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第8話 : 手がかり

 四月の海の公園は、昨年の十一月に来た時の雰囲気はなく、懐かしいはずのその場所は、何故か見知らぬ場所のようだった。

 拓郎は考えあぐねて、藍が行きそうな「唯一の場所」、二人が出会った神奈川の「港が見えるヶ丘公園」に来ていた。

 一斉に芽吹き始めている、新緑。吹き抜ける風の爽やかさとは対照に、拓郎の心は晴れなかった。

 思った通り、藍の姿はそこにはなかったのだ。


「何処へ行ったんだよ、藍……」


 成す術もなく、拓郎は長いことその丘に立ちすくんでいた。

 フッと、あの時のように藍が現れるような気がして……。あり得ないって事は分かっているのに。


「はっ!馬鹿だな……俺もそーとーだな!」


 憎たらしい程澄み渡る空を仰いで、喚き散らしたい衝動に駆られた。


 ――もう二十八になろうっていう大の男が……。こんな時、男は情けなくていけない。


「おにぃちやん、しばさき たくろう、っていうの?」


 舌っ足らずの可愛い声が、後ろから拓郎を呼ぶ。

 少なからず驚いた拓郎は、五、六歳のその女の子の視線に会わせて、かがみ込みながら訪ねた。


「……君は?」


「はい、これ、おにぃちゃんに、わたしてくださいって」


 小さな紅葉みたいな手が、白い紙を差し出す。


 ……手紙?


 それは白い便せんだった。

 開くと、淡い色彩の向日葵の絵が目に入った。


「!」


 拓郎は、その手紙の主が藍だと直感した。


「これを、渡すように頼んだのは、女の人かい?」


 ――藍はここにいる。ここに来てるんだ。まだ近くにいるかもしれない!


「うん! かみの毛のね、とってもながーい、おねぇちゃん」


 ――藍だ!!


「その人は、何処にいるの!?」


 拓郎は焦った。こうしてる間にも、どこかへ行ってしまうかも知れない。


「あのね、おおきな、おくるまで、いっちゃったの」


「車!? どんな車だい?」


「うんと、ね、くろくて、おおきくて――」


「舞ちゃーん」


 若い、母親らしい女性の呼ぶ声がした。


「ママだっ!」


 少女は弾けるように、声の方に駆け出した。


「あっ! 待ってく……」


 拓郎は、少女を呼び止めようとしてやめた。


 ――同じ事だ、あの子にこれ以上何を聞いても。

 藍は行ってしまった。自分がここにいる事を知っていながら……。


 拓郎は、手に残された見覚えのある、向日葵柄の白い便せんに目をやる。


『I県 T市 東台111

 日掛 生物研究所』


 そこに書かれていたのは、それだけだった。



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