まさかというまでに鮮烈なその切り返しは是非とも見習わせてもらいたいです、水戸さん
僕ばかり受け身に参加するのもどうだろう。
と、夕方頃にふと思った。
こういうイベントの場合、往々にして僕ははしゃぐ皆に翻弄されているわけだけれど、時には僕も自ら率先して参加してみるべきではないだろうか。
というわけで、居間、僕の向かい側に座って料理教本を読んでいる水戸さんに、思い付きで話しかけてみた。
「水戸さん」
「え、あ、はい」
不意のことで驚いて顔を上げる水戸さんに、僕は神妙な面持ちで言った。
「――実は僕、火星人なんです」
「え……」
あれ、水戸さん、何か本気で引いてませんか。
嘘にしても嘘らしすぎた?
いや、突然すぎたんじゃ?
でも、ここまでのルールに則れば、僕は水戸さんが否定してくれるまで否定できないんだけど……
えっと、と視線を泳がせた水戸さんは、ごくり、と生唾を呑み込んでから、恐る恐る、
「そ、そうだったんですか……?」
「いや違う! 違うよ!!」
思わず全力で否定してしまった。
しまった、ルール違反だ……ペナルティがあるわけじゃないけれど、やはり慣れないことはするべきではないということだろうか。
何だか無性に恥ずかしくなってきてしまった僕は、顔の前で両手を振りながら言い訳するように、
「いや、嘘ですよ、嘘。ほら、今日はエイプリルフールですし」
「ああ……」
合点がいったように、水戸さんは頷いた。何だろう、この空気感。
ま、まあ、水戸さんも僕と同じように受け身側だし、これはボケる相手を間違えたか……
反省していると、あの、と水戸さんがこれも恐る恐る、
「でも、その、ユーヤさん」
「はい」
「今日はもう、エイプリルフールじゃないですよ……? それは昨日です」「ええ!? 嘘!?」水戸さんの言葉に、僕は全力で壁のカレンダーを振り仰いだ。同時に携帯電話も取り出して日付を確認する――て、あれ。
確認した僕が何かを言う前に、水戸さんはにっこりと笑って見せた。
「正解。嘘ですよ。今日はまだエイプリルフールです」
水戸さんの方が一枚上手だったァ!!
僕は脱力してソファに沈み込んだ。あれ、ユーヤさん? と水戸さんがおろおろしているのに、何でもないですと手を振って返しながら、僕は深く吐息した。
確かに、ボケる相手を間違えていた。まさか、水戸さんがこんな鮮やかな返しを見せてくれるとは。恐るべし。
やっぱり僕はツッコミ側の役回りみたいですねー……
「いや、感服です、水戸さん。恐れ入りました」
「え、ええ? な、何がですか?」
敬服のまなざしを送る僕に、水戸さんは本気で戸惑っているようだった。
そんな、エイプリルフールでした。