お題短編 『涙色』
彼の座右の銘は『俯仰天地に恥じず』。公正明大に生きる、そんな男だった。
彼は一つの会社をやっていた。天然色素100%、人工の色素は一切使っていない染め物屋だった。
天然色素100%である彼の会社の商品は、自然を愛する客に売れに売れていた。
ある日、何のことはないゴシップ誌に彼の会社に関する記事が載った。
天然色素100%を謳った会社が、実際には人工の色素も使っている。
社員たちは、ゴシップ誌の記事など気にすることは無いと口々に言ったが、彼はそうもいかなかった。
そして、検査が行われた。
結果はクロであった。
彼は社員たちを問い詰め、社員たちは真相を話した。
天然色素の原価は高く、利益がほとんど出ていなかったこと。そのために彼には内緒で、人工の色素を混ぜて使っていたこと。
彼は社員たちを家族のように思っていたが、涙を振るって会社をたたむことにした。
そして、最後の日。彼は、社員たち一人一人に声をかけていった。多くの物が涙を流した。
そんな中、ある社員が流した涙が、色素を検出する機械に入り込んだ。
色素が検出された。
これが、涙色が誕生した瞬間だった。
これならいけると思った彼は、新たな会社を起こし、涙色専門の染物屋とした。
水色を限界にまで薄めたようで、かすかなきらめきを持つその染め物は流行し、彼らは今度はうれし涙を流すこととなった。