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って、そんなやわで乙女ちっくな育ちしてないわ!!
右足を前に振り上げて、思いっきり後ろに蹴りあげる。
「…ぅぐっ?!」
私の右足がびゅおん、と風を切ってやつの股関にキツい一発をぶちかます。
変態の足が長すぎて、もしや届かない?と不安になったけど。
そこは火事場の馬鹿力。かなり前のめりになって、かかとでかっこよく決めるはずが、ふくらはぎで捉えましたよ。ぐにゅっ、と嫌な感触を。
奇声をあげる変態の腕から見事に解放された私は、その瞬間に脱兎の勢いで駆ける。
アパートの廊下を走り抜けて、階段を転がる様に駆け降りて。
んで、気がついたら。
アパートのピンクのドアの前にいた。表札は佐々木。
そうです。困った時の神頼み。神様仏様唯様なのです。
ぴんぽーん。
…。
ぴんぽーん。
……。
「まさか、不在?」
ぴんぽぴんぽぴんぽぴんぽ「うるさいわぼけっ!」ーん…
あ、いたのね。
軽く頭をどつかれてから、首根っこ掴まれて部屋の中へ。
ねえ、何気にけっこう怒ってる?
「で?」
ふかふかのラグに座り、テーブルに置かれた熱そうなココアに手を伸ばして。
案の定熱かったココアに、ひぃひぃ舌を出していた私に、唯は冷めた目で問いかけてきた。
「…で、と申しますと?」
ぎろ、とアイラインマスカラバッチリの目で睨まないで。怖いの本当に。
「ご、ごめんね…まさかぴんぽん連打でそんなに怒るとは思わなくて…」
「違う」
「え?」
じゃあ、何でそんなに怒ってるの?
「昨日、学校で別れてからメールしても返って来ないし。夜に電話しても朝に電話しても出ないし。今までずっと連絡なかったから…心配してたんだけど?」
「………はい?」
えっ?今の聞き間違い?
「ちょっと待って!私変態に捕まって、逃げて…外に出た時、唯と別れた時から時間変わらない感じだったよ?夕方でちょっと肌寒くて…」
慌てながら喋る私の話の内容を聞いて、唯の眉にしわが寄って、眼光が鋭くなる。
「…変態?捕まって、逃げた?…知恵里、それどういう事?」
「………あ、…」
肩に手を置かれて、ぎゅうぅーっと力強く掴まれる。唯が怒ってる時によくする癖。地味に痛い。
「幸い、今日と明日はお休みだし?じーっくりお話を聞かせていただこうかしら?」
唯の後ろに、どす黒いオーラが見える。
どうやら私、魔王を降臨させてしまったみたい。




