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Legend  ~伝説~

作者: ヴィセ


「サラ。明日から地球の本社に出張になったんだ。悪いけど準備をしてくれないか?」


 家に帰ってくるなりジェイは妻であるサラに、慌しく支度を頼んだ。


「まあ、急ね?明日から?」


 ここ夫妻が住む火星から地球まで往復で約2週間。


 その間の支度もいるのでかなりの量になる。




「そうそう。少し寄り道して月の『リヴァースシティ』にある支店に荷物を届けなきゃいけないんだ」


 着替えの圧縮、旅行用具の点検などを二人でしながらジェイはサラに「そう言えば」と話す。


「『リヴァースシティ』?懐かしいわね」


 二人が出会った都市の名を聞いて、サラは目を輝かした。




「でもあそこぐらいなら星間電送した方が早いわよ」


 わざわざ持っていかなくても・・・とサラは言いたそうだった。


「うん。そうなんだけど前のが散ってしまったから、本社も警戒してるんだよ」


 散る。それは何らかのアクシデントで送ったものが届かない、いわゆる“郵便事故”のような物だった。


 そしてジェイの所属する支社から再び送ろうとしたのだが、丁度ジェイが地球本社に行くことになり月への荷物搬送をジェイは頼まれた。


 速度より安全性を会社は選んだと言う訳だ。


「ちょっと寄り道して郵便やさんをするのね?」


「だろう?時間があったら何かお土産を買ってくるよ」


「ふふふ。あてにしないで待ってるわ」




 地球が手狭になり、人類が他の星に移住するようになってもう何世紀になるだろうか・・・。


 初めは「月」に、しかしここもすぐに人で溢れ、「火星」、「木星」と、次々に人々は移り住んでいった。そして今では太陽系以外にも手を伸ばしている。




 そして数日後。


 支店に立ち寄るため「月」にジェイは降り立った。


「うわー、変わってる・・・」


 何年かぶりの月は観光地化され、大きく様変わりしていた。


「とにかくリヴァース支店へ寄って荷物を渡さなきゃな」


 ジェイは支店のあるブロックへ行く途中に、最近出来たらしい流行の「古き地球」風の街並みを見つけた。


(ふうん・・・。後で寄ってみよう)




 荷物を無事に送り届け、ジェイは先ほど見つけた街の散策に出かけた。


 太陽のまったく当らない月の街は、人工の太陽により夕暮れを演出されている。


 その夕陽に照らされて、入り口にある金色の鐘が光っている一軒の店があった。




(カラン・・カラン・・・)


 ジェイは何かに誘われるように店内に入る。


 入ってみるとその店はアンティークを扱う店のようだった。


「いらっしゃい・・・」


 店の奥には一見、男性とも女性ともつかない雰囲気の店主らしき人物が座っていた。


 ジェイは店内をゆっくりと見る。


 そしてその中の古い机の上にある「白い何か」が入った小さい瓶たちがジェイの目にとまった。


 一つを手にとって見てみると、中のそれは人工的に作られた「白い羽」であった。




「ご主人、これは?」


 奥に居る店の主にジェイは小瓶を持ち上げ尋ねた。


「とても綺麗でしょう?それは大昔から伝わる、伝説の『天使の羽』を再現したものですよ」


「へえ・・・」




(綺麗だな・・・。サラにお土産に買って帰ろうかな?)


 そう思ったとたん、羽がほのかに光ったような気がした。




「あれ?今この羽が光ったような?気のせいかな?」


「今お客さんはどなたかの事を思われたでしょう?」


 主人が奥から微笑みながら話しかける。




「ええ。確かに妻のことを思いましたが・・・」


「実はその羽は『愛』に反応すると伝えられています。ロマンチックでしょう?」


 本当に光ったかどうかは判らないが、ジェイはその羽の入った小瓶が気に入った。


「ふうん。でも高いんでしょう?」


 主人が言った値段はそんなに高くはなく、十分買える値段であった。






「ありがとうございました」


 瓶が割れないように包んでもらった「お土産」を大事にかばんに入れ、ジェイは店を後にした。


 時計を見ると丁度地球行きのシャトルに乗り込む時間だ。


 エントランスに着くとたくさんの職員が慌しく動き回っている。




(なんかトラブルかな?)


 搭乗手続きをすると、どうもジェイの乗る予定のシャトルが飛び立てないらしい。


「宿泊先をご用意いたしますので、明日一番のシャトルに乗り込んでいただけますか?」


(しかし、明日の朝に着かないと困るんだけどなあ・・・)


 どうしようか、本社に連絡を・・・と思っていると、その姿をみて一人の男が声を掛けて来た。




「お困りのようすだね?良かったらオレのパーソナルシップに乗るかい?」


「あんたは?」


 男は少し胡散臭そうではあったが話に聞く「運び屋」だと見て取れた。


「運び屋」は個人所有のシップを法律すれすれでシャトル運行行為をしている連中だ。


「でも危険じゃないのか?」


 こういったシップは整備不良で事故が多いと噂されていた。


「オレがこうしてここにいるのが安全運行の証明だよ」


 男は片目をつむってみせる。


「それに後一人で満席だ。オレも早く出たいんでね」




 男のシップは定員一杯でシャトルポートを飛び立った。


 正規のシャトルと違って少し乗り心地は悪かったが滑らかに加速する。


 目の前を火星が広がり、やがて反転して地球へと向かって行った。




(とりあえず予定通りに行けそうだな)


 そんなことを考えていると船が微かに振動を始めた。


 やがてそれは段々と激しくなり立って歩けないほどにまで激しく揺れる。




「うわ!な、何だ??」


 他の乗客も口々に不安を口にする。


 明らかにこの振動は異常だ。


 警告音がけたたましく船内に鳴り響く。




(こんな所で僕は死んでしまうのか?)


