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「んっ…や…っ」
熱い唇が押し付けられる。逃げても、また唇をふさがれて、吸い付かれる。
キスの合間に漏れる吐息が艶めかしくて、どんどん体が熱くなっていくのを感じる。
嘘。こんなの知らない。
キスって、もっと可愛らしいものだと思ってた。こんな、激しくて、苦しいものだったなんて。
「や…っ!」
必死に顔を反らして、彼から逃げる。
ちゅっ、とリップ音を残してようやく私の唇は自由になった。
はあ、と吐息がこぼれた。キスの間中、ずっと呼吸が上手くできなくて、苦しくて仕方なかった。
彼は荒く呼吸を繰り返す私の髪を優しく撫でると、また唇を寄せてきた。
「やだっ」
押し返そうとする腕を掴まれ、拒絶の言葉を吐こうとした唇を再度ふさがれる。
びくっと、体が固まった瞬間に、唇を少し開いてしまった。
それを逃さず、する、と何かが入ってくる。
―――――!?
まさか…っ。
そんな、と思ったと同時に、入ってきたそれを噛んでしまっていた。
「…っ!」
口を押さえて、私から離れる彼。
舌に感じる血の味に、彼を傷付けた事を知る。
「わ、私……謝らないっ、から、ねっ…?!」
ぜぇぜぇ息を乱しながら、彼を睨み付ける。
彼は、私を見つめたまま動かない。熱に浮かされた様な、うっとりとした目をしながら。
――――ぞくっ。
寒気を感じたのは、絶対に気のせいじゃない。
「すまない…」
……?
イケメンの意外な言葉に、私は眉を寄せる。まだうっとりとした表情は変わらない。…言葉と表情にギャップがありすぎる。とても人に謝罪をしてる顔じゃない。
「知恵里はキス、初めてだったのか。…初めてじゃなかったら、相手を殺しているところだったが。…初めてだというのに、無理をさせて悪かった。息の仕方もわからない、知恵里の初な反応が可愛すぎて抑えがきかなくなってしまった。すまない…それと、俺を噛んだ事は気にしなくていい。お前の体内に俺の血が混じるだなんて…夢のようだ…」
―――――えっ…。
私、耳壊れたかもしれない。もしくは、脳味噌が沸いてしまったのかも。
だって、意味わかんないんですもん。
ぼけっと放心している私を、イケメン、いや、変態がそっと抱き締めてきた。
「いきなりで怖かっただろう…大丈夫だ、俺はこれ以上は知恵里がいいと言うまで待つつもりだ。最後までいかなくとも、愛を伝える術はある。」
………はい?!
「今度の休みには知恵里のご両親に挨拶に行こう。結婚を真剣に考えている事を伝えておきたい。」
えっ?!
「ご両親の承諾がとれ次第、これを役所に出しに行こう」
さっきの艶っぽさとは大違いで、背後に花でも背負っていそうな笑顔を浮かべて、変態がベッド脇の書類棚からいそいそと白の封筒を取り出す。
更に中から二つ折りの紙を取り出し、ぺろんと私に広げて見せる。
…これ、婚姻届じゃないですか。しかも全部記入済み。(妻の記入欄に私の氏名住所生年月日その他諸々まで全て完璧に!判子まで押してある!)
――――私、あなたに会ったのは今日が初めてじゃなかったっけ?