トリックを暴け
翌週の金曜日、二十時四十一分。
佐久間と山川は、JR常磐線勝田行きに乗車していた。
「これから、このトリックを使って新田俊介の犯行が可能かどうか検証だ。はじめは、バタバタ移動するから、しっかり付いてきて欲しい」
「わかりました」
車内アナウンスが流れる。
「この電車は、常磐線快速勝田行きです。停車駅は・・・・。次は日暮里、日暮里です。お出口は右側です」
佐久間は、山川に声を掛ける。
「山さん、降りるよ。時間がないので駆け足で、十番線に行くよ。二十時四十六分の上野行きに乗車する」
佐久間たちは、日暮里で下車すると、一気に駆け足で階段を登り、反対の十番線から、上野行きに乗車した。
「山さん、これを」
「・・・?これは、特急券?」
「あらかじめ購入しておいた。前もって用意しておかないと間に合わない。上野駅に到着次第、今度はJR常磐線特急ひたち二十九号に乗り換えるよ」
日暮里駅で乗り換えた上野行き電車が定刻通り、終着した。
「今の時刻は?」
「二十時五十分、三番線到着です」
「間に合ったね。このまま、八時線まで行き、二十一時発のJR常磐線特急ひたち二十九号いわき行きに乗車するよ」
「発車いたします。黄色い線の内側にお下がりください」
JR常磐線特急ひたち二十九号は、定刻通りに二十一時ちょうどに上野駅を出発した。
山川は感心しながら佐久間に話掛けた。
「感服いたしました。このトリックなら、二十時四十一分に上野駅を発車しても、再度二十一時に上野駅から行ける訳ですな」
「ああ。あとは、このまま土浦駅で先に出ていた二十時四十一分発のJR常磐線勝田行きに再び乗り換えすれば完了だね」
JR常磐線特急ひたち二十九号いわき行きは、土浦駅に定刻の二十一時四十二分に到着した。そして、待つこと九分後の二十一時五十一分にJR常磐線勝田行きが到着した。
「完璧です。新田俊介は、このトリックで父親を殺したに違いありません」
しかし、佐久間はここで少し考えた。
「どうされたんです?」
「山さん、ここまでは完璧だ。しかし、我々が到着した時刻は、二十一時四十二分。切り離しが完了する時刻は二十一時五十八分。つまり、十六分間の時間的余裕がある。新田俊介の性格は、かなり時間にシビアであると考えると、もう一つ何かを見落としている気がするんだ」
「もう一つですか?」
「ああ。もう一つの殺人事件も、司法解剖結果からこの時間帯だったはずだ。仮に新田俊介が下山元刑事殺害にも関わっていたとしたら、この空白時間を見逃す訳はない」
山川は、笑った。
「さすがに、それはないんじゃ。十六分間であの下山さんを殺すなんて。・・いや、待ってください。たしか?」
「・・・そのまさかだよ。下山元刑事はこの土浦駅の目と鼻の先で殺された。確か初動捜査の時に聴いた第一発見者の発見を思い出してくれ。あの時、事件の前日に誰かに時間指定で呼び出されたと話していたと証言していた。その指定時間がこの十六分間の時間だったら?」
山川は思わず、生唾を飲んだ。
「十六分間で殺害し、戻って来られるか検証してみようではないか?」
「そうですね。一気に事件解決へと進むかもしれません」




