冗談を言うときは冗談を言う雰囲気を出してくれないと冗談が重すぎて怖いです、田中さん
「ユーヤさん、好きです」
「ダウト」
「正解」
……あれあれ? 何だか結構切ないぞ?
「田中さん、エイプリルフールだからって重いネタ突っ込んできますね……」思った以上に傷ついたぜ。
即答だったあたりがな。
「まあ冗談はさておき、ユーヤさん」何事もなかったかのように田中さんは言う。「そうです、今日はエイプリルフール」
さておいた冗談がどこからどこまででエイプリルフール的にどう判断したものかを考える間もなく田中さんは続ける。
「一年でたった一日だけ、どんな嘘を言っても許される日です」
そうだろうか。いやそれでも、やっぱり限度はあると思うよ?
「しかしその嘘は、嘘とわかりやすい嘘でなくてはなく、なおかつ自ら嘘であることを進言してはいけない決まりです」
そうだったのか。それは初耳だ。いやでも……エイプリルフールの嘘についてはいろいろと枝葉末節があるらしいからな。地域ルールのひとつなのかもしれない。トランプの大富豪みたいに。
「そこで、ですユーヤさん」
「なんでしょう」
「私はこれから十の事柄を言います。しかしそのうち九つは嘘です。ユーヤさんは、たったひとつの真実を見抜かなけらばなりません」
「成程」
どうして見抜かなければならないのかは、さておき。
ちょっとしたゲームですかね。
「ちなみにそれ、見抜けなかった場合は?」
「ユーヤさんは一生、私の奴隷となります」
「一生!?」
全然ちょっとしてませんね!?
かなりハードですよ!?
「ではユーヤさん、ゲームを始めましょう」
「待ったなしですね!」
ちょっと、ちょっとでいいので待ってください。
「それ、ゲームに参加しないという道はないのですか……?」
恐る恐る訊いてみる。おや、と田中さんはやや驚いたような表情になって、
「ユーヤさん、そんなに私の奴隷になりたいのですか?」
「是非参加させてください!」
参加しなかったら一択で奴隷なんですね!?
いや、でもどうだ……? 田中さんの奴隷。
わ、悪くないかも……
いやいや待て待て、それはまだ早いぞ? さすがに奴隷は……
思い悩む僕をよそに、田中さんはさっそく始める。
「いち。私、実は先日宝くじを当てましてね。今私、大金持ちなんですよ」
「ダウト」
「正解」
そんなわけがない。それこそ昨日、僕は田中さんに昼食を御馳走したばかりだ。春休みは学食が開いてないからね。
まあ、このくらいはジャブってものだろう。
田中さんは無表情に頷いた。
「に。実は私、数回ほど浪人していまして。ユーヤさんより年上なんですよ」
「ダウト」
「正解」
田中さんの学生証は、以前既に確認済みだ。
「さん。年上なわけもありませんが、私は飛び級制度を利用しておりまして。実年齢はユーヤさんより四つほど下なのです」
「いや、ダウト」
「正解」
だから、学生証は確認済みで、僕と同い年なんですって。
飛び級制度も、まだこの国にはありませんしね。
「四。お金なんて大嫌いです。見たくもありません」
「ダウト」
「正解。落ちている一万円札を拾っても交番には届けません」
届けてください。
「五。実は私は某財閥令嬢なのですが、妾の子であるために権利がなく、それがために貧しい生活を強いられているのです」
「ダウト」
「正解」
あれ、思わず否定しちゃったけど、そういえば田中さんの実家って知らないかも。
「六。実は私、前世が乙女ゲームの主人公で、女神さまに転生させられてチート無双しなければならない運命なのです」
「ダウト」
「正解です」
もの凄い厨二設定ですね……前世がゲームの主人公って、どういうことですか。
それに、こう言っちゃあなんだけど、田中さんが主人公の乙女ゲームか……
一部僕以外には受けなさそうな。
「七。私、理系女子なんです」
「いやいや、ダウトダウト」
「正解」
田中さん文系ですよ。でなければ僕と接点があるわけありませんし。
「八。実は私――女装趣味の男子なんです」
「え」
反射的に固まってしまった。
思わず田中さんを足先から頭頂まで凝視してしまう。
田中さんが、実は男?
「…………!」
いや、悪くない!
悪くない! けども!!
「ダ……ダウト」
やや及び腰の僕に、田中さんはにやりと笑った。
「正解です」
安堵。けれどほんのわずかに残念が混ざっていたのは、ここだけの秘密だ。
「九問目、ですが、ここまで全て正解していますからね」
淡々と、田中さんは言う。僕がここまで全問正解していることなど想定の範囲内、みたいな。
まあ、わかりやすい嘘ばかりでしたからね。僕だって大丈夫ですよ。
それに、そう、田中さんの言う通り、残り二問。ということは。
「次の九問目を正解すれば、自動的に十問目も正解ということになります。つまり、次の出題がユーヤさんが私の奴隷となるかどうかの境界線」
軽く言ってくれるけど、それは結構ヘヴィなラインだぜ。
だが大丈夫!
田中さんの奴隷というのもなかなか悪くない響きだけれども!
誘惑には負けないよ!
「それでは第九問目」
田中さんは言った。
「私には、今、好きな人がいます」
「――え」
ええ!? いるの!? いるんですか田中さん!?
誰!? 誰!?
いや、待て、この企画は田中さんの嘘を見抜くというルールだ。どっちだ……いるのか? いないのか?
…………!
駄目だ! 見抜ける要素がない!
だってこれまで田中さんは、そんな素振りはひとつも……
ええ……?
戸惑いに戸惑った僕の口は、結局これまでの勢いのままに、口走っていた。
「ダ……ウ、ト?」
果たして正解は。
田中さんは、にやりと笑った。
「残念。不正解でした」
ええ……!?
その不正解の意味するところを僕が理解するよりも先に、とりあえず。
僕が一生田中さんに尽くすことが決定した瞬間だった。
「とはいえ、一生奴隷になるというのも実は嘘でしてね。そこまでのものは、さすがに求めませんよ」
と、肩をすくめながらあっさりと前言を翻す田中さん。
僕はまだ呆然としたままだ。
「ですが、そうですね。罰ゲームはほしいですよね。……ではこうしましょう。ユーヤさん、昼食はまだでしたね? 私に昼食を奢ってください」
「……え、あ、はい。わかりました」
ガクガクと、僕は頷いた。
あれ、何かうやむやになっているけれど、ええと、つまり、これはどういうことなんだ?
「……あー」
よくわからなくなっちゃった。
とりあえず僕は、田中さんと連れ立って昼食を摂りに出かけることになりましたとさ。




