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言葉  作者: 弘
鳩時計
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鳩時計 優等生

 「動かしてよかったんでしょうか?一部の先生たちが異常に反応してるので気になっちゃって。」

大人である先生が気にしている。それだけで根拠もない不安に駆られる。

「鳩時計の演出は俺もどうかと思ったんだけど、どうやら俺たちの意図しないところで何かが起こってるみたいで。」

「他に動かした人がいるってことですか?」

茜は更に不安そうな顏をする。

睦は首を横に振った。

「現状よく分からないんだ。ただ茜ちゃんの最初の質問に答えるとしたら、大丈夫だよ。」

茜は一瞬,腑に落ちない顔したが、

「織田先輩がそう言うならもう気にしません。」

そう笑顔で答える。

「素直でよろしい。一翔の幼なじみとは思えないなぁ。」

「僕はいつも冷静かつ現実的に判断してるだけです。後で聞かせてもらいますよ、僕たち意外に動いてる者が何なのか。検討ついてるんですよね。」

四人は話し込んでる間に図書室に到着していた。出入口付近にいた一翔まで会話が聞こえたようだ。

「これこれ。かわいくないんだよ。」

「だから、敵が多いんですこの人。」

一翔は自分の悪口に付き合う気は全くないという表情でさやかに声をかけた。

「会議のノート見せてくれないかな。持ってるよね。」

「もちろん。」

お礼を言ってノートを受け取る。

「時間ないですよ先輩。」

とっととやるぞと言わんばかりの視線を睦に送り、図書室へ入っていく。

「朝から、睨まれてやんの!」

「おっかねー。今日は二回目だ。」

運動神経をからかったとき。

「でも、今度は何を怒ってるんだろう。素直じゃないって冷やかしたからか。」

睦の疑問に茜が答える。

「たぶんですけど織田先輩、一翔にクイズみたいな問題出してませんか?」

(登校中のあれか?)心の中で睦はつぶやく。

「・・・そうかも。」

やっぱり。という顔になる茜。

「茜、どういうこと?」

さやかも気になるらしい。

「一翔って賢いから、数学や物理の問題は参考書や先生の解説を聞けば解いちゃうのよ。でも、」

「でも、織田部長が考えていることは分からないから腹を立てる。そういうこと?」

さやかが途中から答える。

「そう。今まで何でも冷静に第三者の目で判断してきたから。家族や自分のことですらね。あの家で育ったらそうもなるけど。だから、最初は理解できなくても最後には納得させられる答えがある織田先輩の発言は一翔にとって、すごくもどかしい言葉ことなんだと思う。」

「なるほど。」

さやかが納得する。

「じゃあ、その副部長あいかたに愛想尽かされる前にとっとと最終打ち合わせしようぜ睦。」

「おう。」

すると、図書室の中を覗いながら茜がぽつりと言う。

「だけど、一翔変わりました。以前はこんな熱心に物事をやることなんてなかったから。」

「そう言われると。」

さやかも同意する。

「そうなの?何でも真面目にこなす優等生!って感じじゃん一翔って。」

雄太が、眼鏡をかけてないが眼鏡のズレを中指で直す真似ごとをする。

「一翔も眼鏡かけてないから。眼鏡は俺だ。」

睦が突っ込む。

「真面目なんだけど必要最低限のことはしない、要領だけいい優等生だったかな。」

眉間にしわをよせた顔から、さやかにとってかつての一翔が良い印象ではなかったことが覗える。

「中学一年生のとき同じクラスだったんです。かず君は学級委員長でした。ある日クラスメイトの財布が無くなって、学級会を開いて話し合いになったんだけど、なかなか犯人が出てこなくて時刻もかなり遅くなって。そんなときかず君はバイオリンの練習があるからって、帰ったんです。そもそも財布を持ってくることが校則違反だから時間がもったいないと、最後にそう言って帰ったんです。」

「言ってることはごもっともだし、一翔らしい意見だな。でも、責任感と人情に欠けるって?」

今の話を聞いて雄太が当時さやかが感じた気持ちを推測する。

「それで、みんなはかず君が内申書のために学級委員をやってると思ったみたい。それ以降、生徒の意向でクラス会が開かられることはなかった。」

「利己主義の学級委員長と思われちまったわけか。ま、今は違うからいいんじゃないか。」

雄太が一翔を擁護する。茜が続ける。

「ここ一年間くらいかな、変わったの。去年の林間学校行ってから少しずつ。」

茜は睦を見る。

「睦が強制的に全員参加にしたあの林間学校か。それでも来ないやつもいたけどね。」

雄太が真相を話す。

「茜ちゃん俺を見てるけど、参加したのは一翔の意思だよ。」

「でも、織田先輩がいなかったら一翔はきっと参加しませんでした。」

さやかが疑問を口にする。

「でも茜、あのころは睦先輩とかず君の関係って他人レベルじゃないの?」

うーん、目を細めながら雄太が思い出す。

「前部長が夏で引退したから、そこから睦が部長やることになって、いきなりあの企画だったな。確か。生徒会が主催で学校の所有してる山の中のログハウスでやったっけ。さやかもまだ、部員じゃなかったな。」

「はい。私はあの時はまだバレー部で。茜に誘われて行きました。」

ふと雄太があることに気付く。

「あれ?あの林間学校、今回の文化祭に協力してもらう部活はみんな参加してんなぁ。あのときから生徒会長も健悟だし。」

「睦。あれも何か企んでたのか。」

睦を指す。

「こらこら指すんじゃあない。企むって…特にないよ。」

「どうだか。睦が動くときは明確な動機があるからな。」

雄太が騙されないぞという顏をする。

「計画的に行動する性質(タチ)なもんで。」

雄太と目を合わさないようにする。

「去年の夏かぁ。八月上旬ですごく暑かったなぁ。」

笑みを浮かべる茜。

「茜はかずくんにおぶってもらって、更に()かったね。」

「さやか、見てたの?!」

茜の顔が赤くなる。

「そんなロマンスなことがあったのか!」

「はい、ハイキング班はそんな感じで。」

やられたという顔で雄太が

「俺が負ぶってあげたのになぁ!」

「そんなんじゃないんですよ。あれは仕方なく…」

言い訳を始める茜。

「確かにあの時からずいぶん変わったな一翔。」

睦は思い返している。

「茜ちゃんをおぶってからか。」

雄太がからかう。

「もう、そのネタ止めてくださいよ!というか、話が脱線してます。一翔と織田先輩の関係の話でしたよね!」

「そうそう、あの林間学校以降だな一翔が図書室に来るようになったの。」

茜をからかった罪滅ぼしのため、雄太が話を戻す。

 噎せ返るような暑い夏。そして森の匂い、川のせせらぎ、涼しい風が吹く夜。すべてが新鮮だった。去年の一翔はあの自然に触れ、生きてることの神秘に気付いていった。

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