 火星で一人、自分の帰りを待つサラの姿が頭に浮かんだ。




(サラ・・・ごめんよ・・・君の元へ帰れそうにない・・・)


 そして船の前方から、何かが爆発する激しい光が目に入ってきた。




(サラ・・・サラ・・・!)


 もうダメだと思った刹那、ジェイは耳元で翼が大きく羽ばたく音と、巻き起こす風を感じた。






「・・・!」


「だんな?どうしたんだい?」


 気がつくとジェイはシャトルターミナルに居た。




「・・・。今のは一体・・・」


 辺りを見渡すがそこは間違いなく混雑する待合所だった。


「で、乗るのかい?」


「あ、いや、悪いが他を当ってくれ。そんなに急いでもいないからね」


 男はジェイから離れ、次の乗客を探しに行った。




「今のは、現実?それとも夢?」


 ジェイはとにかく明日には着けない事を本社に連絡すべく、かばんの中に星間通信の携帯を取ろうと手を入れる。




 カチャ・・・ン・・・。




 かばんの中で何かが割れていた。サラへのお土産だった。


「うわー。せっかく買ったのに・・・」


 ジェイは割れてしまった瓶の包みを見てため息をついた。


「まだあの店に同じ物があったよな?」


 どちらにしても今日はここで泊まらなければいけないので、ジェイは電話を済ませるともう一度先ほどの店に向かった。




(よかった。まだ開いていた)


 ドアの鐘を鳴らし店に入ると主人が、


「ああ、先ほどは危なかったですね。お客さん」と、話し掛けてきた。




「え・・・?」


 訝しげに主人を見るジェイ。




「怪しげなシャトルに乗ってはいけませんよ」


 主人は椅子に座り机の上に手を組んでいた。


「何故それを・・・?いや、それよりアレは本当のことだった・・・のですか?」


「貴方の体験は本物ですよ」


 信じられない話だ・・・ジェイはそう言おうとして言葉を飲み込んだ。


「驚かれましたか?先ほど買われた『羽』。あれは本当の『天使の羽』なのですよ」




 初め冗談を言っているように思えたが、ウソを言っているようには見えなかった。


「そんな・・・。あれは御伽噺じゃないのかい?」


「ふふふ。本人が言っているんですから間違いないですよ」


 しかし目の前に居る主人はどう見ても人間だった。




「信じられない。あなたが『天使』だなんて・・・」


「でも事実、お客さんをお助けしました」


「じゃあアレは夢でなく本当の事・・・?」


「そうですよ。今ごろあのシャトルは・・・」


『天使』の主人は顔を曇らせる。




「でも、どうして僕だけを助けてくれたんですか」


「まあ、お掛けになって・・」


 ジェイは勧められた椅子に座った。




「詳しく話せば、先ほどの小瓶は私の分身の『羽』が入っていました。最初、店であの小瓶を手に取られたとき『光った』のを覚えてられますか?」


「そういえば・・・」


「あれは『愛、思う心、いたわり』に感応して光ります。そしてその光った羽は持ち主を守るよう、つまり私の守りを得ることが出来るのです」


「僕は偶然、本物の『天使のお守り』を買ったことになるのか」


 ジェイは背もたれ深く、腰を掛けなおした。




「多分、奥さんの貴方の無事を祈る心と、貴方の奥さんを愛する心がここへ、この店へ貴方を呼び寄せたのでしょう。『羽』をお買い上げいただいたのも偶然ではありません」


 にっこりと極上の笑顔で主人は微笑んだ。




「あ、でもさっきの事故で瓶が割れてしまったんだ」


 ジェイは割れた瓶をかばんから取り出して主人に見せた。


「あれ?羽がなくなっている?」


 包み紙の中から、そこにあるはずの『羽』が無くなっていた。


「身代わりになったのですよ」


「そうだったのか」


 ジェイは感慨深げに割れた瓶を見つめていた。




「ご主人、これを、同じ物をまた一ついただけないかな?」


「本当はお一人一個限りなのですが・・・」


 主人は少し考えた後、「いいですよ。もともと奥さんへのお土産用にお買い上げいただいたのですから」と快く応じてくれた。




「妻も守ってくれるかな?僕を守ってくれたように・・・」


 主人から手渡された新しい小瓶の中の羽がジェイの手の中で再び柔らかい光を放つ。


「ふふふ、大丈夫。貴方の奥さんへの想い、変わらぬ愛。しっかりと羽は覚えましたよ」


「サラへの愛か・・・」


 ジェイは改めてそう言われ、照れ笑いを浮かべた。


「そう。貴方のその優しい心が『天使の羽』となって奥さんを守ってくれますよ」




 そしてジェイは新たに包んでもらった小瓶を手に店を後にした。




~ Fin ~

これは<「羽」と「月の裏側」を使ってお話を作る> 

という「お題」をいただき考えました

でもこの二つ どうつなげればいいの?

そして出来たのがちょっとSF風のこの短編です。

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