佐久間は、躊躇いながらも、チャイムを押す。


 ・・・・・・。返事がない。


 再び、チャイムを鳴らし、反応がないため帰ろうとしたとき、返答があった。


「・・・・・はい」


「古田智章さんのお宅ですか?私は警視庁捜査一課の佐久間と申します」


「・・・・・何か?」


「どうしても、古田智章さんに伺いたいことが。十七年前の件で」


「・・・・・どうぞ、中へ」


 佐久間は、家の中に通された。


「ご無沙汰しております」


「あの時の若い刑事が歳を取ったな?私も一緒か。今さら、何を聞きたい?」


「単刀直入に伺います。新田敏朗、新田俊介、下山刑事に関することで何か最近、耳にしたことはありませんか?」


「あったら、どうする?また、あの時みたくマスコミが私どもを攻撃するのか?妻の命だけでは、まだ不足か?」


「いえ、十七年前のことについては、謝罪以外の言葉を口にすることが出来ません。ですが、今日は全ての謎を解明させる為に伺いました」


「ほう?全ての謎をね?誘拐事件も解決すると?」


「下山元刑事は、退官後、何者かに殺されました。また、新田敏朗も既にこの世を去っています」


「ーーーーーー!」


 古田智章は、明らかに驚いている。


「な、何の話だ?全く話が見えないが?」


「本当ですか?今回の一連の事件についてあなたは全く関与していませんか?それだけを聴くために、伺いました。駆け引きをしている時間は、ないんです」


「・・・・・・・」


「そうですか。こちらの落ち度で昔取り返しのつかないことを犯しました。本日、さらに過去の傷をえぐるような発言をしてしまい、申し訳ありません」


 佐久間は、土下座して謝罪した。


 そんな佐久間の土下座を見た古田は一言ある事を口にした。


「三ヶ月程前、ある若者が私の世話をしに来てくれた」


「ーーーーーー!」


「ボランティアだと。年寄りを見回る隊と言っていたな」


「その時、どんな話を?」


「十七年前の誘拐事件、その後の妻の様子を一所懸命に聴いてメモを取っていたな。メシを作ってくれ、風呂をキレイに掃除し、酒にも付き合ってくれた。まるで、本当の息子が十七年ぶりに帰ってきた気分だった」


「下山刑事のことも?」


「ああ。マスコミのせいで妻を失った儂は自暴自棄になった。誘拐事件を担当した下山がミスしなければ、息子も妻も戻っただろう。それだけに儂は下山を許せんと話をした。本当は下山刑事のせいでないということはわかっていたんだがな」


「・・・・・・・」


「そもそも、府中市ショッピングセンターで目を離した隙に子供を誘拐された我々夫婦が悪いのはわかる。取り戻そうと、懸命に捜査してくれた警視庁にも本当は感謝している。しかし、何かを恨まなければ、私も妻と同じく自殺していただろう。それに、私が死んでしまったら、万が一、息子が帰ってきたとき、誰が息子を助けるのかと考えると死ぬに死ねなかった」


「では、当時の話を話したのは、そのボランティアさんにだけなんですね?」


「ああ。しかし、変なボランティアだよ。他にもどこの家庭を訪ねているのか、聞いたが、ここだけだと」


 佐久間の携帯が鳴った。


「失礼。携帯に出ても?」


「ああ。構わんよ」


「山さん、わかったかい?・・・そうか。わかった。・・・ありがとう」


 佐久間は、古田智章に捜査状況を報告することにした。


「古田智章さん、十七年前の真相が明らかになるかもしれません。その為には、あなたの協力と真実を受け止めて頂く勇気が必要です。全てが遅くなり申し訳ありません。しかし、これでこの事件は解決となるでしょう。ご協力頂けますか?」


「・・・・・・」


「・・・わかった。話を聴こう」


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